※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 「岬、運命って信じるか?」 若林くんの言葉に、一瞬声を失った。目の前の若林くん程、運命とか、そういう言葉で片付けられる、たいてい不幸な偶然、に縁のなさそうな人はいない。そんなものを持ち出すには、ずいぶん恵まれているし、何よりそんな曖昧で逃げ道になりそうな言葉は嫌いだと思い込んでいた。
今度、僕の地元、フランスではパリで行われる世界Jr.ユース大会。日本のサッカー協会から参加するよう誘われたのは嬉しい。だけど、すぐに飛びつく気にはなれなかった。自分のサッカーが、自分が通用する自信がなかった。 若林くんが運命、を持ち出したのは、その話の最中だった。つい、不思議そうな顔をした僕に、若林くんはソファーの前に置かれたカップを手にして、くいっとあおった。 「俺は、信じるようになった」 ソーサーに戻されたカップをぼんやり眺める僕に、若林くんが腕を伸ばして来る。肩を抱き寄せられるままに、そのまま寄り添う。
「岬と初めて会ったのは、対抗戦の日だったよな」 若林くんがポツリと言い、僕は小さく頷く。南葛小学校に転校しての、初めての登校日だった。 「岬が転校して来たのがあの日じゃなかったら、って考えたことがあってな」 静かな声に聞き入る。転校して来た当日に、僕は南葛と修哲の対抗戦に出場することになった。若林くんと翼くんと。怪我をした石崎くんには悪いけど、 見ていてあんなに興奮した試合は初めてだった。 「対抗戦の前半と後半とでは、翼のサッカーが変わったんだ。それまで一人でサッカーしていた奴が、急にチームプレーをし始めて、試合中に進化していったからな。それまで、俺は負けたことなんかなかったし、翼に負けたのもまぐれだと思ってたんだが・・・危機感を感じたな」 淡々と話してはいるものの、初めて聞く話に、つい引き込まれてしまう。あの時は、あのすごい試合に加われる幸せに、僕の目は眩んでいた。 「本当だぞ。5年の時の全国大会でも、危なげなく優勝したからな。それが、お前ら二人だと、勝てる気がしなかった。何というか、新しい世界が見えたと思った」 「それは分かる気がする」 あの時、翼くんと走り始めた時、体も中を風が渦巻いているような、不思議な感覚がした。敵として対峙した若林くんのプレッシャーに、でも負けたくはない気持ちに駆られた。切り取られたその一瞬は、思い出の中いつまでも消えない。 「もし、岬が来たのがあの日じゃなかったら、あの感覚は味わえなかったろうな。それで、あの対抗戦がなかったら、南葛SCにも参加しなかったんじゃないかって思ってな」 確かに、若林くんは翼くんと戦うことをずっと意識しているフシがあった。修哲単独でV2を狙っても不思議はなかった。その若林くんが、チームプレーの力を知って、南葛SCというチームに入るに至ったきっかけに寄与できたとしたら、それは嬉しいけれど。 「そう言われたら、あの日を逃していたら、僕は若林くんと戦わなかったかも知れないね」 「な、運命の出会いだろ?」 もたれかかっている僕の頭が優しく撫でられる。すごい偶然の重なりで、こうして二人いるのだと、感じずにはいられない。 「まあ、対抗戦の前にも運命の出会いがあったしな」 僕を包む腕に手を添わせ、その手の暖かさに、もう離れられないと覚悟する。この手を失うことなど、思いたくはない。 僕が重ねた手を、そっと持ち上げ、若林くんは優しく笑った。
運命なんて信じない。でも、僕に運命を感じてくれた君のことは、信じる。
言葉にできないまま、僕は目を閉じた。そのまま降ってきた口付けに身を任せながら、おそらくJr.ユース大会に参加するだろうと思っていた。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 運命、なんて信じない二人だと思いますが、あえて書いてみました。 岬くんがあのタイミングで転校してこなければ、南葛SCはなかったと私は個人的に思っています。若林くんは、もし負けたらリベンジするようにしか。 まあ、マンガのご都合主義と言ってしまえば何ですが、ボーイミーツな出会い方含め、運命の相手ですよね。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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