※二次創作を更に混ぜております。いつも以上に閲覧にはご注意下さい。 「おはよう、若林くん」 「お、おはよう」 隣を通り過ぎた岬に、若林はすぐには対応できなかった。 岬と怪盗ボール。二人の夢を交互に見た。 思えば、シュナイダ-の疑惑から、岬に対する疑念がなかった訳ではない。それでも、心に蓋をしてきた。
「早速だけど、今日の指令だ」 「三杉くん、何に毒されたの?」 呆れたような岬の言葉にもめげず、三杉はノートを広げる。この時間が三杉のお気に入りであることは言うまでもなく、岬は黙って耳を傾ける。 「今、若林博物館で展示されている宝石箱。その鍵をすり替えてほしい」 三杉の取り出した鍵に、岬は目を奪われた。古い鍵だが、施された浮き彫りは繊細で、一目見ただけで素晴らしい物だと分かった。 「あの宝石箱を寄贈した人が、あの鍵を惜しんでスペアだけを寄贈したらしいんだよ。でもその息子さんが、その恥を知られたくないらしいんだ」 岬はノートを読みながら頷く。確かに、これは怪盗ボールの仕事と言えた。 「分かったよ。明日で良い?」 岬は微笑むと、その鍵を手にした。
翌日、予告状の届いた博物館に若林はいた。 怪盗ボールが盗みをするのには理由があるらしい。先日のオークションで盗まれた鏡も、盗品だということが分かり、オークショニスト側から、すべてを秘密にしてほしいと要望された。 それでも、目的が正しければ、手段だって問われるものだ。 怪盗ボールが岬であってもなくても、こんなことはやめろと伝えるつもりで、若林は独りで博物館に来ていた。
「この宝石箱には、虹を封じ込めた宝石、オパールが入っています。虹のふもとには幸福がある、という言い伝えに基づいているのです」 元々、若林の祖父の設立した私設の博物館である。警備を解いてくれ、という願いも聞き入れられた。学芸員の説明を聞きながら、若林は周囲の状況を確認する。そして、いつも通り、この展示ケースの近くに潜むのが良さそうだと判断した。
岬は周囲を見回し、展示ケースに近付いた。博物館の周囲にはいつも通り張り巡らされた警備は、いなかった。まだ若林の姿を見ていないのは気掛かりなまま、防犯用電流をカットした展示ケースに手を掛け、鍵を取り出す。 「怪盗ボール」 その手を掴んだのは、展示ケースの下に潜んでいた若林だった。 岬は無言のまま、掴まれた手を振りほどこうとするが、若林は許さない。 「こんなことはよせ」 顔を確かめるのではなく、諭そうとする若林に、岬は苦笑する。正体を知りたくない訳がないのに、若林の振る舞いは誠実そのものだった。 「目的が正しくても、手段が正しくなかったら同じだ」 確かに正論だ、と岬は思う。でも、誰かを助ける為には仕方ない時もあるのだと心の中で呟く。 「じゃあ、これ返すね」 岬は顔を背けたまま、本来の鍵を取り出し、展示ケースの上に置いた。 「分かった。今日は俺も見なかったふりをする」
怪盗ボールが去った後、若林は展示ケースを開き、返された鍵を鍵穴に挿した。宝石箱には確かにオパールが入っていて、それは確かに虹を封じたように見えた。
翌日、学校に向かう若林の足取りは軽かった。校門をくぐったところで、岬と出くわした。花壇の花に水をやる岬の足元には水飛沫が舞い、反射した陽の光で小さな虹が浮かぶ。 「岬」 「あ、若林くん、おはよう」 微笑む岬に、昨夜の怪盗ボールの姿が浮かんだ。 同じように、若林の心を奪う存在。 もし捕まえられなくても、分かり合える日も来そうだと、若林は思った。
(つづく)
拍手ありがとうございます。 原作と少し展開を変えてしまいました。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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