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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
黒鳥(2)
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。
一部登場人物がおかしなことになっています。



「おはよう。・・・話があるって顔だね」
食堂に現れた岬?を、若林は呼び止めた。岬の顔はしていても、やはり違うと思う。柔らかく笑みを向ける代わりに、何か含んでいそうな目で見返す岬は見たことがなかった。
「すぐバレたんだね」
「当たり前だろ」
努めて冷静に話しているつもりでも、つい語気は荒くなる。端から見れば、若林が岬を怒鳴っている以外の何物でもない。この時間食堂に人が少ないのは、幸運だった。
「岬くんは?」
「飯食った後、調子が悪そうだったから、部屋に寝かせた」
人の荷物を漁るのは・・・と渋る岬を押しきって、枕元のピルケースから薬を取り出した。几帳面な三杉らしく、薬の取り扱いもすぐ近くに置かれており、岬を安堵させた。
「まさか、人の体でお姫様抱っこなんかやらかしてくれていないよね?」
岬との関係を知る三杉の挑発に、若林は他の者なら怯える程の不機嫌さで返す。
「想像に任せる」

 本当のところは、触られることを拒んだ岬は、部屋まで自力で戻った。
 借り物の体に触れて欲しくない気持ちも分からなくはない。二人でいる時の若林は、およそ理性的ではないし、そして岬自身の気持ちもある。それでも、愛しい相手の苦境を見守るしかできずにいることは、若林のプライドを大いに傷つけた。好意的に話す気には到底なれず、突き放したように答える。

 三杉は若林の心理など悟りすました顔で、口元にのみ笑みを浮かべる。岬らしくない表情に、若林は少しだけ目をそらした。
「じゃあ、翼くんと朝ごはん食べてから、そっちの部屋に行くよ」
岬の髪がかきあげられる。いつもなら、さらさらの髪がしなやかに動き、耳から首のラインが見えると、ついその気になってしまう若林だが、中身が違うとこうも違うのか。
「分かった。必ず来い」


 入って来た岬?に、岬のベッドサイドに座っていた若林が、さっと顔を上げる。
「岬くん、大丈夫かい?」
後ろ手にドアに鍵をかけ、ゆっくりと歩み寄ってくる三杉に、岬も顔を上げた。色白を通り越して、青白く見える顔に、僅かに汗を滲ませ、物憂げにしかめられた眉。
「こうして見ると、僕って美青年だよね」
「今日は中身が良いからだろ」
若林は正面から反駁し、三杉を睨み付けた。
「今は少しマシになったけど・・・これは一体、何?」
静かに、だが少しの婉曲も交えず、岬は口にした。
「岬くん、ごめん。実はおまじないを試してみたら・・・出来ちゃったんだ」
中身は三杉であっても、岬の外見で語られる「おまじない」にはそう違和感はない。ただ、その内容が内容だった。
「何だよ、それ」
呆れたように吐き出す若林に、岬も苦し気に目を見開く。
「好きな人と一緒にいられるおまじない。本で読んで、つい」
三杉が荷物の中から取り出したのは、ごく一般的な子供向きおまじない集。三杉のことだから、おまじないと言われてもつい黒魔術を想像していた二人である。その本はそんな高度なものとは思われない。
「はあっ?」
若林が低く、三杉の声の岬が高く聞き返した。その二重奏はなかなか珍しいものであるが、発した二人は落ち着いてはいられない。
 三杉が翼を好きなのは、皆の知るところだ。三杉らしからぬ、並々ならぬ執着、明らかな贔屓。ただその対象と主体者的に誰にも突っ込むことはできないのであるが。
「まあ、どうせやるなら僕流に、と思って少しアレンジしたけどね」
それが元凶なのは間違いなかった。岬の体でなければ掴みかかっていた、と若林は思った。その手は自分の膝を掴みながらも震えているし、岬はベッドの中、頭を抱えている。
「それで、戻す方法は?」
きつい視線を向けた若林に、三杉は困ったように首を傾げた。
「・・・僕にも分からない。岬くん、本当にごめん」

「でもね、僕だって翼くんと走りたかったんだ。まさか、こんなことになるとは思っていなかったし」
手を合わせる三杉の表情には、必死さと喜びが溢れていた。いつもこんな苦しみに耐えていたのか、それでもあれだけのプレーをし、高みを望む三杉のことを責める気にはなれなかった。
「・・・分かった。でも、戻る方法を考えてね」


 岬の体調のことを慮り、用の済んだ三杉を伴って、若林は部屋を出た。岬は仕方ないと言ったが、納得することはできない。
「お前なあ」
苛立ちで、ただでさえ鋭い視線が更に厳しいものになる。岬の体でなければ、いくら三杉であっても、襟首を掴んで詰め寄っていた。
「・・・君にも迷惑かけてるね」
久しぶりの合宿で、同室ではなくても共に過ごす時間がある筈だった。苦しんでいるのを目の当たりにしても、借り物の体に触れて欲しくない岬の意を汲めば、助け起こすことも、ましてや抱きしめることもできない。
「早く岬を返せよ」
三杉の顔をしていても、苦しんでいる姿に正気でいられる筈もなかった。支えることすら出来ない。
「・・・別に、僕の体は自由に使ってくれて良いけど」
若林の焦燥は主に触れることのできない辛さだろう。予想して軽く言い放つ三杉に、若林は拳を握りしめる。

「僕じゃないから、触らないでよ」
岬は支えようとする若林に釘を刺す。
「だがな・・・歩くのも辛そうだぞ」
いつもなら、迷わず抱き上げる。その性格を分かっていて押し留められた以上、伸ばしかけた手を引っ込める。
「甘えちゃいそうだから、ダメだよ」
甘えて何が悪いのか。言いかけた若林に、岬は大きく首を振る。
「僕の前で、他の人の体を、触って欲しくないんだ」
愛情のこもった腕が、自分の目の前で他の者に触れる。その対象が自分であっても、若林が嬉しそうに他者に触れるのを想像するだけで、嫌だった。そして、そんな醜い思いを抱く自分も。
 恥ずかしいのか情けないのか、泣きそうな顔の岬に、抱きしめたい欲求を必死に抑えて、若林は頷いた。
「分かった」
岬が良いと言うまで待つ。つい数年前と同じじゃないか。

 だが、岬にそんな表情をさせた三杉に対する怒りは収まらない。

「まあ、岬とは違って無理はきかないが・・・気を遣う必要はないな」
三杉に見せるように、若林は扇情的に上唇を舐めた。
「お前色は白いし、まあ楽しめるだろう」
思ってもないことを口にする。岬を愛し、慈しんではいても、苦しめたり穢そうとは思わない。演技とは言え、岬の顔をした三杉の前で言うのは、ゾッとした。
「若林くん、君・・・」
三杉は傍目にもはっきり分かるほど青ざめていた。いつものくせで胸を押さえ、それが痛んでいないことを悟る。そして、力強く刻まれる鼓動に、動揺していることに気づく。
「好きにするっていうのは、そういうことだろ?」
若林の反駁に、三杉は青ざめた額を押さえて、態勢を立て直した。
「・・・分かった」
姿勢を正した三杉に、若林は口元を歪めてみせた。
「あと、もうひとつだけ教えてやる。翼は俺ほど寛容じゃないぞ」

(つづく)

拍手ありがとうございます。
最後の一文を書くのが楽しみで、このパートを書きました。
お願いですから、どんな合宿かは深く考えないでください。(一応、時期はJrユース後、ワールドユース前想定です)
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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