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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
不意打ち
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。

 岬が不意打ちを食らわせるものだから、俺は朝から焦っている。
「ごめんね、朝早くに」
いや、来てくれたことは嬉しい。インターホンで起こされて、ドアを開けると、紙袋に埋もれた岬がにこにこしていた。明日来る、と聞いていたのが、1日早く休みが取れたのだという。
「これ、朝市で買って来たんだよ」
パンと、挽きたてのコーヒーの粉。駅までの道は、コーヒーの匂いで満ちているから、確かに誘惑に負けずにたどりつくのは難しい。
「だから、急いで来てくれたのか?」
走って来たのだろう、髪が少し乱れていた。
「ばれないように、息は整えたのに」
さすがに、両手に荷物を持った状態では、髪まで気がつかなかったのに違いない。岬らしい気遣いが嬉しくて、抱き締めようとして・・・とりあえず、荷物だけ受け取った。

 まだ、歯磨きしていない。まだ、ヒゲを剃っていない。

「どうしたの、若林くん?」
岬は不思議そうに言うが、いや、駄目だ。
「いや、あんまり腹減ってさ。頭からかぶりつきそうだった」
「じゃあ、支度するから、若林くんは着替えてて」
何とかごまかせたようだ。俺はパジャマのままでも良かったが、岬がそう言ってくれた以上はそれを口実に使わない手はない。洗面所に行って、着替えたついでに歯磨きは出来た。ここまでは良かったが、ヒゲ剃りは・・・さすがに、音で気づかれてしまう。
「若林くん、コーヒー入ったよ」
そうこうしている内に、岬のお呼びがかかった。仕方なくヒゲは諦めて、食卓につくと、岬は俺の顔を見た。
「・・・若林くん、ヒゲ伸ばしてるの?」
・・・見つかった。来た時に気づかなかったのが偶然なだけで、確かに久しく剃っていないヒゲは伸びている。
「いや、忙しくて時間がなかったから」
俺がヒゲを伸ばそうが、周囲は一向に気にする様子もない。カルツが構いついでに声をかけてきたくらいだ。
「源さん、無精ヒゲはかっこ悪いぞ、手入れくらいしたらどうだ」
「これか?防御ヒゲだぜ。顔に傷つける訳にはいかねえからな」
「今更傷うんぬんって面かよ、冗談きついぜ」
冗談を承知で笑うカルツに、今日こそは剃ろうと思っていたところだった。岬が1日早く来てくれたのは嬉しいのだが、準備期間は必要だ。
「そうなんだ?珍しいね」
岬は無邪気に微笑む。朝起きて一番に岬と顔を合わせて、岬の作った朝飯を食って…思えばすごく幸せな状態なのだ。だが、今の俺は焦っていた。
「飯食ったら、出かける前に剃るから」
そう言う俺の顔を岬はじっと見つめている。岬自身は縁がなさそうだが、ヒゲなんて、親父さんで見慣れているだろうに。
「どうした?」
「けっこう似合ってるね、剃っちゃうのもったいないくらい」
岬に言われるまでもなく、結構似合うものだと思っていた。兄貴達がヒゲを蓄えているのを年寄り扱いしていた俺も、それ相応の年になったということか。
「ご馳走様」
食器を流しに片して、洗面所に向かった俺に、岬はついてきた。
「見納めなんだったら、と思って」
至近距離に、岬が近づく。手を伸ばすまでもなく、触れることができるのは、大した誘惑で。
「・・・岬」
出かけないと。ヒゲを剃らないと。思ったが止まらなかった。岬と会って、こんなに触れずにいるのは新記録ものだった。
 抱き寄せて、手触りの良い頬を両手で挟んだ。優しい眼差しで見上げる顔に、口付けを落とす。

「痛くなかったか?」
一回口付けたら、すぐには止まらなかった。数度唇を奪い、重ね直した。深く浅く交えた口付けに、岬が軽く息をついた。
「何が?」
「ヒゲ」
俺の言葉に、岬がくすっと笑い声を立てた。
「何がおかしい?」
「若林くん、そんなこと気にしてたんだ」
「だってさ・・・」
岬は微笑んでいる。だが、俺は真剣だった。うんと子供の頃、親戚のおじさんなんかが来ると、頬ずりをされるのが嫌で、逃げ回ったことがあった。岬に痛い思いなどさせられない。すべすべの肌に、ヒゲだらけでは触れられない。
「良いよ。君なら」
岬のひんやりした手が、俺の頬に触れる。ヒゲの生えている口元を、指先が撫でた。
「やっぱり、駄目だ」
俺の言葉に、岬は驚いた様子で、手を引っ込める。その手を捕まえて、握り締めた。
「こうしてたら、老けて見えるから。俺は岬と同じでいたいのにな」
岬は華奢な体格のせいもあって、年齢よりは若く見られがちだ。一方俺はいつも老けて見られて、岬と同じ年に見られたことがない。だから、せめて、歩み寄っていたい。
「ありがとう。若林くん、そろそろ用意しないと」
岬が腕時計を見せてくれた。ちゃんとこっちの時刻に合わせられた時計は、もう出発すべき時刻を示していた。
「じゃあ、ヒゲは帰って来てから剃るな」
「うん。分かった。行ってらっしゃい」
慌しく準備をして、俺はうちを出た。岬といる時間はやっぱり幸せだと思い起こしながら。


 若林くんが出発したのを見送って、僕はようやく息をついた。顔が赤くなりそうだった。ヒゲを生やした若林くんは予想以上にかっこよかった。でも、ヒゲを伸ばさない理由はもっとかっこよくて、僕は悔しくなる。不意打ちしたのに、カウンターを食らった気がして、僕はその場に座り込んだ。

(終わり)

拍手ありがとうございます。
もっとヒゲヒゲした話を考えていたのですが、そうでもない展開に。
若林くんは無精ひげも似合いそうです。

from past log<2009.10.5>
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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