※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。
クリスマスに遊びに来てくれる岬に、約束したことがある。 「今日は何でも言うことを聞く」 だからどうしても来てほしい、と言う俺に、岬はクスクス笑った。 「もう、仕方ないね、君は」
駅に着くと、岬はもう着いていた。パリよりもハンブルクは寒いためか、やたらと大きな上着、ごついマフラー。 「待ったか?」 「大丈夫だよ。・・・急いで来なくても良かったのに」 岬はそう言いながら、マフラーを外して首にかけてくれる。…確かに、マフラーもして来なかった。 「早く会いたかったんだから、仕方ないだろ」 そう返すと、岬は目をぱちばちさせた。 「本当に・・・困った人だね」
ハンブルクのクリスマスマーケットは、この町の自慢のひとつだ。 「町中がクリスマスなんだね」 「そうだな。こっちの人達にしたら、大事な日らしいからな」 そして、大事な人と過ごす日。
岬と再会するまでは、誰かと過ごす、ということも考えたことはなかった。いつも通り、クラブの連中と派手に飲んで騒いで、だったろう。
だから岬が来てくれたのは本当に嬉しかった。隣を歩く優しい笑顔に、そっと手を差し出す。 「手つないでもいいか?」 「でも、僕の手冷たいよ」 「それがどうした」 握った手の感触に、ぞくっとしたのは冷たさのせいではない。母国から遠く離れた町に、こうして二人でいることを実感したせいだ。 「若林くんの手、あったかいね」 握った手を握り返される。こんなことすら、嬉しいなんてどうかしてる。 「こちらこそ、暖かい思いをしてる」 訝しがる岬に笑みを返して、手を引く。
広場には一際大きなツリーがあり、立ち止まって写真を撮る人も多い。 「あっ、チョコレート屋さんだ!」 「よし、見に行こう」 とりどりの色や形のチョコレートはどれも甘くてうまそうで、岬は俺を振り返る。 「・・・ちょっと時間かかっても良い?」 「どうぞ」 岬が買い物に時間をかけるのを見るのは初めてだった。寒くないように、借りていたマフラーを岬の首にかける。 「何なら、迷ってるの全部買ってやろうか?」 「ううん。迷うのも楽しいから。ありがとう」 確かに、迷っている岬は楽しそうで、それ以上口は出さずに岬と一緒に楽しむことにした。雑貨屋やら屋台やらを回り、目も腹も満足したところで、家に向かう。
「結構買っちゃったね」 「俺も。旨そうなのが多かったしな」 普段は無駄遣いを自制している岬には珍しく、色々買い込んだようだった。 「岬にしては、珍しいな」 「うん。友達にお土産・・・」 歯切れの悪い口調で気がつく。俺がクラブの仲間のクリスマス会を断ったように、岬にも友達からの誘いがあって、それを断って来てくれたのだと。 「若林くん、何でもひとつ言うこと聞くって言ってたよね」 「ああ・・・」 岬は俺を見上げ、人差し指を突き出した。ひとつ、なんて言った覚えはないが、ここで逆らう訳にもいかず、仕方なく頷く。 「今言ったこと忘れて!」 「へっ?」 一瞬岬の言った意味が分からなかった。フリーズしている頭を必死で立て直す。岬の言ったこと。友達のお土産。 「分かった。それは忘れる」 「よかった・・」 安心したらしく、息をついている岬を盗み見る。俺に気を遣わせないようにと思ってくれる気持ちが嬉しくて、少し赤くなっている岬がますます可愛く思える。 「俺ももうひとつ言ってもいいか?」 それはもう決まっていた。岬が来てくれることになり、必死でこのツリーが一番きれいに見える場所を探した。 「なに?」 見つめた岬の目の中、辺りを照らすイルミネーションの光が、流れる。 岬は、このクリスマスに来てくれたんだから、自惚れてもいいよな? 「好きだ」 岬は自分の首に巻いていたマフラーを外すと、背伸びをして俺の首にかけてくれた。その時、マフラーで区切られた空間で小さな声が呟いた。 「僕も」
そのまま岬を抱きしめたのは言うまでもなく、告白の後の岬の最初のお願いは、よりによって、 「離して///」 だった。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 風邪と私事のダブルパンチで寝込んでおりました。まあ色々ありますね。
キリ番85000を踏まれたあまね様のリクエストで、「今日は僕の言う事聞く日なんだからね!」と若林くんに甘える岬くんinクリスマス、だったのですが・・・あれ、甘えてませんね。あまね様、素敵なお題をありがとうございました。それなのに不甲斐なくてすみません。うう、そのうちリベンジします。 クリスマスマーケットはドイツではWeihnachtsmarktと言うらしいです。調べると本当に素敵で、一度は行ってみたいものです。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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