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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
今は嫌だって言うなよ
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。

 日本に戻ろうと思う。
 そう告げた時、若林くんは少し置いてから、そうか、と言った。

 フランスのみんなみたいに、残念だとかもったいないとか言われるんじゃないかと、心配していたから、安心はしたけど、がっかりしたのも確かだ。
 え?それだけ?とちょっと淋しく思った。

「じゃあ、フランスのチームには行かないんだな?」
「う、うん」
若林くんがどうしてそんなに声を弾ませているのか、嬉しそうなのか分からない。確かに、前にこっちに来てくれた時、何だか不機嫌そうだったけど・・・。
「みんな良い仲間なんだよ」
「Nein」
フォローの言葉は強い否定に掻き消された。ドイツ語ってただでさえ語気が強いのに、口調を荒げられたら敵わない。
「あいつら、ゴールする度にお前に抱きついて!俺だって我慢してるんだぞ!」
・・・そういえば、そんなことを言われた覚えがあった。点が入った時に、抱き合って喜んでいたら、若林くんは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
 ただの冗談だと思っていた。

 何度か来た若林くんのアパートも、これで見納めかも知れない。僕の定位置はソファーの右側だった。台所から戻ってきた若林くんが左側。
「君だって、こっちじゃそうじゃないの?」
何度か見た光景を言い返しただけだったけれど、そのまま抱き寄せられた。試合中だと何ともないことなのに、恥ずかしくて仕方ない。
「まあ、あいつらが抱き着きたくなる気持ちも分かるけどな。岬、嫌だったら、すぐ言うようにしろよ」
言い聞かす口調が子供みたい、だと笑おうと思った。でも、心臓がドキドキして、それが妙に心地好くて、言葉にならなかった。そのまま黙って抱き締められるしかなかった。
「・・・今までみたいに会えないのは寂しいな」
僕の頭の少し上で、ため息交じりの声がした。声は静かなのに、押し付けられた胸から響く鼓動は激しくて、なんだか僕の方まで寂しくなってしまった。・・・お別れなんて、いつものことなのに。
「バカなこと言わなくなったら、会いに来るよ」
こみ上げてきた何かをごまかすように、からかいの言葉を口にした。若林くんはようやく僕を離してはくれたけど、僕の手は掴まれたまま。
「俺は本気だぞ」
低い声が呟いた。握られたままの手が熱い。僕の頑なさを蕩かすように、痛いほど熱い。

 冗談だと思いたかった。これから遠くに離れるのだから、これ以上は聞いちゃいけないと分かっていた。

 ソファーに掛けたまま、一歩後ずさりをする。このままじゃ、離れられなくなる前に。
 でも、少し遅かった。

「岬にこういうことして良いのは俺だけ。・・・まあ、翼は仕方ないから許すけど・・・後は認めないからな」
 若林くんは笑っていなかった。ふざけた台詞を口にしながら、僕を見下ろす眼差しは真剣そのもので、容赦なく捕まえられた。
 抱きすくめられた腕の中、自分の鼓動がうるさい。
 抱きしめられる度に、胸が締め付けられるように苦しくなる。本気にしたら、辛いのはきっと僕の方だ。
「や、やめてよ」

 やっぱり本気だと思わないことにした。

 だって、君が寂しがってくれているって、ようやく分かったから。
 離れていくのが、もっと寂しくなった。
 さっきの冗談を受けるように、でも、嫌だとは言いたくなくて、少し抗議した。

「今は嫌だって言うなよ」
若林くんは自分の言葉も忘れたかのように、動じなかった。
「俺はいつだってお前を抱きしめたかった」
そして、告白は始まった。

(おわり)

拍手ありがとうございます。
とりあえず、バカな話にするつもりが、別離のせいで、違うものに。(って、いつもですが。)

ここ数日繋がりにくいです。困ったものです。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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