fc2ブログ
今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
花束
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。



 あいつが来る。

「今度の連休、父さんがスケッチ旅行だから、若林くん家に遊びに行っても良い?」

 電話の向こうの声を聞いているだけで、胸が高鳴る。相手はまだフランスで、遠く離れているというのに、息が苦しくなるようだ。
「もちろん、待ってるぜ」

 電話を切った後も、耳の中に声が留まるようで、激しくなった鼓動は収まりそうにない。それでも、笑い声の余韻さえも聞き逃さないように耳を済ませ、うるさい心臓の音を落ち着かせる。胸を締め付ける苦しさは、何故か甘く感じられた。

 岬に会える。

 何もしなくても、ただ一緒にいるだけで、俺の心は掻き乱された。こうして、あいつのことを考えるだけで、俺は。

「ゲンさん、何か良いことでもあったのか?」
いやらしいからかいと、もっといやらしいニヤニヤ笑いの主は言わずと知れたカルツだ。
「うるさい」
睨みつけていなすが、敵もさるものだ。
「おお、こわいこわい。睨んでも肝心の顔がにやけてるぜよ」
かえって覗き込んで来ようとするのを、帽子のつばを少し下ろした。にやけているのは自覚している。
「練習も終わったし、さっさと帰るぞ」
足早にクラブハウスへ向かう俺に、カルツが追い縋る。
「そう言えば、オスカーが意中の相手を口説き落としたらしいぜ」
「何ィ」
カルツの指差す方に目だけを動かす。確かに、オスカーは今日も絶好調だった。数週間前の絶不調が嘘のようだ。
「おうよ、おかげで大損だぜ」
カルツはオスカーには無理だと踏んでいた。俺も一口誘われたが、何となく乗り損ねて、そのままだった。
「へえ、そりゃ快挙だな」
少し歩みを緩めたのを、もっと聞きたいというサインと読み取って、カルツは口を開く。
「一人勝ち狙いのアルの奴、彼女の誕生日にバラの花束を贈れってアドバイスしたらしくてよ」
確かに、アルならやりかねない。
「それでうまくいったのか」
「幼なじみで、友達だと思われてたのが、無事告白できたらしい。花言葉がどうたら言ってたな」
カルツはつまらなそうな口調を装いつつも、どことなく嬉しそうだ。おそらく、アルとオスカーに奢らされたのが気に喰わないだけと見た。
「へえ・・・」
とりあえず、聞いた以上はオスカーに祝いの言葉でも・・・と考えて、ふと気付く。

 花束。

 さすがに、それなら特別の贈り物だと思うだろう。いくらあいつでも。

 会いには来てくれる。二人で遊びに行ったりもする。
 でも、好きだと言っても信じてくれない。

「あ・・・ゲンさん、どうした?」
「悪いな、用事を思い出した」
そのままカルツの声を振り切って、俺は走り出した。

 花屋まではすぐだった。あるのは知っていたが、目の前に立つのは初めてで、改めて不慣れな場所だと気付く。
 店先には色とりどりの花が並び、入りにくいことこの上なく、よく考えると花なんて買ったことがない。
「入るの?入らないの?」
ふと見ると、店に入ろうとする客の邪魔になっていたらしい。それ以上謗られない内に、店先に滑り込んだ。
 幸いなことに、ディスプレイ棚には花束がいくつか置かれていた。おそらく完成見本だと思って、順番に眺める。 矢車菊の青がきれいな花束、すっきりしたカラーを軸にした花束、と見て、端にあったピンクの花束に目を留めた。
 優しい色で統一された、可愛らしい花は岬の姿を思わせた。
「じゃあ、それ・・・」
言いかけて、ふと隣に目を移す。隣に置かれた、白い大輪のユリに気付いた。

 ひどく目立つ訳ではないが、しなやかな首を伸ばし、凛と立つ白い花。

 思えば、そういう奴だった。いつも花のように笑っているくせに、確と立って、隙を見せてもくれない。
 俺が選んだのはそういう花だった。

「若林くん、急にごめんね」
いつものように、駅に迎えに行き、俺の家に向かう。
「いや、俺はいつでも大歓迎だぜ」
「ふふ、ありがとう」
本心からの言葉だったが、岬はまるで面白い冗談でも聞いたかのように、明るい笑い声を立てる。そう、いつもこうやって、するりと身をかわされるのだ。軽やかなドリブルさながらに。

 でも、今日は違う。

「岬、これ」
家に着いてすぐに、用意していた花を手渡す。岬は不思議そうに花と俺の顔を見比べる。
「プレゼントな」
「花?」
「そう。お前のイメージ」
実際、白い花を抱く岬の姿は想像していたよりも、ずっと鮮やかだった。いつもは表面の可愛さに隠れている岬の中の強さが際立つようだった。
「僕のイメージ?」
岬は口元に薄く笑みを刷き、俺を見上げた。
「若林くんって案外僕のこと見てるんだね」
白い花と対照的な赤い唇が、いたずらっぽく笑ったまま、大きな花弁に触れる。
「可愛いだけで口説いていると思ってたか?俺はお前の強情っ張りも気に入っているぞ」
「・・・ありがとう」
少しはにかんでいるのが分かった。少しだけ視線を外された隙に、そっと肩に手をまわした。

(おわり)

お久しぶりです。
(20)11年11月11日。
この日に頑張らないでいつ頑張るんだ、ということで。

相変わらず手が痛いので、思考速度に追いつかない。考える半分も打てていないので、スカスカですみません。
スポンサーサイト



テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


コメント

コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


トラックバック
トラックバック URL
→http://sukinamono11.blog63.fc2.com/tb.php/785-e287df5e
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)