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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
嗚咽
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。

 岬の泣き声はほとんど聞いたことがない。

 涙を見たことがない訳ではない。苦しい試合を乗り切った時の嬉し涙や、悔しそうに滲ませた涙をきれいだと思った。辛そうに眉根を寄せ、長い睫毛に絡むように溜まった玉が溢れては、紅潮した頬に流れる様を、夢見心地で見つめることはあったが、岬の泣き声にはほとんど覚えがない。

「岬」
隣で眠る姿をそっと見つめる。昨夜も散々泣かせた。

 薄暗い中でも分かるような、透明のしずくを頬に滑らせながらも、大丈夫、と岬は言う。
「・・・僕は平気だ・・・から」
上ずった声が、常よりも甘かった。そう言いながらも、肌に浮かぶ汗や、力の入った指先、押し殺し切れていない息遣いに、岬の可愛い嘘を思い知る。
「可愛いな、岬」
辛くない訳がないのに、見つめる俺にふわっと笑いかけた岬に、囁かずにはいられなかった。
「可愛い」
繰り返す俺に、岬は少し困ったように微笑む。
「そんなこと・・・ないよ」
岬の涙に、微笑みに愛を感じる。
「辛かったから言えよ。岬を壊したくないから」
自戒の為の言葉に、岬は小さく首を振る。
「そんなにやわじゃないよ」
繊細そのものの顔で、折れそうな肢体でそう言われても、信じる気にはなれない。
「優しくはしてやれないぞ」
たまの逢瀬だけに、飢えを満たすように、岬を求めてしまう。貪りそうになる俺に、岬は小さく声を上げて、背を反らせた。
「辛いか?」
首を振る度に、髪が揺れる。俺が揺らす度に、吐息が漏れ、声が途切れる。
「大丈夫か?」
岬が頷いた時、岬の目を濡らした涙が流れ落ちた。

「無理、させたな」
さらさら流れる髪を撫でると、岬は俺の手に自分の手をそっと重ねてきた。
「大丈夫だよ」
そう言う声もまだ辛そうだ。汗が引いた肌は少し冷えかかっていて、俺は岬を抱き寄せる。
「岬がいたら、俺の理性なんか役に立たないからな」
ふふ、と笑う岬の目元が綻んで、涙の跡が目立たなくなったのに安心した。

 俺が、岬の泣き声を聞いたのは一度きりだ。あの怪我の後、スポーツ科学研究所に向かう、という時に送って欲しい、と頼まれた。あまりそういう願い事をしてこないだけに、その時は頼ってくれた、という安堵と、それだけ弱っているのか、という不安が渦巻いた。
「ごめんね、君も大変な時なのに・・・。僕より強い人じゃなかったら、顔に出すんじゃないかと思って。君にしか頼めなかった」
岬はそう説明しながら、俺の肩にもたれた。タクシーのそう広くない座席が、心なしか広く見えて、それだけ岬の肩が頼りなく感じられることに気付いた。
「岬、泣けよ」
耳元で囁くと、岬が息を飲んだのが分かった。それでも、なお続けた。
「泣けよ。ほら」
ぐいっと岬の頭を抱え込んだ。自分の腕のサポーターが、岬の頬に当たる。お互いの消毒液の臭いが、混じり合う。
「うっ・・・ううっ」
小さく肩を揺らし始めた岬を、抱き締めた。

 泣いても良いんだぞ。柔らかい髪を撫でた。お前が泣ける場所なんて、世界中で俺の腕の中だけなんだから、安心して泣けば良い。

 お前が泣いたことなんて、誰にも言わない。誰にも教えてやらないから。

 岬の泣き声はそれ以来聞いたことがない。
 岬があんな悲しい嗚咽を、押し殺してどこにもいけない悲鳴を漏らさなくても済むように守ってやりたい。思いながら見る岬の寝顔はまるで微笑んでいるようで、少し安心した。

(終わり)

拍手ありがとうございます。

昨日は頭痛がひどくて、早々に寝てしまいました。
公私ともに忙しくて、全然時間が足りません。

岬くんは泣かない人、だと私も思います。
でも、あえて泣く場面を書いてみました。

・・・って、一部は鳴く、でしたね。うふふ。失礼しました。

拍手お礼:
ユリコさま、ありがとうございます。是非使わせていただきます!
本当にキャッチコピーだけにすれば良かったです・・・。

拍手のみの方もありがとうございます。励みになります。

from past log<2009.10.9>
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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