※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 「何だ、これ?」 「レクリエーション用のカラオケ機材」 あっさりと答えた三杉に、周囲は呆気に取られる。反町がリクエストしていたのは知っていたが、本人すら実現不可能と思っていたのである。 「ただし、歌えるのは今日の紅白戦の勝利チームのみ!」
三杉らしい思い付きだ。ポジションに移動する時も早田は最初から宣言していた。 「阪神メドレーを聞かしたるしな!」 やる気全開らしく、滝と来生を次々転ばせていた。 カミソリタックルは健在らしいが、カラオケで鋭くなるってどんなカミソリだよ。しかも阪神メドレーって何だよ。 俺は心の中で突っ込みながら、左を上がる。岬がまわって来ていて、さすがによく見てるな、と思う。新田が上がってるから、センタリングを上げるつもりのようだ。 「松山ー!」 それほどアピールしたつもりはなかったが、ちゃんと分かっていたみたいだ。正確極まりないセンタリングが届く。 「よしっ!」 いけると思った。だが、若林は一歩も譲る気はないらしい。キャッチしたボールをセンターの三杉に送っている。 「通さない!」 下がっていた井沢が三杉をマークしている。俺が上がるのと同時に下がっていたようだ。 「ちっ!」 三杉が佐野にボールを流す。それを早田がすかさず止めた。 「ほな、いくでーっ」 早田のパスを今度は三杉がカットした。
さすがに、カラオケがかかると目の色が変わったのか、決勝ゴールを決めたのは早田だった。あんなにオーバーラップする早田を見るのは久しぶりだった上、あんなに小回りがきいたのかと、不思議になった。 「まあな。人間やってできんことはないわ」 「じゃあいつもやりたまえ」 軽口を叩く早田を戒めつつ、三杉がカラオケセットを用意する。 「岬は何歌うんだ?」 「ええっと・・・」 そこで俺は気付いた。試合の時にあれだけイキイキしていた岬が、おとなしくなっていることに。 「あのね、松山。僕あまり曲って知らなくて」 流行歌が教科書に載るようになったのは最近で、俺と同い年の岬はその恩恵には与っていない。 岬が親父さんと暮らしていた家には、テレビなどなかった。暇な時は本を読む、と学校の図書室で借りていたのを思い出す。 「千春なら歌えるだろ?」 「それはお前ら道民だから」 折角の名案さえ、若林に却下される。岬も小さく首を振る。 「La Marseillaiseなら何とか」 「…それはさすがにカラオケにないだろ」 ってそれは何?背後では一番手の早田が六甲おろしを熱唱し始めている。 「そのラ何とかって何だ?」 「フランス国歌」 カラオケの本を操っている岬の横で、若林が答える。敗者には歌う権利がないから、ゆっくり高見の見物を決め込んでいるらしい。 「君が代じゃだめかな?」 「お前真面目に探しているか?」 とはいえ、見物にも徹していられないらしい。いちいちボケたことを言う岬に取り合っている。 「松山は決まったの?」 「とっくに」 岬がこんなに焦っているのを見るのは初めてかも知れない。横から口を出す若林も、思いのほか楽しそうに見える。 「じゃあ、このジュビロ応援歌で」 「岬、落ち着けっ」 確かに、若林の言う通り、自チームの応援歌はまずい。収拾がつかなくなると話すと、岬はしぶしぶ納得した。 「もういいや。若林くん歌って」 「いやだ。岬の歌が聞きたい」 二人とは、本当に長い付き合いだ。それだけに、こういうワガママを言うとは思わなかった。特に、岬は意外だと思った。仕方ないので、助け舟を出すことにした。 「心の旅、小学校の頃、音楽会で練習したの覚えているか!?」 「あ…っ!」 俺の言葉に、岬が声を上げる。小学校の頃、担任の先生が好きだと言った歌を一緒に練習した。その歌を歌いながら、ドリブルをして帰った。 岬が旅立った後、何度かその歌を思い出した。 歌詞が岬を思い出させたのもある。 「覚えているよ」 岬は静かに微笑んだ。その微笑みに、あの歌詞は、確かに岬には辛いのかも知れない、と思った。
結局、岬の番になって、若林と二人で乱入した。岬の歌が聞けなかったのは残念だが、俺達の乱入に、岬はとても嬉しそうな笑顔で報いた。岬の心を痛める歌詞も、賑やかに歌い上げた。
カラオケセットは、結局次の日に撤去された。吉良監督の眠りを妨げたせいだ。 早田はぶつぶつ言いながら、今日もガンガンオーバーラップしている。 岬は、今日も淡々と練習に取り組んでいた。その横顔はどこか安心したようにも見えた。
(おわり)
拍手ありがとうございます。
音楽話を。岬くんって教科書で習う歌以外知らなさそうなイメージがあります。某同人誌でトロイカ歌っていたイメージかも知れませんが。クラシックは聞きそうです。 若林くんも歌のイメージあまりありません。お坊ちゃんなので、ピアノとかバイオリンを習っていそうですが。 逆に、おでん屋で有線全制覇の日向くんやオペラもいけそうな三杉くん、美声を誇る井沢くん、十八番だらけの反町くん等、考えるだけでも楽しいです。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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