※二次創作を更に混ぜております。いつも以上に閲覧にはご注意下さい。 シュナイダ-との賭けに勝ったとはいえ、若林の胸にも植え付けられた疑念が膨らんでいた。 「若林くん、何?」 掃除当番中に、自分を見つめる視線に気付き、岬は不思議そうに尋ねる。 「あ、すまん」 いつもなら、率先して範を示す若林らしくもない。若林は壁にもたれていた腕を離し、机を動かす。 若林の様子に首をかしげながら、岬は三杉と雑巾を用意し始める。雑巾を絞ろうと袖をまくり上げた細い腕を眺めていた若林はふと、先日のガラスのカップ騒ぎの怪盗ボールが別人だと気付いた瞬間を思い出した。 「わ、な、何?」 若林に急に腕を掴まれ、岬は慌てて振りほどいた。その反応は確かに敏捷だが、もし岬が怪盗ボールだったら、やすやすとは腕を掴まれたりしないだろう。 「いや、何でもない・・・岬、腕白いな」 「ほっといてよ!三杉くんはもっと白いよ」 「岬くん、君は病弱な僕にケンカを売ってるのかい?」 「病弱なくせに、売ってもないケンカ買うのやめてよ!」 これが始まったら長いんだ。ため息を付きながら、一人で掃除を続ける森崎であった。
「岬くん、今回の仕事は学園クイーンの宝冠だよ」 放課後の相談室、三杉の言葉に、岬は明らかに嫌そうに顔を歪めた。同じクラスで、名簿が前後ということもあり、最初は普通に仲良くなったものの、何やら違和感があった。 違和感の正体を知った途端、まさか巻き込まれることになろうとは。 三杉は私設カウンセリング室で、こっそりと人に言えない悩み事の解決を引き受けていた。天才と謳われながらも心臓病の三杉が、他の人の手助けをしたい、と言い出し、岬は協力せざるを得なくなった。そして、夜な夜な怪盗ボールとして「人助け」の実行役をしている。更にセイント・ボールを追いかけているのが、同じクラスの若林が私的に率いるチームなのだから、岬の困惑は大きい。 「学園クイーンって、あれ、だよね・・・」 「うん。君ならクラス代表間違いなしのあれ、だよ」 三杉の満面悪意としか思われない笑顔に、岬のため息は盛大になる。 学園クイーンは南葛高校の学園祭で、女装大会の優勝者に与えられる称号であり、大きな宝冠をかぶることになっている。 「冠にはカメオが付いていたんだけど、昔は生徒の作ったものだったそうだよ。その生徒を恋い慕う生徒がクイーンに選ばれて、こっそり家のカメオとすり替えたらしい」 その気持ちは分かる気がした。物の価値は値段だけではない。元の品物よりも価値があっても、物に込められた思いが失われれば、偽物となる。 「分かった」 頷いた岬に、手招きした三杉が早速作戦を耳打ちした。
大方の予想通り、クラスの代表に選ばれた岬は、ピエールの用意してきたウェディングドレスを着せられていた。白いドレスに白いベールが、岬の清楚さを引き立てる。 岬の隣につきっきりで離れないピエールを横目に、若林は渋い顔をしていた。 「よりによって、何でこんな日に予告状を出して来るんだ」 「そう思うなら、早く捕まえろ」 ぼやく若林を強引に部屋の外に押しやり、若林が腹いせに引きずり出したピエールの助けを無視して、シュナイダ-は部屋の入口に立ち塞がる。 シュナイダ-は怪盗ボールが変装の達人であり、誰かに似ていたとしても当てにはならないという若林の意見を認めながらも、正体は岬ではないかと未だに疑っていた。ここで見張っていれば、岬が席を外せばすぐに分かる。 「あ、電話だ」 岬は携帯電話を持ったまま駆け出し、廊下の曲がり角に立った。今日の催しの為に、パーテーションで区切られた一角である。 「父さん、何?え?迷ったって?今、どこ?」 区切られてはいるものの、閉鎖されていないので、岬の声は聞こえる。迷っている父親は岬の説明をなかなか理解しようとはせず、説明は長時間に渡ろうか、というときだった。細い足首も見えていることだから、とシュナイダ-が立ち去ろうとした時だった。 「怪盗ボールだ!!」 会場の体育館からどよめきが聞こえる。だが、廊下の隅では、岬が道案内している声も聞こえたままだ。 「何だとっ!?」 シュナイダ-は素早く身を翻し、体育館に向かった。
体育館では、怪盗ボールが宝冠を手に窓に跳び上がろうとしていた。 「まてっ!!」 若林が追おうとするが、怪盗ボールは少しも慌てず、ひらりとよけてみせる。 「これならどうだっ!ファイヤー!!」 乱入してきたシュナイダ-が取り出したのは、巨大掃除機だった。 「えっ!?」 依頼も大事だが、正体の発覚の方が問題だった。怪盗ボールは迷いなくすぐに窓によじ登った。 「まてーっ」 若林が追うのを見てから、シュナイダ-は距離の開いていくのを見守る。
シュナイダ-が教室に戻ると、相変わらずウェディングドレス姿で、体育館での騒ぎなど知らぬ様子で、呑気に本を読んでいる後ろ姿が見えた。わざわざ声をかけて邪魔をするのは気が咎める。シュナイダ-は首を捻りながらも、確かに怪盗ボールとは別人と認めざるを得なかった。
宝冠は見つからないまま、学園クイーン大会は開催され、大方の予想通り、大本命の岬が優勝をおさめた。賞状と副賞だけが授与されることとなった壇上で、その目の前に飛んで来たのは風船である。 「向こうだ!」 指差された屋上からは、怪盗ボールらしい人影が走り去るのが見えた。 「待てっ・・」 当然追おうとした若林の肩に、シュナイダ-が手をかける。 「俺が追う。だから、この証拠品はお前が渡せよ」 若林は壇上に立つ岬を見る。この証拠品を手ずから頭に飾ってやれたら、どんなに気分が良いだろう。怪盗ボールの送って来たものなんて、誰も触れない。だから、若林自身が贈呈するのが最適だった。 だが。 「待てっ!」 駆け出した若林に、シュナイダ-は苦笑いして宝冠を手に取った。 「はい、どうぞ」 「ありがとう」 微笑み合いながらも、二人の思いは別のところにあった。
「今日は助かったよ、ありがとう」 手を合わせる岬に、三杉が鷹揚に頷く。パーテーションと控え室での岬の身代わりに、屋上からの風船投下、と三杉は今日は大忙しだった。 「こちらこそ。今日は楽しかったよ」 心臓病の三杉には怪盗ボールの仕事はできない。それでも、今日はその一端が味わえた。 「ヒール、君のより1センチ低くしてあるんだよ。シュナイダ-は目敏いからね」 「うんうん、すごいすごい」 ニコニコ笑いながらも、岬は心の中に小さなトゲを感じた。一瞬目が合ったのに、怪盗ボールを選んだ若林。この宝冠は依頼者には本物でも、自分にとっては偽物。 「それにしても、岬くんのウェディングドレス姿、可愛かったよ」 「や、やめてよ」 見て欲しいひとに顧みられなかった。そう思うと、あの喧騒すらも寂しく思い出される。
「ちくしょう、また逃げられたか・・・」 屋上には何の痕跡もなく、おもり付きの風船を飛ばしたことしか分からない。後片付けをしながら、若林は舌打ちをした。 こんなことなら、あの機に乗じて、ステージに上がってしまえば良かった。遠目で見ても、岬は可愛かった。その瞳は自分を見ているように思えたし、もしかしたら、待ってくれているかも知れない、と思った。 だが、近付いて、あんな姿で微笑まれたら、蕩けてしまうと思った。疑惑は晴れていない。必要以上に近付いてはいけない。自分に言い聞かせて、若林は屋上から立ち去った。
(つづく)
拍手ありがとうございます。
テンション高めで書いています。でも、手首痛い。
今回の゛身代わり″があったので、三杉くんを据えています。岬くんと三杉くんの入れ代わり・・・他のパラレルでも書いた覚えが・・・。
掃除当番は名簿順です。6人班で岬→三杉→森崎→あと2人位想定→若林という感じです。つじつまは合っているはず。
ちなみに、この名簿順を考えるのはなかなか面白いです。(3Mは名簿順的にも仲良し)でも、南葛高校だと井沢→石崎→浦辺になるので、井沢くんからクレームが来そうです。
以下、拍手お礼:
美砂様、コメントありがとうございます。 他の誰が許しても、私が許しませんので、ご安心下さい(笑)。
拍手のみの方もありがとうございます。励みになります。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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