※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 かなり強いワインを勧めた甲斐あって、若林くんは眠そうな顔をしている。と言っても、寝室に戻ろうとする気力が残っている辺り、さすがだ。足元も全く危なげないけれど、強いて手を貸して寝室までついて行った。ここまでの段取りは我ながら完璧だ。 共犯の瓶にワイングラスやおつまみ代わりのおかずを片づけて、テーブルを拭く。いよいよだ、と胸が高鳴って落ち着かない。僕は足音を殺し、物音を立てないように細心の注意を払いながら、もう一度若林くんの寝室に入った。
独り暮らしにしては広い、持ち主いわく当然の贅沢、のこのベッドに潜り込むのも慣れたものだ。 初めて泊まりに来た日に、ドイツの予想外の寒さに震えた僕は悪戯心もあって、この部屋に忍び込み、そっと若林くんの横に潜り込んだ。静かに、起こさないように、と注意を払ったつもりだったが、廊下を越えて僕の連れてきた冷気に、若林くんは驚いたように急に身をすくめた。 「んんー・・・どうした?」 寝ぼけたような声が、若林くんらしくないと思った。普段隙を見せないだけに、失礼かも知れないけど、何だか可愛く思えた。 「寒くて・・」 小さくそれだけ答えると、若林くんは黙って僕の体を引き寄せた。触れ合ったところは本当に暖かくて、その分少し躊躇してしまう。冷え切った体で起こしてしまうのは忍びなかった。 「岬、寒くないか?」 若林くんは僕の不安をよそに、僕の肩に腕をまわし、包んでしまう。すっかり抱き寄せられた腕の中、何故か子供の頃のことを思い出した。 「あったかいよ」 あまり言葉にならなくて、それだけ口にすると、そのまま目をつぶった。
その次の夜には、若林くんから 「そろそろ寝るか」 と誘ってくれて、一緒に寝室に連れて行ってくれた。そうじゃなかったらまた夜中に忍び込むつもりだったと告げたら、若林くんは苦笑いしていたけど。 若林くんの隣は本当に暖かい。しかも時々寒がっている僕を見つけて、しっかりと包んでくれる。若林くんの腕の中は本当に暖かくて、すぐに眠くなってしまった。
でも、昨日の夜中に目が覚めた僕は、ふと気付いた。いつもの超然とした雰囲気からは考えられないことに、若林くんは反対側を向き、ちょっと丸まって寝ていた。暑くて離れたのかな?と思いながら、上半身を起こす。それだけで冷えた空気を受けて、目が冴える。意志の強そうな目を閉じると、意外と長いまつげのせいで、眠る若林くんは何だか少し幼く見えた。
何だか可愛いと思った。
僕は、若林くんのおでこに張り付いた前髪を上げた。わずかに汗ばんだ額を手で拭い、軽く口づけてみた。
自己嫌悪に苛まれながら、横になる。どうしてそんなことをしてしまったのかと悔やむ気持ちはある。それなのに、横になっても、全身を燃え上がらせるような熱がひかない。痛い程の鼓動が収まらない。息苦しい程締め付ける胸に、喉が掠れるような渇きが静まらない。 耳を塞いで、丸まった。その時、僕が動いたせいか、若林くんは昨日と同じように僕を抱き込んできた。
寒くはないんだ。むしろ、熱い。 でも、まわされた腕はいつものように暖かく、ゆっくりと温もりが染み込んでくる。
もう駄目だ。そう思った。悪戯心だと思っていた気持ちは、その瞬間ハッキリと名前を変えた。
その次の日に帰る予定だった。帰る支度をしながら、心はひと所に縛られたまま。 もう来るべきじゃない、と弱りそうになる心ごと、唇を噛む。
三年ぶりに再会した日、本当に色々話した。お互いの知らない三年間のこと、懐かしい友達のこと。その時に、その話も出た。 「付き合っている人とかいるの?」 隣の席のカップルがあんまり煩いのと、若林くんのバッグに不釣り合いな可愛いキーホルダーがぶら下がっていたから、つい聞いてしまった。 「今はいないけど好きな奴はいるぜ」 機嫌の良さそうな口調に、そうなんだ、と相槌を打った。三年ぶりの若林くんは随分大人っぽくなっていて、そういうことも不思議ではない。小学生の頃は「そんなこと言ってる暇があったら走れ」って雰囲気だったのを思い出して、笑いそうになるのを我慢する。それで、またキーホルダーを眺めた。 「あ、これか?日本から送って来たんだ。修哲小オリジナルグッズだってさ」 僕の視線を辿ったらしく、若林くんはキーホルダーの由来について教えてくれた。こういう洞察力も相変わらずだと思っただけで、何となく続きは話さなかった。
思い返すまでもなく、楽しそうだった。何の気なしに話を振ったのは僕だけど、それ以上は踏み込めなかった。 若林くんにはすでに好きな相手がいる。今になって好きだと思っても、今更想いを寄せても、三年ぶりに再会しただけの僕では敵わない。 もう来るのはやめよう。何度か遊びに来て、楽しかった。嬉しかった。それで良い。 どうしてか分からないけど、熱を帯びたように痛む目元を擦りながら、荷物の最終確認をしていると、不意に手元が暗くなった。 「岬」 窓からの明かりを遮る、背後に立った人影に、僕はゆっくりと顔を上げた。もう一回目元を擦ってから振り返る。 「どうかしたのか?」 「目に何か入ったみたい」 赤くなっているに違いない目をごまかす。そして、まともに顔を見られない後ろめたさを。 「大丈夫か?」 「うん。若林くんって心配性だね」 わざと明るく言って、若林くんを見上げた。 「見ようか?」 手を置かれた肩が熱い。焼かれる恐さとぬくもりに惑うけれど、振り払う勇気もなく。 「ありがとう、でももう取れたみたい」 気取られないように言って、背を向けて確認を再開する。とはいっても、忘れ物がないか確認するだけの単純な作業だ。頬にまわっている熱を自覚しながら、何とか作業に集中しようとする。 「なあ、岬」 「なに?」 できるだけ平然と振る舞うけれど、激しくなった鼓動はなかなか戻ってくれない。 「また、来るよな?」 当たり前のように笑いかけられて、頭の中で熱が弾けた。 「うん」 条件反射で返事をしてから、少しも冷静になれない頭で、改めて気付く。荷物の確認なんてしたくなかった。まだ側にいたい。 「あのさ、もう一日だけ泊まらせてもらっても良い?」
若林くんは二つ返事で頷いてくれた。 「俺は嬉しいけど、岬は大丈夫なのか?」 聞いてくる若林くんは本当に嬉しそうで、良心の呵責に苦しみながらも首を縦に振る。 「もちろん。今日程確認したらあと一日くらいは大丈夫そうなんだ」 「そうか、それなら良かった」 若林くんは時々、すごく人懐っこい笑顔を見せる。普段が毅然としていて、人を寄せ付けない雰囲気があるだけに、ふっと笑った瞬間の顔は印象的だ。 「だって、頼まれたお土産のお菓子、あと二つたりないもん」 聞くだけ聞くけど、期待しないでね、と言い置きしたクラスメートの分まで、口実にした。若林くんは口元を緩めて、じゃあ後で買い物行こうぜ、と誘ってくれた。
不必要な買い物に、晩御飯のおかずの足し、それにワインを買った。僕も知っているフランスワイン。美味しいけれど、かなり強いと聞いていた。
若林くんはよく眠っている様子だった。アルコールのにおいがきつくて、このにおいだけで酔ってしまうんじゃないかと思う程。ゆっくりと隣に滑り込み、それから気持ちよさそうに寝ている横顔を眺める。男らしく整った顔立ち、立派な首に高い鼻梁。いずれも僕にはないものだ。見かけよりも触り心地の良い髪を梳いて、額の汗をぬぐう。昨日よりもずいぶん汗をかいているようだ。そして僕も。 汗ばむ掌で、若林くんの頬に触れた。いつもは暖かく感じるのに、そうでもないのは僕の体温がいつもより高いからかも知れない。指先が震えないように意識しながら、そっと顔を近づけた。触れた唇は思ったよりも柔らかくて、心臓が跳ね上がる。 触れるだけの口付けを繰り返す。壊れるかと思った心臓も落ち着いてきたのを感じて、僕は羽織ってきただけの上着を脱いだ。若林くんを起こさないように、中途半端に着替えさせたシャツも脱がしてしまう。ベッドの下にわざと乱雑に落とした二人分の衣服が絡み合って床に広がるのを、何となく見続けた。
(つづく)
拍手ありがとうございます。 眠い。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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