※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 「これ、懐かしいね」 俺の部屋の整理の手を止めて、岬が手にしているのは一冊の本。 「そんなところにあったのかよ」 懐かしくもある。だが、嫌な記憶や辛かった記憶も蘇る。
初心者用ドイツ語教本。
今でこそ、子供向きの本も充実しているらしいが、俺がこっちに渡った頃の子供向き教本ときたら、英語ばかりでドイツ語はないがしろだった。今のようにネットで検索できる訳でもないので、出入りの本屋にはお手上げだった。うちの執事がデパートの外商を呼びつけて怒っているのを見かねた見上さんが、サッカー協会の用事で上京した時に買って来てくれたから良かったものの・・・まあ、大変だった。
「これ、僕もお世話になったし」 本の上を軽く払い、ページを繰る岬の口元には淡い笑みが浮かぶ。お世話になった、というよりは俺が押し付けた本だった。少しでもこっちに来てほしい口実だったが、岬は熱心な生徒になってくれた。 「ドイツ語とフランス語って書くと似てる時もあるのに・・・耳で聞くと大違い」 岬がこぼしていたのが妙におかしかった。何でも如才なくこなす印象があったから、意外だった。だが、次に岬の発した言葉はもっと意外だった。 「君って偉いな、って思ったんだよ」 俺の手にもうぼろぼろになっている本を差し出して、岬が呟いた。 「そうか?」 「うん。だって、すごく勉強してたのが分かったもん。僕には父さんがいたけど、君はこの国で一人で戦ってたんだな、って思わされた」 岬の表情は変わりなかったし、声は静かだった。それでも、波ひとつない水面には現れない深い潮流を感じずにはいられない。誰も知らなくても、苦悩や戦いがあったに違いない。一冊の本から岬はそれを受け取ってくれていたのだろうか。 「そうでもないぜ。時々その本投げたりしてたし」 「何、それ」 俺が投げる真似をしてみせると、岬は笑い出した。手の中の本はあっけないほど小さく感じられた。
・・・遠くに来たものだ、と思った。
(おわり)
一昨日更新予定とか書いたくせに、忙しくて無理でした。すみません。 もっとラブラブな話を書く予定が・・・。 忙しいといけませんね。
スポンサーサイト
テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
|