※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 ランニングついでにふと通りがかった夕暮れの河原で、見覚えのある後ろ姿を見かけた。近付いてみると、思った通り岬で、何やら感慨深そうに富士を眺めていた。 「よお、岬」 「あ、若林くん」 会釈をする岬に、急いでもないから、と言い訳をして隣に座った。何気ない話の後、岬が呟く。 「うちの父さんって可笑しいんだよ」 独り言のように話し始めた岬の表情は、夕日に照らされてよく見えない。 「何が?」 「富士山を目の前にして、やっぱり思うようには描けないとか言うんだよ。描けるまでここにいたら良いのに。いつまでもここにいられるのに」 淋しそうに呟く岬に、いつまでもここにいてほしいと思った。こう改めて聞くと、岬はやっぱり転校してしまうんだ、と気持ちが沈む。 「岬、南葛市好きか?」 「うん」 岬はいつも笑っている。だが、今日は夕焼けで顔が見えないせいか、声が震えているのが分かった。短い返事すら、風に掻き消されそうに細い。 いつまでもここにいれば良いのに。そう言ってしまうのは簡単だ。でも、岬を困らせると分かっているから、そっと手を伸ばした。俺より前に来ていた岬の手は、夕方になって少し涼しくなった風のせいで、冷えていた。 「風邪引く前に帰るぞ」 小さな手を掴んだ。つられて立ち上がった岬を引っ張る。 「・・・若林くん」 あまり上手な誘導じゃなかった。俺が岬の涙に気付いたことを、岬は分かってしまったに違いない。 「僕、大丈夫だから」 足を止めた岬に、思わず振り返ると岬は微笑んでいた。まるで、何事もなかったかのように笑っているから、赤くなった目許に気付かなければ、きっとごまかされていた。 「泣いて良いんだぞ」 俺は思い出していた。父さんと母さんがロンドンに行く時に、歯を食いしばって見送った俺に、上の兄貴は言った。 「偉かったな。でも、もう良い。泣いても良いんだぞ」 俺は兄貴がしたみたいに、岬を抱きしめた。 「わ、若林くん・・」 岬が戸惑ったそぶりをみせる。だけど、俺は岬を放さなかった。岬の気持ちは痛い程分かったし、簡単に泣いたりしない意地っ張りだということもよく知っている。だから、放してはいけないことも。同い年なのに、小柄な岬は、俺の腕にすっぽり収まってしまう。 「泣けよ。誰にも黙っててやるから」 岬の頭を強引に胸に押し付ける。こうしていると、やっぱり小柄なんだな、と思う。でも、人一倍心は強くて、弱みを見せたりしない。
しばらく経ってから、岬は顔を上げた。 「・・若林くん、もう大丈夫だから」 夕焼けは一層濃くなって、岬の涙の痕は見えない。 「そうか?それなら良かった」 岬の声にはいつもの明るさが戻っている。少し安心して、手を離した。 「うん。ありがとう」 目の前で岬が微笑んだ。少しはにかんだ様子で、大きな目で見上げる岬を見た途端、何故か胸がドキドキした。気になる奴だとは思っていたけれど、こんなに可愛かったのか、と思った。 「気をつけて帰れよ」 「うん、若林くんこそ」 小さくなって行く岬の背中を見守りながら、その不思議な気持ちを持て余した。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 PCが立ち上がりません。おかげで書き直しましたとも。ふう。
ネットのニュースで「キスで空港閉鎖」というのを見ました。見送りの男性が不法侵入してしまったらしいです。キスの為に。某W氏のことを思い出してしまいました。もちろん、若島津くんではありません。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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