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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
俺とあいつと友達と
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。

「だめだよ。そんなことしちゃ・・・」
そんな言葉に、ぎょっとした。
隣で眠る岬は、うなされているようだったが、舌ったらずな口調は妙に甘い。
「ん、どうした?」
寝言に応対してはいけないと言うが、つい返事をしていた。
「そんなことしたら、若林くんに怒られちゃうよ」
どうやら、俺以外の人間との夢を見ているらしい。それにしては、不穏当な内容じゃないか?
「何を怒られるんだ」
こうなれば最後まで聞くしかない。つい語気荒く、詰問しているかの口調になる。
「だめだよ・・・井沢」
それ以上は聞けなかった。すぐに寝室を出て、居間のソファに寝転んだものの、寝付ける訳がない。電気もつけないまま、カーテンの隙間から漏れる月の光だけの天井を睨みつける。

 岬は、何と言った?

 俺に怒られる。
 そんなこと。
 だめ。
 井沢。

 井沢は岬と南葛高校で隣のクラスで、チームメイトで、コンビを組んでいる。おそらく、父親を除けば、一緒にいる時間は一番長いだろう。恋人とはいうものの、休暇の度に数日会うだけの俺とは比べ物にはならない。だめだよ・・・何て言われることは、それこそ年に数回あるかないかだ。
 井沢の人となりは、俺自身よく知っている。要領は良いが、真面目で、努力家で、岬とはさぞ話が合うことだろう。あまりもてるので、来生と滝にトリオ解消を言われたこともあると聞く。井沢の性格を知らなければ、大事な岬の側には置いておけないと思う。

 だからこそ、解せないのだ。岬が俺を裏切るとは思えない。井沢が俺の目を盗んで、岬に手を出すなんてありえない。先日も手紙でやりとりしたばかりだ。だが・・・。岬の口から語られた言葉に、どうしても邪推せずにはいられなかった。

  次の日、岬はいつも通りの様子で起きると、俺の為に朝食を作ってくれた。
「若林くん、おはよう。・・・どうしたの?」
岬に言われるまでもなく、ひどい顔色なのは想像できた。情けないことに、ほとんど眠れなかった。
「何でもない」
岬を信じている。井沢を信じている。だが、不機嫌になる声をごまかせなかった。
「若林くん」
岬は俺をまっすぐに見上げた。心配そうに見つめる瞳は、相変わらず澄んでいて、後ろめたさなど微塵も感じさせない。
 もし、万が一岬が浮気をしていたとしたら、それはおそらく本気に違いない。そして、こんな目では見ないだろう。 
「大丈夫だ」
少し落ち着いた声が出せた。岬はまだ心配そうに眉根を寄せながら、頷いた。 

 岬と食べる食事はうまい。気を遣って作ってくれるのもあるが、目の前に優しい笑顔の岬がいて、他愛のない話をして・・・この時間を失いたくない。そして、岬を。気持ちは動揺するが、信じようと思った。
「岬、高校の方はどうだ?」
オムレツは相変わらずフワフワで、スプーンの中で湯気を立てている。玉子には醤油が一番という主義だったが、それを返上させた代物だ。
「みんな相変わらずだよ」
岬はにこやかに微笑みながら、レタスをつまんだ。レタスが小気味いい音を立て、形の良い唇が、また微笑む。岬もまたこの時間を楽しいと思っていることが、それだけで伝わる。

 食欲が満たされ、我ながら少し落ち着いたところで、懸念事項を片付けることにした。岬のいる時間は限られている。それを無駄にしてしまうのは、得策ではなかった。
「最近、俺が怒るようなことなかったか?」
他のことなら、疑義が出た段階で問い詰めてしまえるが、こと岬のこととなると、時々踏み込めなくなる。柄にもなく臆病に言葉を選び、それだけ口にすると、岬は少し驚いた様子で口を押さえた。
「・・・どうして分かるの?」
わずかに赤くなった頬が、岬の感情の揺れを示している。
「どうした?」
岬の動揺を衝くように、言葉を重ねた。俺を見上げる岬の様子に、困っていることが見て取れた。結局岬が口を開いたのは、しばらく逡巡してからだった。

「この前、君の手紙に、1000本シュート練習しているって書いてたよね?」
「ああ」
岬宛の手紙とは別に、時々サッカー部宛にも手紙を送っている。修哲出身の連中はもちろん、他の奴らも昔なじみが多いのだ。
 1000本シュートは、1000本ノックにならったシュート練習のことだ。他の訓練をおろそかにすることなく、シュート練習の質と量を。見上さんの教えは未だに学ぶところが多い。
「それで、みんなが森崎くんにも1000本シュート練習やろうって言い出して」
「ああ、そう言うだろうな」
その流れは簡単に想像できる。「若林さん、相変わらずすげえな」と来生あたりが言い出せば、石崎か浦辺辺りが面白くなさそうに「そんなに練習してたら、誰だってうまくなるよな」と言い出し、「何だと」と滝あたりがすごんだところで、「まあまあ、俺達の練習にもなるんだから、森崎鍛えようぜ」と岸辺辺りが乗っかったのだろう。
「僕はやめた方が良いって言ったんだよ」
「だろうな。100本あたりから始めないと、逆効果だろう」
シュート練習は、ただシュートに対する反応を鍛えるものではない。確実に取っていく感覚や自分の限界を知り、体力や精神力を養っていくことも必要になる。成功イメージを積み重ね、徐々に自分を鍛え上げ、完成させるというのが近い。
「いつもはそういう時は井沢が止めてくれるんだけど」
やや暗い岬の口調で次の展開が分かった。
「止めなかったんだな」

「それどころか、森崎を説得までしてた」

 だめだよ。怒られちゃうよ。
なるほど、そこにつながるわけか。理解はできたが、納得には至らない。・・・そんなことが夢に見るようなことなのか?
「岬はずいぶん気にしているみたいだな」
俺の言葉に、岬はもう少しだけ表情を曇らせた。
「うん・・・森崎くんは真面目だからね。それで、次の日、学校休んだんだよ」
ああ、なるほど。森崎のメンタルならさもありなん。岬は最初から分かっていて、止めようとした。だが、結果はそうならず、岬は本来なら一緒に止めてくれていただろう、井沢に憤っていた。
「確かに、俺は怒るべきだな」
話を一通り聞いてから、腕組みをした。岬はおかわりのコーヒーを注いでいた手を止めて俺を見た。
「それくらい断れなくて、森崎はどうする気だ」
GKは守備の要だ。冷静に判断し、的確な指示をしなければならない。自分の状態も分からないでどうする。
「他の連中も、だ。判断が甘い」
本人にあった練習でなければ、意味がない。修哲時代に随分教えたつもりだったが・・・と考えて、岬を見た。相変わらずコーヒーポットを持ったまま固まっている。何を言われるか待ち構えて固くした肩に手をまわして、ポットをテーブルに置く。背中越しにまわした腕に、岬が驚いたように俺を振り返る。
「お前もあんまり一人で背負おうとするな」
腕の中で、岬が少しだけ緊張を解く。ふんわり預けられた身体に、岬がこの華奢な全身に、どのくらいの思いを秘めているのかを感じさせられた。
「そんなんだから、井沢が心配するんだ」
この前届いた手紙にも、岬の責任感について書かれていた。チームの底上げをしていかないと、岬の負担が大きすぎると。
「・・・そうかも知れない」
独り言のように呟く岬を思い切って抱き上げた。戸惑うのを承知で、肩の上に担ぎ上げる。
誰にでも、心を預けろ、とは言わない。だが、お前はもう少し俺の仲間を信じてもいい。まだまだお前に導いてもらわなければならないだろうが、きっとお前を助けてくれる。
「とりあえず、お前に必要なのは、素直さだな」
「ええっ!?どうしてそうなるの?」
そう言いながらも、ぎゅっと抱きついたままの岬に、顔がゆるむ。
「俺に必要なのは、岬との昼寝」
やっと安心して眠れそうだ。その前に、ハラハラさせてくれたお礼はしてやるが。
「もう、若林くんったら、さっきはちょっとかっこよかったのに」
意地っぱりの恋人は、腕の中で困ったように微笑む。優しい声はいつもよりちょっぴり甘い。・・・たとえ夢でも、井沢にそんな声出すなよ。そう思いながら、しそびれた朝のくちづけを交わした。

(おわり)

拍手ありがとうございます。

今回の話は、80,000Hit前後賞のなお様のリクエストで、「岬くんの浮気疑惑で慌てる若林くん」で、
お相手は井沢くん・・・とのことでしたが、
見事に慌てていませんね。
若林くんは岬くんの行動力を知っているので、出て行く、等の行動がない限り安心していそうです(と書いてから気がつきました)
ずいぶん遅くなってしまった上、脇が甘くて申し訳ないのですが、ご笑納ください。
でも、機会があったら、浮気疑惑はもう一回やりたいと思います。(やっぱり慌てる若林くんが書きたいので)
今回はリクエストありがとうございました。

拍手のみの方もありがとうございました。励みになります。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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