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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
黒鳥(5)
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。
最終回。

5

 翌朝目を覚ますと、岬は隣のベッドを見た。若林なのは一目で分かる大きな山に、すぐ飛びつけないのを残念に思う。
「ん、起きたのか?」
「うん。おかげでゆっくり眠れた」
薬が効いたにしろ、気が紛れたのは良かった。ぐっすり寝て、良い夢を見た。
「それは良かった」
安堵で頬を緩ませる若林に、岬も笑顔を見せる。夢の中で、頭をくしゃくしゃにされても、良い夢だった。
「どうした?顔赤いぞ」
「熱はないと思うけど・・」
いつもなら、からかわれそうな場面だが、三杉の体はこんな時には便利かも知れない。岬は話を変えようともう一度横になろうとし・・・そしてベッドサイドに置き忘れられた本を見つけた。
「若林くん、その本取って」
「おまじないの本か?」
「真顔で言わないでよ。恥ずかしいだろ」
「・・・確かに恥ずかしいな」
そう言いながらも、素直に手を伸ばし、若林は本を手に取った。長い手を伸ばし、岬に手渡す。
「ありがとう・・・えっと」
女の子向けらしい、可愛らしいピンクの表紙の本を受け取った岬はペラペラとページをめくり、それからあるページで指を止めた。
「あった!」
目を輝かせてページを見せる。若林が覗き込んだページには、「おまじないのとりけしかた」と書かれていた。


 若林が三杉を呼びに行くと、三杉はすでに翼と練習をしていた。

 岬とのコンビプレーの練習ではないのは明らかで、岬の姿の三杉は、普段の三杉からは想像できないようなパワープレーで翼からボールを奪った。リミットを外した三杉はさすがに天才の名をほしいままにしただけのことはあり、翼をも翻弄する。
「また、取ったよ、翼くん」
「さすがだね、三杉くん!三杉くんと走れて俺、嬉しいよ!」
岬の模倣ではなく、三杉としてのプレーをする。それが翼が三杉に課したもう一つの約束だった。三杉の執着を、心臓病で走れないことへのルサンチマンと解釈したらしい。

 その誤解を解くでもなく、三杉は楽しそうに走っている。その顔があまり楽しそうで、いつもの岬を連想させられて、若林はしばらく声をかけるのをためらった。


 何歳対象の本だよ、とぼやきながら、若林はひらがなの手順を読み返す。
「おまじないでつかったかみをびりびりにやぶり・・・岬、交代」
「もう?まあ、いいけど。もやしてはいにうめたあと、つちにうめるか、かわにながします。ひのあつかいにはちゅういしてね」
「ね、の後のハートマークはどうした」
「別にどうでもいいと思うけど」
「いや、そこはあえてしっかり再現するべきだと思うぞ」
どうでもいい主張を始めている若林に、岬も本来の持ち主が浮かべていたような呆れ顔で応じた。三杉ほど威圧感はないが、静かに呆れ顔を向けられて、若林はおとなしく口をつぐんだ。
「火気は厳禁なんだけどね・・・」
管理者の表情で言いながらも、三杉は細かく破って鉄皿に載せた紙に火をつける。几帳面に細かくしたおかげで、火はあっという間に鉄皿一面を包み、中の紙を赤く染めていく。それが灰と化すまではあっという間だった。

「岬くんまで付き合ってくれて、ありがとう」
合宿所の敷地内を流れる、川とは言えない川に灰を流す。三杉は付き添いに来た岬に頭を下げた。
「一応、見届けたいからね」
本当に効果があるかはわからない。それでも、部屋で一人不安にかられるよりはずっと良かった。
「岬くんは優しいよね」
「そうでもないよ」
岬は三杉の方を見ようとはせず、流された灰が水の中に消えていくのを見つめた。
「僕は甘いだけ。三杉くんみたいに走ろうとは思えない。やっぱり三杉くんはすごいよ」
そう言いながら、いつもの三杉をよく知る者が見れば驚くであろう微笑をたたえて、岬は静かにほほ笑む。岬がいるせいか、翼も若林も昨日の振舞をおくびにも出さずにおとなしくしている。優しい猛獣使いの手腕を見せつけられた思いで、三杉は唸った。


 眠る時には、確かに隣のベッドだった。

 目を覚ましたのと同時に、岬は隣のベッドに目を遣る。隣のベッドの山はさほど大きくはなく、占拠者が代わっていることが分かった。それから、岬は息を吐きながら、ゆっくりと身を起こした。ここ数日で身についた習慣だ。それから足元の荷物を見て、自分のバックから手鏡を取り出した。ベッドサイドのランプを点けて、手鏡を覗き込む。
「あ・・・」
そこにあるのは予想通り自分の顔だった。薄明りで、着ているパジャマや手足を確認する。手首や腕は同じくらい細いが、腕にリストバンドの日焼け跡がある、とか合宿所内で貴重なパジャマ組だが柄が違う、とかそういう事実を積み重ねていく。何より、あの万力の上にずっと吊り下げられているのではないか、という苦しみは消えていた。
「はあ・・・」
安堵のため息が漏れる。ランプの隣にある時計を確かめ、起床時間には少しだけ早いことを悟って、岬はもう一度小さな手鏡を取り出し、自分の姿を映し出す。見慣れた顔は微笑んでいて、岬はほっと息をついた。


 隣の部屋に向かう。隣の住人はカギをかけ忘れることはないが、自分のために開けてくれるだろうことは岬はよく知っていた。音を立てないようにドアを開け、それから奥の方にあるベッドに向かう。

 大きな体を包む繭のような布団をそっとめくる。
「・・・なんだ?」
寝ぼけているのか、不機嫌そうな声を発する唇に、そっと指を押し当てる。
「寒いから、入れて」
そのまま暖かい布団にもぐりこんだ。若林は一瞬目を開けたものの、すぐに目をつぶって岬の肩に腕をまわす。
「もっとこっち来いよ」
「うん・・・」
起きているのか寝ているのか、判別のつかない声で若林が言う。それでも、優しい口調は自分に向けられている言葉だと、岬は思った。肩にまわされた手の角度はまったくいつも通りで、こめられる力はいつもよりも強いように感じる。
「ねえ、もっと抱きしめて」
だから、岬もいつもよりは少し大胆に呟いたのだった。

(おわり)

拍手ありがとうございます。
一応完結。タイトルはバレエから。同時期にいくつか並行で書いていたのですが、こればかり進みました。なぜだ。
風邪こじらせたみたいです。母から「今流行りのこじらせ女子やね」と言われてしまいました。いやいや~。

あと、クレスリウム王国さまに少々早いのですが、お誕生日祝いを押し付けプレゼントさせていただきました。お引き取りいただき、ありがとうございました。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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