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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
古都
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。

「この前は振られたからな」
そう前置きしておいて、予定を尋ねる若林に、岬は苦笑した。
「それじゃ断れないよ」
俺の誘いを断るのはお前くらいだ。それでもまだ誘うような相手は。そう口説かれて、岬が誘い出されたのは冬の京都だった。
「昔、引っ越して来たらしいけど、記憶にないよ」
天然の美を描くことの多い岬一郎には、京都はそう関心をそそる対象ではなかったらしい。早々に転居したと聞いている。京都駅についても、確かに懐かしいと思う節はない。
「それなら良かった」
案内のし甲斐がある、と若林は笑う。如何にも頼りがいのある表情に、岬はじゃあ任せるね、と笑い返した。

「一番に行くのは決まってるよね」
熱心にガイドブックを見ていた岬に、若林が頷く。
「その後が難しいんだけどな」

 二人が最初に向かったのは、白峰神宮である。観光用のレトロなデザインのバスでは、ガイドアナウンスが滔々と流れており、京都駅からの順路に二条城や晴明神社のことを教えてくれる。他の交通機関が少なく、一方通行の路地も多い京都では、タクシーかバスで動く方が融通がきく。今日は岬の好みを尊重して、バスでの移動である。一日乗り放題で500円で済むため、そのサービスを利用する観光客は多い。
「やっぱりここに来ないとね」
白峰神宮は今出川堀川の一見目立たない神社であるが、元々飛鳥井家の邸宅であり、飛鳥井家が蹴鞠の家柄であったことから、スポーツ全般の神ということになっている。特に蹴鞠については、年中行事として行っている程。サッカー用のお守りもある。チームでお参りする場合もあって、奉納されたボールを見ているだけでも、岬は楽しそうだ。

「話には聞いてたけど、さすがに寒いね」
「ああ。盆地の底冷えって奴だな」
白峰神社を出た後、二人は堀川通を渡り、和菓子屋に来ている。ドイツで寒さには慣れている若林であるが、気温の低さだけでない妙な寒さがあるのはよく分かる。ダウンを着ている岬が、それでも寒がっているのは解せないとしても。
「ぜんざい、美味しいね」
「そうだな。温まるな」
日本にいる岬はもとより、普段ドイツにいる若林には、ぜんざいを食べる機会など、ほとんど少ない。大人になったから、この良さが分かるようになったのかも知れない、と若林は思う。寒い屋外から温かい部屋に上がって食べるぜんざいに舌鼓を打つ。そんなささやかな楽しみが、大きく思えるのは、きっと岬との旅行だからだ。

「他には行きたいところはあるか?」
若林に聞かれて、岬はガイドブックから顔を上げる。
「妹に北野天満宮で鉛筆を頼まれたよ」
「…確か受験だったな」
白峰神宮から北野天満宮までは今出川通をまっすぐ西行きのバスで行ける。循環系という、山手線や環状線のように、起点終点を持たないバスの路線が京都にはいくつもあり、乗り間違えると短い距離のはずが、延々バスに揺られて逆回りとなりかねない。若林はそう説明しながら、北野天満宮前まで首尾よく案内した。北野天満宮は菅原道真を祭神とする受験の神様として知られており、鉛筆は受験のお守りとして大人気である。
「ついでに上七軒に行くか?」
石畳の境内にはちらほら店が出ている。正月用の梅が売られている為、人出も多い。首尾よく鉛筆を入手した岬に、若林が問いかけるが、その表情はニヤニヤとでも言うべきもので、岬は不愉快そうに眉をしかめた。
「なに、それ?」
「芸者遊び。親父の知り合いがまだいるはずだ」
「ごめん、遠慮しておく」
有名な祇園でないところが憎い。機嫌を損ねたのを詫びて若林が買ってくれたのが焼き餅だったことも、更に岬を怒らせた。
「君、僕に意趣でもあるの?」
「いや・・・旨くないか?」
「・・・悔しいくらいに美味しいよ」
「じゃあ、機嫌が直ったところで、昼飯に行こう。この辺りは旨い店があるから」
「(絶対お茶屋さんだ)・・・」

「他はどこに行きたい?この近くなら金閣寺があるぞ。あと、銀閣寺も行きやすいな」
昼食を済ませ、今出川通に戻ったところで、若林が尋ねる。
「じゃあ、銀閣寺かな。金閣寺は人多そうだし」
「そうだな。銀閣寺の方がお前には合いそうだ」
「・・・確かに、書院造って、何だか親近感沸いたけどね」
天然明かり取りに畳、といえば、岬が昔住んでいたアパートの風景である。・・・ジロリ、と目を向けられて若林は焦る。
「いや、そういう意味じゃないんだ・・・」
「うん、分かってるよ。庭が面白いんだよね」
バス停に歩き出そうとして、岬はふと若林を振り返った。
「そういえば、予定って明日までだよね?明日はどうするの?」
明日の予定とかぶらない方が良いだろう、そう考えてのことだったが、若林の答えは岬の予想から大きく外れたものだった。
「桂離宮」
「桂離宮って国宝じゃなかった?中見られるの?」
「予約すれば大丈夫だ」
往復ハガキで住所氏名を書いて申し込む、と聞かされ、岬はふと気付く。
「ドイツから出したの?」
「いいや、日本の家から」
日本の若林家から、自分の名前を書いて申し込んでくれた、と思うと恥ずかしくて堪らない。折角の休日に男二人で京都旅行に行く、と宣言されたようなものだ。
「言ってくれれば、僕が出したのに・・・」
戸惑いと恥ずかしさで、下を向いたまま早足で歩く岬に、若林はすぐに追い付くと、肩を叩く。
「だって、俺が来たかったんだぜ、お前と」
当然のように言う若林に、岬は敵わないな、とまた思う。一緒に京都のCMを見たのなんて、もう何年も前なのに、行ってみたいと口にしたのも一度っきりなのに、若林はちゃんと覚えていてくれたのだ。
「ありがとう」
さすがに人目もあって、今はそれだけしか言えない。だから、次に行く神社では絵馬を書こう、と岬は思った。

 君とずっといられますように。


(おわり)

あけましておめでとうございます。旧年中はお世話になりました。今年もよろしくお願いいたします。

拍手ありがとうございます。
以前から、二人の京都旅行リクエストを頂いていたのですが・・・冬以外に書くべきでした。何もない・・・。
しかも、行きそうな所が白峰神宮しか思いつかず・・・。機会があったら他の季節編もやりたいです。
(1/3PC編集)
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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