※二次創作です。女性向け表現を含みます。ご注意下さい。 小学生の時に別れて三年、岬が不意に西ドイツの俺を訪ねてくれた。岬は相変わらず、サッカーがうまくて、優しくて可愛くて、俺は自分の想いを見透かされたかと思った。 南葛SCが結成してすぐの頃。誰とでも仲が良いくせに、俺に話しかけて来ない岬に気付いた。当初は気に障ったが、しばらく観察している内に、社交的なように見える岬だが、自分からはあまり人に話しかけないことに気付いた。 「岬」 それなら、と話しかけてみた。岬は少しはにかんだ様子で微笑んだ。 「この町の感想は?他と比べてどうだ?」 他には思いつかなかった。色々考えていたはずなのに、にこにこ笑う岬の顔を見た途端に、忘れてしまった。 「すごく良い所だね。翼くんみたいな子に会えるとは思わなかった」 翼、なんだ。そりゃそうだろう。あんなに気の合ったコンビプレーを俺は初めて見た。ゴールキーパーはチームの要で、最後の砦。その俺の信念を揺らがせるほど、フィールドを自由に走る二人がうらやましくなった。 「ああ。お前と翼と。俺だってお前らみたいなのは初めてだ」 俺の言葉に、岬はくすっと笑った。その瞬間、岬の周囲の空気が柔らかくなった気がした。岬が笑顔で作っていた壁が溶けて、俺を歓迎してくれたような気がした。近くで見る笑顔は何だかまぶしくて、俺は帽子を深く被ると、横に座った。 「サッカーって楽しいよな」 「うん」 こうして、俺たちは友達になった。 そう回数は多くなかったものの、岬と話すのは楽しかった。サッカーの話をする岬の目はきらきらして、白い頬には赤みがさす。俺の知らない話をする岬を見る度に、俺は岬がこの町に来た奇跡を思った。俺にとって岬は特別だった。 思えば、俺は小学生の時から、岬が好きだったのだ。
それが、三年たって唐突に、しかも岬の方から会いに来てくれたのだ。サッカーをした後、ふと目が合った。岬は昔通りに人懐っこい笑みを浮かべ、俺は目を奪われ、そのまま再び心を奪われた。
それから俺は岬に度々電話をするようになった。オフを知らせて誘う俺に、岬は時々遊びに来てくれるようになった。お金がないから、と断らないよう、次のキップを渡す俺に、岬は苦笑しながらもやってくる。
待ち合わせはいつも駅だった。二度目に待ち合わせた時、用事で少し遅れた。ドイツの電車はよく遅れるが、その日に限っては時間通りだった。しかも、治安の良いこのドイツで、岬は男に絡まれていた。空色のパーカーを羽織り、すんなり伸びた脚に半ズボンを身に着けた岬は、確かに可愛い。 「岬」 男がよそに行こうと誘っているのはすぐに分かった。腕を掴む男からかばうように、岬を抱き寄せた。 「若林くん」 岬は嬉しそうに、少し不安そうに俺の肩に腕をまわした。 「大丈夫か?」 冷やかして去る男に冷笑を向け、岬には笑顔を向けた。 「・・・うん。ごめんね、僕ああいうの苦手で」 岬はいかにも冗談めかして話したものの、その微笑みは痛々しくて見ていられなかった。そして、俺は自分の腕が怖くなった。岬を守るふりをして、そのまま抱き締めてしまいそうな自分を、岬はどう思うだろう。 「どうしたの、若林くん?」 突然腕を放した俺に、岬は尋ねた。 「別に。荷物持ってやるよ」 岬が受け入れてくれる日が来るかは分からない。だが、それまでは泣かせたくなかった。
(つづく)
from past log<2008.12.6>
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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