※二次創作を更に混ぜております。いつも以上に閲覧にはご注意下さい。 南葛高校では、いつもの光景が繰り広げられていた。 「さすがは若林さん、今回もお手柄ですね」 滝が口にしたのは、今朝の朝刊で取り上げられていた事件解決のニュースのことだ。南葛市有数の大富豪の息子である若林は、それを利用して、市内の事件解決に乗り出していた。ゴリ押しだけではなく、実際実力もあった為、今では警察だけでなく、市民も認めるところとなっていた。 「捕まらないのは、怪盗ボールだけですね」 「き~す~ぎ~」 滝と井沢が来生の口を左右から押さえようとするが、間に合わない。機嫌を損ねて怒り出す若林だったが、すぐ近くでクスクスと笑い声が響く。 「岬」 四人の横をかすめて席についたのは、同じクラスの岬である。可愛い顔で明るい性格の岬は、クラスのアイドル的存在だった。 「おはよう」 挨拶に添えられる微笑みは、クラス内外を問わず、ファンが多く、その天使の微笑みを恋い慕う者も少なくはない。 「若林くん、そんなに怒っちゃ駄目だよ。来生くんは天然なんだから」 悪戯っぽい笑みを浮かべて去った岬の後ろ姿を、若林は目で追った。席に就いた岬はいつも通り隣の席の三杉に声をかける。 「三杉くん、おはよう」 「岬くん、おはよう。早速だけど、今日僕の相談室に来て欲しいんだけど」 静かな声で、まるで宿題の相談のようにさりげない三杉の言葉に、岬が小さく頷く。三杉は若林の家と並ぶ財閥の息子で、こちらは個人的にカウンセリングルームを開いていた。親友の岬は時々その相談室の手伝いに行く、というのは表向きでしかない。
「今日はどうしたの?」 放課後、三杉の相談室に現れた岬は、待ち時間の間に広げていた宿題を片付けつつ、メイドの運んで来た紅茶を口に運ぶ。 「今日の依頼人は、盗まれた絵を取り戻して欲しいそうだよ」 三杉の言葉に、岬は深く頷く。 岬が手伝っていたのは、三杉がカウンセリングの一環で行っている悩み解決である。警察に相談できない、してもどうしようもない事件を解決するのが、岬の役割になっていた。 「何しろ、僕は心臓が悪いからね。そうじゃなければ、自分で頑張るところなんだけど。怪盗ボールくん」 「ハイハイ」 三杉の言葉を軽くいなして、岬は資料を広げた。
南葛高校生の岬は、夜になると、怪盗ボールとして活動している。学校の裏庭で手品の練習をしているところを見られ、三杉に発作を起こさせてから、岬には不本意ながら、こういう共犯関係になっているのだ。 「絵をだまし取られて・・・か。ウラは取ってあるの?」 「うん。確かだよ。有名な絵をお父さんが模写したもので、サインも入っている。うっかり複製と見られては困るから、通報もできないらしいよ」 三杉の言葉に、岬が小さくため息をつく。三杉の仕事は常にウラ取りされていて、間違ったことを嫌う岬にも抵抗が少ない。むしろ、人助けといえる。それでも、他人の屋敷や美術館に侵入するのは、気が進まない。 「なんだい、若林くんのことが気になるのかい?」 「そんなんじゃないよ」 数々の事件を解決してきた若林が唯一逃しているのが、怪盗ボールである。三杉の作戦と道具と資金力、岬の運動能力と応用力のなせる技であるが、唯一の負けということで、躍起になって追いかけてくる。 「若林くんも真剣だから」 「ふぅーん。まあ、ほだされなきゃ、僕はかまわないけどね」 「僕は構うよ。悪い冗談だね」 声を張り上げた岬の口元に、三杉がそっと指を当て、岬が微笑む。見ている者があれば、心を洗われるような美しい光景だが、二人が話しているのは、他人の家に盗みに入るという相談である。たとえ、騙し取られたものだとしても、犯罪には違いない。 「でも、行ってくれるよね」 「もちろん」 岬が手品用のステッキを振る。三杉の作った変装装置で、岬のシルエットは見る間にロングヘアの美しい女性のそれに変わる。 「どうも、これは慣れないよ・・・」 「でも、これ位しないと、若林くんの嗅覚なら、君だと見抜きそうだからね」 三杉の調合したコロンを一吹きまとい、岬は三杉を振り返った。 「じゃあ、行ってくるね」 「いってらっしゃい。君に神のご加護がありますように」
予告のあった中西家の居間で、若林は飾られた絵画の前をウロウロしていた。律儀で、卑怯なことの嫌いな怪盗ボールは、今日も予告状を送って来ていた。ガラスのボールに封じ込まれた独特の予告状のおかげで、そのあだ名がついた代物だ。その美しい球をテーブルに置き、若林は怪盗ボールに思いを馳せる。 一度、手を掴んだことがある。白い、細い手をそのまま手繰り寄せようとしたが、すぐにすり抜けてしまった。
スレンダーな肢体をマジシャンのような衣裳に包み、夜空を駆ける美少女。 顔をはっきり見たことがある訳ではないが、若林は怪盗ボールは美人だと決めつけていた。月明かりや薄闇の下で見る姿は確かに風情があるが、陽の光の下だともっと輝くに違いない。 そう考えて、ふと頭に浮かんだのは、クラスメイトの岬の姿だった。人一倍サッカーもうまいのに、全力で抱きしめたら、折れてしまいそうに華奢な、クラスのアイドル。 だが、すぐに若林は首を振る。若林の知る岬は優しくて真面目で、およそ他人の物を盗むような人間ではない。 「若林さん、怪盗ボールです!」 滝の声で、若林はまとまらなくなった思考を放棄した。窓ガラスの外の人影を凝視する。 「気をつけろ」 叫ぶのとほぼ同時に、ガラスが空中で弾けた。まるで、最初から存在しなかったかのように、怪盗は簡単に侵入してみせた。 「伏せろ!」 若林の檄が飛ぶ。若林自身も身を伏せるが、用意していた投光機を逆手にとられ、突然照射された前回とは違い、天井から降って来たのは花びらだった。一枚一枚は薄い花びらも、大量に降れば、手に追えない。思わず顔を覆った瞬間に、照明が落ちた。 「しまった!」 花吹雪の向こう側に、人影が透ける。視界の悪さに拒まれながらも、若林はのろのろ進んだ。とはいえ、絵が掛けられた壁のところの物音を見過ごす法はない。 「怪盗ボール」 不意に呼びかけられて、岬は一瞬身体を固くした。照明のない闇の中で、誰かがいるのが分かった。その誰か、が若林だということも。 岬は慌てて身を翻し、ライトをつけた。 「うわっ!」 閃光に一瞬目を灼かれて、若林が目を逸らす。それを見計らって、岬は飛び上がり、窓の桟に飛んだ。 「ま、待て」 若林は目を開けてはいられなかったが、気配を追って手を伸ばす。 「あっ」 思わず声を漏らし、岬は慌てて口を押さえる。足を掴んだ若林の手が、ゆっくりと上って来ていた。 「逃がさないぜ」 このままでは引きずり下ろされる。岬は上衣のポケットを探り、三杉に貰ったアトマイザーをー取り出した。掴まれている右足を軸に体を振り、左足で蹴り入れて、引き離したところで、アトマイザーで強襲。教練のお手本になりそうなほど、見事に頭の中の手順をやってのけ、岬は倒れ込んだ若林を見下ろした。
捕まる訳にはいかないけれど、どうせ捕まるなら。
岬はそのまま窓の桟に飛び写り、バルコニーに出た。追って来る者もいないし、今日も何とか早く帰れそうだ。 「おやすみ。いい夢を」
若林が目を覚ますと、怪盗ボールも絵も影も形もなかった。他の者達も、アトマイザーでやられたのか、まとめて縛りつけられている。毎回ここまで完膚なきまでにやられると、怪盗ボールが荒っぽくないのだけが救いとしか言いようがない。 それにしても。しなやかな足だった。蹴りも強烈で、さすがにいいバネをしている。完敗感を拭い切れない気を引き締めて、若林は周囲を起こし始めた。
「おかえり」 「ただいま。例の絵も届けてきたよ」 そう言い終えて、岬はステッキを振った。寮に戻る前には、怪盗の痕跡は消しておかなければならない。 「さすがは、岬くん。顔色が優れないけど、疲れた?」 三杉の問いかけに岬は静かに首を振る。うまく逃げられたとはいえ、足を掴まれたのは予想外だった。少しずつ這い上がる手には他意などなかったけれど。・・・あのまま捕まっていたら、どうなったのか。 「ううん、何もないよ。それより、そっちの手配は?」 「こちらも大丈夫。明日には中西の犯罪のニュースが新聞に載るよ」 安堵の様子をみせた岬の様子を眺めながら、三杉は人知れぬため息を漏らす。岬は悪い冗談だというけれど。その心を乱す、恋とはそんなにいいものなのだろうか、と。
(つづく)
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何事か、と思われたかも知れませんが、某少女マンガとWパロディです。これを思いついた時期、パラレルで若林くんと岬くんが敵同士、を書いており、少女マンガの新装版が出ているのを見たら、また書きたくなってしまったのでした。 元ネタをそこかしこに残しているので、妙かも知れませんが、ご勘弁を。 でも、若林くんと元ネタがかなりかぶっているので、自分だけは萌えていました。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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