※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。
本日も xxx-titlesさまよりお題をお借りしています。 お題一覧はこちら 夢を見た。
「あいつが欲しいか」 闇の中で声が響く。姿は見えなくとも、声のみでも、禍々しいことが分かった。それなのに。 「あいつ」の言葉が僕を縛る。その単語で連想した笑顔に、僕は息を飲む。
気付いた時には好きになっていた。好きだと意識した時は、もう別れの時で、僕は日本に帰ることになっていて。
「欲しい」 知らない間に声が出ていた。別れ際に頭を撫でてくれた手は、大きくて厚くて温かかった。向けられる目は優しくて、思い出すだけでも、胸が締め付けられそうになる。三年前より大人になった風貌は、男の僕から見ても、ものすごく格好良い。 あんなに素敵な人だから、きっともう彼女だっているんだろう。そんな話はしなかったけれど。 「じゃあ、お前の一番価値のあるものを貰う」 返って来た言葉にも、何故か恐怖は感じなかった。 「分かった」 僕の台詞にも、声が感銘を受けた様子はない。 「願いは承知した」 恋に焼かれた僕は、まるで人魚姫だった。恋の言葉を手に入れた代わりに、足を失った。
夢を見た。
「あいつを返してくれ」 闇の中、俺は自分の声で目を覚ました。一筋の光は射すものの、漆黒の闇に相手の姿は見えない。そして、俺は奇妙な願いを投げ付ける。 「あいつは、俺と契約したんだよ。一番価値のあるものと引き換えに」 あいつ、と呼ばれた相手に一人しか心当たりはなかった。愛しい岬のまっしろな横顔を思い出して、俺は更に身を乗り出す。
俺と岬が付き合ってもう四年。日本に帰った岬を追いかけて、口説いた。 「好きなんだ」 愛を打ち明ける俺に、岬は俺の顔をじっと見た。 「本当に?」 聞き返した岬は涙ぐんでいて、可愛くて仕方なかった。
「岬を返してくれ」 声は俺の質問には答えない。交通事故に遭った岬とはまだ会えていない。面会を拒まれ続けている。 何より価値のあるものと聞いて、俺の連想したのは岬の優しい心だった。岬の心に宿る夢こそは、きれいな心の作り上げた結晶。 「返して欲しければ、お前からも何か貰う」 声が響く。俺は唇を噛み締め、拳を握る。岬を取り戻せるのなら。何を引き換えにしても。 「良いだろう」
「ただ、あいつが望んだものは何だったのかは教えてくれるだろうな」 それを聞く権利はありそうなものだ。 ・・・あの岬が何に執着するというのだろうか。一瞬の勝利を他者に願う位なら、一年地を這う努力を続ける奴だった。その岬の望みを共有したい、と思った。 「岬が望んだのは、お前の心だ」 声には嘲笑の色が濃い。あざ笑いを受けながら、俺は胸の痛みに耐えた。 どんな思いで、岬は俺の心を願ったのだろう。 「頼む、あいつを助けてくれ」
「ダメだ!」 若林くんの言葉に僕は叫ぶ。 「若林くんから何も奪わないで。それ位なら・・・僕の心臓ごと差し上げます」 契約をしたことよりも、大事な人の心をそのようなことで欲しがった自分の昏さに、ずっと後悔し続けた。それなのに、僕を気遣う若林くんのかすれた声に、必死な様子に僕は辛くてたまらなくなった。 「若林くん、ごめん」 僕は、若林くんに飛びついた。
「岬さん、大丈夫ですか」 目を覚ますと、看護師さんが立っていた。確かにひどい汗で、息もあがっている。僕は枕を濡らしていた涙を拭くと、上半身を起こす。こんな姿を見られたくないから、心配をかけたくないから、と父さん達以外の面会は拒んでいた。 それでも、ノックの音を聞くと、心は騒ぐ。 「どうします?また断りましょうか?」 看護師さんの言葉に、僕は首を振る。誰が来たかは分かっていた。 「いえ、会います」
「顔色、悪いな」 看護師さんが出て行って、開口一番、僕の顔を心配そうに覗き込む若林くんに、相変わらずだと笑おうとしたのに、涙が出た。あの夢を思い出して、僕は声も出せなくなる。 「ちゃんと食べてるよ」 いつも聞かれることを先回りすると、若林くんは僕の頭を撫でてから、椅子に座った。 「もう会ってもらえないかと思ってた」 いつもの自信が嘘みたいに、少し細い声に、僕の方が動揺する。突き放すつもりだった。もう役に立たない僕を捨てて、離れてくれれば良いと思っていたのに。 「若林くん、少し痩せた?」 話を逸らそうとして、気になっていたことを口にする。身体はともかく、頬が少しこけているように見えた。 「ああ。心配したからな。それより」 僕の手首を掴んで、若林くんは目を見開いた。 「もう離さないからな」 「駄目だよ、僕は」 あの夢は真実じゃない。それでも、何かの示唆なのは明らかだった。僕と一緒にいれば、若林くんを巻き込んでしまう。それほど怖いことはなかった。 「俺にはお前が必要なんだ。何をなくしたとしても、お前さえいれば、俺は俺でいられる。だから、一緒にいてくれ」 僕を不安にさせてきた君が、こんなに上手に口説いてくれるとは思わなかった。逆らおうとした口も、涙があふれて止まらない目同様、僕の言うことを聞いてはくれない。 「好きだぜ」 君の為なら、僕は何を捧げても惜しくない。何より大事な君なのに。こんなに愚かな僕なのに。君は僕を許してくれる。他の何でもない、僕自身を欲してくれる。 「ありがとう」 やっと一言だけ、告げることができた。これから先、何があったとしても、僕は君を。
(おわり)
人魚姫、のことを考えながら書きました。長いし、暗いわ! もう少しまともなものを書きたいです。
from past log<2008.11.30>
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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