※二次創作です。女性向け表現を含みます。苦手な方はご注意下さい。 
「岬さん」 呼びかけても、起きる様子はなかった。本当に疲れているらしい。起こさぬように配慮しながら、岬の顔の近くまで移動した。
二年の岬は、最近この学校に転校してきた。元々の可愛さに加えて、柔らかい物腰と綺麗な微笑みで、今や男女問わずすごい人気を誇っている。 つい先日までは、俺と翼だけのアイドルだったのに。とはいえ、同じ部に入ってくれたことだし、まだまだ機会はある。 今日は、たまたま職員室で顔を合わせ、帰りの廊下で話していたら、顔色の悪いことに気付いた。表情も辛そうだ。 「岬さん、具合悪いなら保健室に行った方が良い」 「若林くん」 岬は遠慮がちに微笑んでいたが、やがて俺を見上げた。 「参ったな。ばれないようにと思ってたのに・・・悪いけど、連れて行ってもらっても良い?」 その辺の奴なら笑顔でごまかされるかも知れないが、俺は違うぞ。具合が悪いのなんてすぐに分かる。 「分かりました」 恭しく微笑んだ俺は、おもむろに岬を抱き上げた。 「ちょ、ちょっと」 戸惑うのも気にしない。確かに周囲も騒がしいが気にしない。姫の危機に駆け付けないのは騎士として、失格だ。そして、その危機に身を預けられるのは誇らしい。 軽い身体を抱いて、保健室まで運ぶ。柔らかい抱き心地や良い匂いや、きれいな顔のアップなんかにすごくドキドキして、このままこの時間が続けば良いと思わないでもない。だが、一刻も早く楽にしてあげたい。
保健医はあいにく席を外していた。 「横になった方が良い」 俺の言葉に岬は素直に頷いた。制服の上着を脱ぎ、カッター姿になると、ベッドに横になった。 着替えは見慣れてはいるが、学ランを脱ぐ時のしどけない仕種や、首や襟足のはっきりするカッター姿や、腰の細さが際立つ無防備な服装に、思わず視線を外してしまう。あの身体をさっきまで抱いていたかと思うと、改めて胸に、きた。 「あ、眼鏡外さないと」 岬はそう言うと、眼鏡を外した。クラブ以外ではかけているらしいが、目の前で目を閉じられるのは、心臓に悪い。近い。 「岬さん、とりあえず寝てろよ。俺見張ってるから」 「でも・・・」 俺はベッド横の椅子に腰掛けて、腕を組むと、目を閉じて眠るふりをした。 「分かった。ごめんね」 岬は微笑み、目をつぶった。色が白い分、淡いピンクの唇と、黒いまつげの長さが引き立つ。 きれいだ。 横顔を見ているだけで、うっとりするくらい。だが、それだけではない。見ているだけで胸が熱くなるのは。 「岬さん」 もう寝てしまったらしい。アルバイトをしながら、自活をして、サッカー部も続けている。さっき抱き上げた時も、ひどく軽かった。 「岬さん」 そっと近付いた。起こさぬように接近して、寝顔に触れた。予想通り触り心地の良い頬だった。 「・・・ん」 岬は少し声をあげはしたものの、目を覚ます様子はなかった。 知れば知るほど好きになる。昔の憧れではなくて、もっと切実に、抱きしめたくなる。助けたくなる。守りたくなる。昔の初恋なんて比べものにならない苦しさだ。 「あひ見ての後の心に比ぶれば昔はものを思はざりけり」 百人一首の一句を思い出す。恋がこんなに苦しいとは、知らなかった。 「目が覚めたら」 この気持ちを打ち明けよう。これ以上、切なくなる前に。
(おわり)
南葛高校サッカー部のある意味本編です。絵を描いたらどうしても書きたくなって。 いつも、書きたいシーンが心の中にあって、そのために設定を作ることが多いです。 大概そのシーンが変なのもご愛嬌。 更に、完成した話が当初の予定と大きく異なる場合だらけ。あれ? 本当に、こういう話になる予定だったんですってば。
from past log<2008.11.9>
スポンサーサイト
テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
|