※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 朝、携帯にメールが届く。時報かと思う位の正確さに、悪いけど少し笑い、短いけど、気遣ってくれているのが伝わる文面に、少しやる気が増す。 ドイツと日本の時差は8時間。こちらが朝8時なら、向こうは夜24時。 お互い身体のコンディションに気を遣う以上、夜更かしなんか以っての外で、その上暇でもないので、もっぱらメールに頼っている。 確かに、メールでお互いの毎日は知っている。遠征でイギリスに行った時に入った日本料理店が珍妙な味だったとか、そのせいで和食が食べたくなったとか。
だけど、寂しくないといえば嘘になる。
メールを読み返してため息をつく。寂しさを紛らわすのに読み返したけど、全く逆効果だった。・・・会いに行くのは無理でも、声だけでも聞きたい気がする。
そう思って、もう覚えてしまった電話番号を呼び出す。現在、こちらは朝の7時。向こうは23時だから、電話しても問題はない。でも、用事がある訳ではないから、発信ボタンは押せなくて、電話を置きかけた時に、コールが鳴った。 たった一人にしか設定していない呼び出し音から、相手は今までかけようと思っていた若林くんその人だと分かる。 でも、待っていたとも思われたくなくて、3回待ってから、通話ボタンを押す。 「もしもし」 繋がった途端に聞こえた声に、予想していたくせに、鼓動が一気に跳ね上がる。優しくて、少し低いのに甘くて、僕を簡単に縛り付けてしまう声。 「若林くん」 「おはよう、岬」 「どうしたの?」 つい口にしてしまう。日頃連絡を取らないせいで、気がつくと、つい心配してしまう。 「何でもないぜ。岬の声が聞きたくなってな」 遠く隔たっているのが嘘のように、耳元で囁く声は、本当にいつも通りで安心する。 不思議なことだけど、若林くんがいかに繕っても、不調な時は何となく分かってしまう。僕が笑うことで感情を繕っても、若林くんには見破られてしまうように。これが、愛なのかは分からないけれど。 「・・・若林くん、相変わらずだね」 苦言を呈すふりをして、でも自分の気持ちが程よく温まるのを感じる。寂しい塊が、君の優しい声や普段通りの口調に溶けていくようで。 「でも、ありがとう」 思わず口元がほころぶ。耳元で笑う若林くんの声にくすぐったいような気持ちが胸の中をめぐる。相当、甘い顔で言っている自分も可笑しく思えて、つい笑い声が混じってしまう。 「メールも悪くはないが、やっぱり、電話って良いな」 ひとしきり笑った若林くんが独り言めかして言う。 「うん、そうだね」 朝の光を浴びた時のように、体中に元気が行き渡る気がした。楽しい気分が胸を満たして、身体がぽかぽかと暖かい。 「でも、会いたくなるのは駄目だな・・なあ、どうしよう?」 僕に相談されても困るんだけど。仕方なく、答えを返す。 「じゃあ、電話しないで」 電話口で息を飲む音を聞きながら、少し声を潜める。 「僕も会いたくなるから」 我ながら、小声になったけど、若林くんには伝わったらしい。本当に携帯電話の高性能ときたら、ごまかしさえ許してはくれない。 でも、若林くんの楽しそうな笑い声をきちんと届けてくれるのも、同じ電話だ。 「それは電話した甲斐があったな。じゃあ、また」 機嫌良さそうに言って、若林くんは電話を切った。遠い遠い空の向こう、今は真夜中の国で、電話口で笑う若林くんが目に浮かぶようで。 「またね」 手の温もりで温まった携帯電話をぎゅっと握りしめた。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 最近はネットのおかげで、ものの本を引っ張り出す必要は減りました。堕落しております。
忙しいくせに、別ジャンルにややハマリ、気がつくと、SS書いていました。・・・自分の読みたいものがないと、自分で書く癖がついているのはどうしたものでしょう。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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