※二次創作を更に混ぜております。いつも以上に閲覧にはご注意下さい。 「またしても、だ」 配達された朝刊を見て、若林は首をひねる。昨夜、怪盗ボールと対峙し、まんまと逃げられた。だが、そのニュースよりも、その絵画が盗難されたものであったことの方に、紙面が割かれている。そして、この現象は初めてではない。 「人助け、だと言いたいのか?」 確かに、事象だけ見れば被害者の為になり、不正をした者が糾弾を受けてはいる。ただ、それをすべて怪盗の意図と解することには抵抗があった。それで、怪盗の行う行為が好意的に取られるようになったら、もしもの時に泣かされる者の声が届かなくなる。
とはいえ、怪盗には関心があった。ふとした拍子に掴んだ足は、しなやかで細かった。簡単に捕まえられないのが、嘘のように。 「次こそは絶対捕まえてやる!」 「若林さん、朝から気合い入ってんな」 朝から青空に向かって叫ぶ若林に、来生が呟いた。
若林が教室に入ると、すでに何人かが新聞の記事を話題にしていた。その集団の横で、いつものように三杉と談笑する岬を見やる。 「おはよう、若林くん」 朝のさわやかさが更に増す気がして、若林も笑い返す。 「おはよう」 もっと、会話を交わしたい気持ちはあっても、若林の周囲には若林を慕う者達がいて、岬はそれ以上踏み込んでは来ない。三杉といつものように微笑み合っている。 「おはよう、ワカバヤシ」 さわやかな気分はそこまでだった。不意に背中を押されて、若林は飛び上がりそうになる。 「シュナイダ-!!」 先月から南葛高校に来ている留学生のシュナイダ-は朝から豪奢な金髪を振り立てて、華々しい笑みを見せる。 「おはよう、だ。お前は日本人のくせに挨拶もできないのか?」 ドイツ人のくせに、達者な日本語を使いやがって。若林が睨み上げても、シュナイダ-は平然と笑うだけだ。 「話がある。来い」 引きずられて教室を出る若林に視線を投げかけられ、岬が不思議そうに首を傾げた。 「話って何だ、改まって。好いた惚れた、なら間に合っているぞ」 「何だ、情報提供者に対して、失礼だな」 いつもの口調で胸を張る若林に、シュナイダ-はこちらも偉そうに言う。 「転校して来た日に、ピエールの奴と一緒に食事に行ったのだが、そこでこんなものを見かけた」 シュナイダ-の取り出した写真を若林は奪うように見た。シュナイダ-と同じく留学生のピエールであるが、日本に来てからは写真にはまっているらしく、どこでもすぐにカメラを取り出す。それが功を奏して、の今回の写真だろう。夜空に舞うように、グライダーに乗った人影には見覚えがある。 「怪盗ボールか!」 さすがはピエール、ここまでよく撮れた写真は今までなかった、としげしげ見る若林に、写真を引っ張りながらシュナイダ-が言う。 「これを見て、俺はミサキだと思った」 口を押さえたまま、息を呑む若林を、シュナイダ-の目はとらえて離さない。そこまで分かるものか?と若林は写真を傾けた。裾が燕尾になったジャケットに、細めのスラックス、腰を覆うだけの長さのふんわりしたスカート。肝心の顔は長い髪に隠れて、ほとんど見えない。 「俺はサッカー選手として、目には自信がある。体格や筋肉のつき方を見て相手の力量を量るのも腕の内だからな。その俺から見て、これはミサキに見えた」 若林はもう一度、穴の空く程写真を見つめた。岬は若林にとって、ある意味特別である。あと一歩、近づきたい、気のなる相手。一方、怪盗ボールも特別な存在だ。こんなに関心を持った相手はいない。 「俺はそうは思わん」 二人が同じだとすれば、同じ相手に心を奪われ過ぎていることになる。そして、その両方を見損なっていることになる。違う、と口にしてから、少し落ち着いたような気がした。 「じゃあ、賭けよう。怪盗ボールがミサキなら、俺の勝ちだ。付き合ってもらうぞ」 「はああ~?」 解せぬ提案に、若林の顔が歪む。だが、後には引けなかった。 「分かった」
二人が教室に戻ると、岬が困っているところだった。件の留学生のかたわれ、ピエールは岬をいたく気に入っていた。そして、こちらもそれは積極的にアピールを重ねていた。いつもなら、ほとんど話させぬ内に、笑顔で煙に巻く岬であるが、今日はピエールの発した一言が気にかかり、おとなしく聞いていた。 「シュナが、怪盗ボールの正体はミサキだって言い出してさ」 「えっ?」 ミサキの絶句を、驚きによるものと解して、ピエールは義憤に駆られた様子で付け加える。 「僕が撮った写真が証拠だなんて言い出して。全くいい迷惑だ」 「写真あるの?」 「ああ。見るかい?」 「うん、是非」 手を合わせて頼む岬に、ピエールはもちろん笑顔で応じた。 「ほら、よく撮れているだろう」 肩を抱かれているのにも気づかず、岬は写真に見入った。三杉の用意したカツラとコスチュームで女装しているとはいえ、見る者が見れば、十分岬だと判別できる。 「お前、何してる!?」 若林が教室に入って来たのはその時だった。岬の肩を抱いているピエールを怒鳴りつけ、引き剥がそうとした手を、シュナイダ-が止める。 「ワカバヤシ、もうすぐ俺と付き合うんだから、余計なことは気にするな」 衝撃的な発言に教室はざわついた。 「若林さん、本当ですか?」 「何かあったんですか?」 信じられない口調のクラスメイトを、若林はうるさそうにあしらう。 「賭けに負けたら、だ。ついでに怪盗をつかまえて、こいつを黙らせてやる」 迫力にあふれた若林の言葉に、周囲が圧倒されて押し黙る。
「今日の仕事だけど」 三杉の言葉に、岬が顔を引きつらせる。 「今日、学校で変な空気だったし・・・先延ばしは無理かな」 あの後、シュナイダ-は、自分も怪盗逮捕に乗り出すと言い始めた。若林だけでも大変なのに、岬を疑っているシュナイダ-と渡り合うのは辛い。 「何、シュナイダ-に 勝つ自信がないの?」 三杉の言葉に、岬は身を乗り出した。 「まさか!そんな訳ないよ。三杉くん、説明お願い」 岬は穏やかそうに見えて、かなりの負けず嫌いである。ただ、一旦引き受けたら退くことはない。その点に関しては、三杉は高く評価していたが、たいてい乗せられて引き受けさせられる岬には迷惑な話である。 「それは有難いね。じゃあ、作戦を練るとしよう」 美しい笑顔で三杉は微笑んだ。
「これをすり替えて、か」 岬は手の中にあるグラスを見た。病気の母の為に、奇跡のグラスを盗んですり替えたものの、いつか気づかれるかと思って、自分が病気になりそうだったと、ガラス職人は言った。そのグラスがまた市の美術館に来たから、取り替えるには、絶好の機会。今展示されている偽物は、確かに一目では分からない出来栄えだが、調べられでもしたら、かえってその出来故に犯人もすぐに発覚したに違いない。 「二人とも来てるね・・・」 高窓から展示室を覗き、岬は嘆息した。グラスを挟むように、若林とシュナイダ-が背中合わせで立っている。 「でも、行くしかないか。1、2、3!」 岬が手を弾くと、天井から煙が吹き出した。グラスを見失わないように跳んで、素早く偽物のグラスを回収する。 「怪盗ボール!」 人の気配を察した若林の声がする。更に、シュナイダ-の声も。その声で遠近を判断しながら、岬は用意してきた本物のグラスを取り出す。 そしてそれを置こうとしたところで、何かに当たった。 「あ、悪い・・・って、お前、怪盗ボール!」 怪盗ボールだと気づいてすぐに腕を繰り出せる辺り、若林の反射神経は並ではない。それをかいくぐり、岬は指を弾いた。 「1、2、3!」
「怪盗ボールを捕まえたぞ!」 「何イ!?今いくぞ、ワカバヤシ」 若林は、煙の中で何とか掴んだ腕を、離すまいとする。煙が少し晴れた中を、掻き分けるようにシュナイダ-が近づく。 「確かに怪盗ボールらしいな」 長い髪に、黒いジャケット、そして何より盗まれたグラスを手にしている。 「どんな顔だ」 若林とシュナイダ-は二人して覗き込み、二人同時に顔を背けた。想像とは似ても似つかない髭の男がそこにいた。 「何だと!?」 憤るシュナイダ-に、若林は静かに立ち上がる。 「どうやら賭けは俺の勝ちのようだな」 岬でなくて良かった、という気持ちと、捕まえた相手が怪盗ボールではなさそうなのに隠そうとしたことと。若林は自分の中に生まれつつある感情を意識せざるを得なかった。その名前が恋だとは知らなくても。
(つづく)
拍手ありがとうございます。
原作の役をどう割り振るか、についてはこれしか思いつかず。
拍手お礼:
あまね様、いつもありがとうございます。 それらも好きなのですが、ネタ、そしてビジュアル的にこれになりました。 三杉くんのキャストは、岬くんとの関係で決めました。そして、うちの三杉くんが最強なのはもう伝統としか・・・。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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