※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 忙しいなら忙しいなりに、時間を捻出できた。どうせ休むための時間だったから、と自分に言い訳をして、岬は飛行機に飛び乗った。 岬は同年代の日本人の中では相当旅慣れている部類に入る。チケットの手配から目的地到着まで、最小限の手間でこなすことが出来た。 それよりも、プレゼント選びの方が時間はかかった。若林ほど何でも持っている上、物に対する執着の薄い人間は珍しい。それだけに、プレゼント選びはいつも難航した。 「欲しい物?別にないぞ。それより、次いつ会える?」 若林は決まってそう返して来る。自分には執着してくれているのだ、とその度に思いはするが、それでもプレゼントをあげる側の岬は困惑してしまうのである。 かと言って、若林がプレゼントに文句をつけたことはない。岬が選んだ、くれた、というだけで十分喜んでくれる。中でも手作りの物は特に嬉しいらしい。だが、岬とて忙しい。手作りの物、と言っても、入院中のように手編みのセーターを仕上げる程の時間はない。 「プレゼントは・・・そうだな、チームのグッズでも送ってくれよ」 そのリクエストに応えるのも癪だ。平気で飾ってくれるせいで、ポストカード一枚うかうかと渡せない。 「いや!」 毎度のやりとりは、傍から見ればご馳走様の世界であっても、当の岬としては悩みの種に他ならない。
それでも、岬は毎年妥協せずにプレゼントを用意してきた。何でも喜んでもらえると分かっていても、努力を怠らない。大変であっても、プレゼントを考えるのは楽しかった。喜ぶ顔が見たいから、と岬が困る程のプレゼントを寄越す若林の気持ちも、分からないでもない。喜んでくれたら、嬉しいと思う。
ハンブルクに着いたのは朝だった。オフの日でなかったら、若林に迷惑をかけるところだった。岬としては申し訳ない気持ちもあったが、迎えに来た若林は満面の笑みを浮かべていた。 「カレー作ったんだぜ」 「朝から?」 「そ。隣の部屋の奴に怒られないか、心配」 二人を隔てていた距離と時差の障壁が、一瞬で消えてしまうのを感じて、岬は微笑んだ。若林は不思議な程変わらない。岬の耳にも色々入って来ているのに、一切それを見せようとはしない。相変わらず、強くて優しい。 「来て良かったよ」 「ああ、ありがとう」 強いて言わせようとは思わない。岬自身、思いをすべて口にするよう言われたら、間違いなく反発するだろう。だから、せめて側にいよう。強がっても、虚勢を張っても、笑っていられる時間は大切だから。 ちゃっかりと肩にまわされた手に苦笑しながら、岬はしばらくはその姿勢を許すことにした。
そう長くいられる訳ではないので、岬の滞在時間はほぼ若林のアパートで費やされた。若林のカレーは自信作というに恥じない出来で、二人の会話を弾ませた。 「それで、松山ったら、三杉くんに宝石店のカタログもらったんだよ」 「それ、試合後にすることか?」 「だよね。小田くんのツイッターで知ったんだけど」 「ツイッターって便利だよな」 「君、フォロー早すぎだよ。石崎くんが笑ってたよ」 「あいつは俺に対する突っ込み早いけどな」 お互いのツイッターをフォローしているから、ほぼリアルタイムで情報が入る。メールも電話もあって、昔よりは距離は感じなくなった。それでも、視線が合う度に、触れ合う体温を感じる度に、いつもは離れているということを認識せざるを得ない。 「岬、もうちょっとこっち来いよ」 「もう、君っていつもそればっかり」 険のある言葉の割りに、岬の口調は優しい。手繰り寄せられるままに、若林の腕の中に収まる。 「岬が目の前にいると、くっついてないと勿体無い気がしてさ」 「うん、分かる気がする」 普段はそう寂しさなど感じない。年齢の割りに自立していると言われ、自負している二人だ。ただ、二人でいるとその自立、が揺らぐらしい。若林は少し子供っぽい駄々をこね、岬は少しわがままになる。そして、少し寂しがりになる。 「お誕生日おめでとう。・・・まだ子供みたいだけど」 「今日だけだ」 「うん。無理、しないでね」 「ああ。分かってる」 囁き声でも聞こえる距離で言葉を交わす。それが何よりの贅沢のように思えて、何よりも嬉しい。せっかくプレゼントを持ってきてくれた岬には失礼だが、若林はそう思わずにはいられなかった。
(おわり)
若林くん、お誕生日おめでとう!!! 甘い話にするつもりが、甘さ控えめに。 二人にとって、お互いの存在とは?という理屈っぽいものになってしまいました。 自分の精神状態が反映されたみたいで、非常に恥ずかしい。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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