※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 見れば見る程可愛い子だった。 透き通るようなすべすべの肌に、人形のように整った顔立ちで、僅かに微笑みながら、その子は眠っていた。静かな寝息に、細い体が上下する。白い瞼、長い睫毛、桃色の甘そうな唇。シュナイダーが残念そうな顔をしたのも、意地悪な表情で立ち去ったのも納得がいった。 可愛いだけではない。優しい顔は何故かとても懐かしい気がして、目が離せなくなった。
目が覚めたら、どんな顔をするのだろう?どんな風に話すのだろう?
見たくなった。
肩を掴んで少し揺さぶる。嘘のように軽くて、そう強くしたつもりもなかったのに、細くてサラサラの髪が揺れた。 「・・ん・・・っ」 瞼がぴくりと動いた。僅かに開かれた唇から漏れた吐息に、心臓が掴まれたかと思うほど、ドキッとした。どうやら、眠りが浅くなっているらしい。 眠りが浅くなったのは分かっていたものの、可愛らしい寝顔を見ていたら、柔らかそうな唇に触れたくなった。吸い寄せられるように、唇を近付けて、キスをしようとしたその時に、大きな目が開いた。
ぱちぱち
不思議そうに、瞬きをした後、俺の顔を見つめる。シュナイダーは俺が動じなさ過ぎだと言ったが、こいつも相当だと思う。見知らぬ男と二人きりなのだ。 「ここ、どこ?」 優しい声で発せられたのは、確かに日本語だった。薄い茶色の大きな目は、不安さをにじませているが、脅えてはいない。 「ここは俺の家。俺は若林」 シュナイダーの言葉をどこまで信用していいものか。できるだけ簡素に答えたのだが、返って来たのは笑顔だった。 「よろしく、若林くん。僕は岬太郎」 一瞬戸惑った。確かに美人ではあるが、僕、って、男じゃないか! ちゃんと「schöne Frau」って注文しただろうが。
出来損ないのファウストを心の中で嘲笑しつつも、目の前の岬を見る。確かに、中性的で俺も女だと思い込んでいた。ドイツ産悪魔にはもっと判別できないだろう。 そんなことはどうでもいい。俺を見て微笑んだ岬は、本当に可愛かった。まるで、大事に育てた花が開いたような、そんな気持ちになった。 「こちらこそ、よろしくな」 岬が起き出そうとしたので、岬の体の下に手を差し込んで、抱き起こした。 男だと分かってはいても、華奢で優しい顔立ちは、つい目がいった。開かれた岬の瞳は、閉じられていた時に思い描いていたものより、ずっときれいで、印象的だった。 そして、目の前で動く岬は新鮮だった。ふんわりと笑うのに、少し寂しげな目が気になって、すべてを知りたいと思った。 「お前のことを聞かせてくれないか?」
岬は肩に手をまわした俺の顔を見つめ返した。長い睫毛が影を落とし、茶色い瞳までも蔭って見える。 「たいした話じゃないよ」 「それでも良い」 押し切られるように、岬は切り出した。辛そうに伏せられた眼差しに、かえって目を奪われる。 「父さんが、いなくなったから、途方に暮れて、気がついたら、川に落ちてて」 気が付くと、岬は小刻みに震えていた。途切れ途切れになった言葉も、痛々しい。 シュナイダーは、蘇生させた、と言っていた。それがどういう状況かは分からない。ただ、尋常だとは思わなかった。 「もういい」 岬を抱きしめた。細い身体は簡単に腕の中に収まってしまう。岬の震えは止まらない。 「僕は大丈夫だから」 震えているくせに、岬は顔を上げて、微笑んだ。その笑顔はきれいではあったけれど、余りに痛々しくて、俺は我慢できなくなって岬を強く抱きしめた。 「嘘つくな」 岬が動けないほどきつく、胸に押し付けてしまう。
頼むから、泣いてくれ。
心の中で呟きながら、岬の髪をできるだけ優しく撫でた。
恋に落ちるのが、こんなに簡単だとは知らなかった。
(つづく)
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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