※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 練習が終わってから、不意に話しかけられ、岬は振り返った。 「岬、今日は空いているか?」 同じチームだから何度か話しはしたものの、そう親しい訳でもない若林の言葉に、岬は首を傾げる。 「晩御飯の支度しないといけないから、長くは無理だよ」 「じゃあ、お前ん家まで行く」 そう言って笑う若林に、岬としては反駁する気はない。 まるで、そうしなければならないかのように、必要以上に大人ぶってみせ、偉そうな口をきく若林であるが、ふとした瞬間に年相応の笑顔を見せることもあって、岬は嫌いではなかった。むしろ、いつもそんな風に笑っていれば良いのに、と思う位だ。 「じゃあ、大丈夫」
何もない部屋を見られるのが恥ずかしくない訳はない。特に、何でも持っている若林の家を見たばかりなので、余計にその思いはあったものの、岬は若林を家にあげた。 「何もないけど、お茶で良い?」 手ずから麦茶を注いでくれる岬に、若林は礼を言って受け取った。 清々しい程片付いている岬家に、若林は落ち着かないでいた。岬が寝起きしているまさにその空間で岬と二人いる、そう思うと家の狭さなど気にならなかった。むしろ、困る位に胸が騒ぐ。 「適当にしてて。僕ご飯の支度するから」 そう言われても、何もない部屋ではすることもない。若林はせっかくだから、と岬を観察することにした。米をといで、野菜を切って炒めて…。テキパキと動く岬を眺めるのは楽しくて、見飽きることがない。 「それで、何か用だった?」 テーブルに戻った岬が尋ねる。 「岬はもうすぐ転校するんだろ」 若林の家で送別会をするという話もあったが、恥ずかしい、と岬は断ったと言う。他の者のように、気軽にそんな話のできない若林としては、岬が一人の時に話したかった。 「うん…そうなんだ」 できれば、この町を去りたくはない。ロベルトに置いて行かれた翼の前を、更に去って行くというのは気が引ける。 でも、そう思ってはいても、岬は決して口には出さない。自分ではどうにもならないことを、よく知っているからだ。そんなことを口にしたら、友達も一層悲しむし、自分も辛くなる。だから、せめて笑って去って行けるように、祈るだけ。 「送別会のこと、もう一度考えてくれないか?翼の奴まだ落ち込んでるらしいから」 濃い眉に強い光の宿る目、きりりと結ばれた口元。見るからに意志の強そうな顔なのに、ふとした拍子に見せる表情は優しい。そんな若林らしい言葉だな、と岬は微笑む。 送別会なんてされたら、泣いてしまうかも知れない。そう思って断った話だった。それでも、翼の名前を出されたら断り切れない。 「…良いよ。僕の送別会じゃなくて、SCの祝賀会なら」 あくまで、素直に見送られるつもりはないらしい、と若林は岬の強情っぷりに嘆息する。だが、それでも自分の顔を立てて譲歩してくれたことは有り難かった。 「じゃあ、決まったな。絶対に来いよ」 渡された紙片に、岬は苦笑する。大きく「送別会」と書かれた招待状の日付は明日。 「善は急げ、って言うだろ?」 「どっちかというと、嘘も方便って気がしたよ」 皮肉を口にしながらも、楽しそうな笑顔に、心がまたざわめく。ふとした瞬間に、岬のことを見てしまったりする。目を奪われてしまう。 翼のことをだしにはしたが、本当は自分が何か出来ないかと思っていた。独占できるとは思っていないが、少しだけ、この気になる相手を見る機会が増えたら良いと思った。 「分かったよ。若林くんのことだから、もう他のみんなには連絡済みなんだよね?」 「ああ、だから欠席はなしだぞ」 ため息をついてみせながらも、岬は安堵する。うまく説得してくれて、送別会に連れ出してくれたことに、少しだけ感謝した。 「じゃあな岬、また明日」 「うん、またね」 見送ってくれた岬がドアの向こうに姿を消したのを確認して、若林は小さくガッツポーズをした。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 小学生の二人って時々書いていますが、いつも微妙に意識させてしまう・・・。 根っからの不健全で申し訳ない。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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