※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。
ある意味、シリーズと化した「妄想」です。 PSGに加入した岬くんが、UEFAチャンピオンズリーグで若林くんと対戦する話、 の試合部分です。がっつり長い上に、妄想爆発しております。
「妄想」その1 「妄想」その2 堅守のハンブルガーSVに対し、PSGことパリ・サンジェルマンFCは華麗な攻撃で知られている。ヨーロッパでもナンバー1と言われるテクニックに加え、攻撃のスピードはブンデスリーガの強豪と日々戦っているハンブルガーSVもほとんど経験のないものだった。 加入してからすぐにチームの中核に上りつめたピエールだったが、岬というパートナーを得て以来、リーグアンで圧倒的なまでの力を見せ付け、一段とその評価を高めた。
インタビューを受ける度に、ピエールはその稀有の美貌を更に際立たせるような微笑とともに、パートナーの自慢を欠かさない。 「ミサキは素晴らしいパートナーだが、使えないといつ見放されても文句は言えない。そう思うと気は抜けないな」 そう話すピエールは将軍のあだ名にふさわしく、誇らしげに見える。ずっと昔にピエールがライバルと見込んだだけあって、岬は他のチームを選べるだけの実力があった。それでも、PSGを、自分を選んでくれたことを、ピエールは誇らずにはいられない。岬を、誰よりも走らせる、光らせる自信はあった。世界中の誰よりも、岬の可能性を評価しているのは自分だと、ピエールは思っている。だから、このチームを選んだことを岬が後悔することがあってはならない。 「どうした、ミサキ?」 どの大きな大会でも、気負うことなく、ただその素晴らしい相手と戦うことを楽しむだけだ、と笑う岬が、いつもより少し唇を噛んでいる気がして、ピエールはミサキの肩を叩いた。今日のUEFAチャンピオンズリーグの決勝戦の相手、ハンブルガーSVには、岬と同じ日本人の若林がいる。
岬を知った年、パリで開かれた国際Jrユース大会の準決勝戦、フランスチームを破った全日本チームのGKは若林ではなかった。だが、その後の決勝戦でゴールを守った若林は、ハンブルガーSVジュニアチームGKの実力を見せ付けた。 「若林くんとは、小学校時代も同じチームだったんだ」 チャンピオンズリーグの頂きが見え始めた頃、ハンブルガーSVの名が挙がった時に、岬は言った。 「じゃあ、戦いにくいと思うか?」 ピエールの問いかけに岬は静かに微笑んでみせた。 「まさか。今から楽しみだよ。僕が知る限り、最高のGKだもの」 そこまで、岬に言わしめる若林というGKに、ピエールが関心を抱いたのは当然だった。それと同時に、ピエールは岬の何とも言えない表情にも魅せられた。
「勝てそうか?」 ピエールが尋ねた時、食い入るように見つめていた新聞の試合結果から、一瞬だけ顔を上げて、岬は聞き返した。 「ピエールはどう思う?」 他のチームよりも意識しているのだろう、下ろした視線は3行の記事を追っていた。 「絶対的に勝てるのは、お前と俺のいる中盤だ。逆に、味方ゴールではあっちの方が有利だ」 「うん、僕もそう思う。だから、うちのチームは2?2?3?3?1くらいでどう?」 「ジャンに下がってもらって、守りを固めるって訳だな」
ピエールの提案した作戦は、そのほとんどが監督の支持を得た。ピエールに言われるまでもなく、彼我の中盤の力の差は明らかだった。 「ただ、守りを固める必要があるか?」 それはピエールも岬に確かめたことだった。 「若林くんは、本当に試合を読む人なんだよ。帽子で隠した表情の下で、ものすごく冷静に試合を見てる。それが、SGGKなんだよ」 岬はそう言ったものの、ハンブルガーSGにそこまで攻める力があるとも思えなかった。カルツが試合の流れを作ることが多かったものの、そこから攻めあぐねることもあった。勝率は高くても得失点差の少ない勝利の多いチームである。 「2?4?4?1だ」 試合前日の監督の言葉に、岬は少し視線を落とした。
決勝戦、立ち上がりからPSGは中盤を常に制し、攻撃によって自ゴールを守った。PSGの猛攻は、量も質もハンブルガーSVのそれを大きく上回っていた。DFはいつも通りゾーンチェックで、ペナルティエリア内でのシュートを阻止してきたが、素早いドリブルで何度もゾーンプレスを切り崩すという攻撃は、DFの集中力を奪っていった。 後半15分、ゴールを伺うシュートの本数は、若林から先取点をもぎ取った。それでも、ハンブルガーSVのゴールマウスに立ちはだかるのが若林でなければ、失点は1点に留まらなかったに違いない。ピエールのシュートを岬が敵選手の陰から押し込む、という戦法がその貴重な1点をもたらしたのだった。DFの動きが単純化するのを狙った作戦は、確かに盲点だった。
「やるな、岬」 岬がフランスに渡り、PSGに入ったことを、若林は誰よりも喜んだ一人だった。自分の足で、自分の道を。旅立つ前に見た岬の笑顔は清々しかった。 「だが、俺を簡単に負かせると思ったら大間違いだ」
FWのボッシのシュートをキャッチした若林は、味方CFマーガスにゴールキックでロングパスを送る。ここまで追い詰められるとは思わなかったが、若林とて無策でいた訳ではない。 この試合それまで、ほとんど攻められることのなかったPSGのDFは、ハンブルガーSGの素早い切り替えに対し、すぐには対応できずにいた。 「止めろ!!」 監督が声を上げる。機を見るに敏と聞いてはいても、ここまで見事な反撃が来るとは予期していなかったのである。後方に陣取っていたはずのカルツが、いつのまにか前進していたことも気づかずにいた。 「うわっ!」 焦ったためか、サイドにクリアするはずのボールは、目測を誤ってゴールラインを越えた。 「ここに来てコーナーキックか・・・」 ピエールは苦々しく舌打ちした。ここまでPSGのペースだっただけに、後半30分を回ってのこの展開は予想外だった。 コーナーキックに立ったのはカルツだった。スタジアムのすべてが固唾を飲む中、業師の面目躍如とばかりに、ボールが弧を描く。 「ああっ!」 長身のマーガスに合わせられていたはずのボールは、その頭上を通り過ぎる。岬は声をあげ、追ったが間に合わなかった。ノートラップで捕らえた若林の渾身のシュートは、PSGのゴールに吸い込まれていった。
「・・・まさか、GKがオーバーラップしてくるとはな・・・」 ピエールの言葉に、岬は黙って頷く。何となく、予測できていただけに、それを防げなかったのは余計に悔しかった。セットプレーからの攻撃は、昔から若林の得意とするところだったのだ。だが、捨て身の攻撃とも言うべきオーバーラップはまさに禁じ手だった。同じ攻撃はもう二度と通用しない。その捨て身の攻撃に、岬は感動すら覚えていた。生半可な覚悟で勝てる相手ではないのだ。 「でも、僕だって負ける気はないよ」
センターキックの後のPSGの攻撃は更に速かった。若林がゴールに残していた帽子を被り直す間に、岬がドリブルで切り込んで来ていた。ひしひし、と岬のプレッシャーが迫る。広い視野で、ゲームを読む力で、有機的にチームを結びつけ、岬はゲームを動かす。華麗なテクニックも、自在のパスも、その為にこそ活きてくる。
「ピエールをチェックだ」 DFを動かして、ペナルティーエリア内にはボールを入れないようにする。それが、ハンブルガーSVの必勝パターンだ。ペナルティーエリア外からのシュートならば、ほとんど防ぐことができるのが、若林がSGGKと呼ばれる所以だ。 だが、これまでの守備が嘘のように、岬はペナルティーエリアまで攻め込んできた。するするとDFの間をすり抜けて来る。
「それよりも、君に約束してほしいことがあるんだ」 合前のミーティングの後、岬が言った。 「若林くんは、この大会、ペナルティーエリア外でのシュートは1本も許してない。知ってるよね?」 「ああ」 「だから、それに拘らないで」 すぐには分かりにくい言葉に、ピエールが首を傾げる中、岬はミーティング用のマグネットを動かしてみせる。 「ミュンヘンが負けたのは、それが大きい。でも、PSGはそれ以上に攻め込む実力がある。そのアドバンテージを自ら捨てるのは得策だとは思わない」 「確かに」 シュナイダーを擁するのみならず、決定力の高い選手に外国人枠を割いているミュンヘンは、得点力ではヨーロッパ随一と言われる。それだけに、ミュンヘンは先に若林をおさえようとしたために、ハンブルガーSVの牙城を崩せなかった。だが、得点力で劣るPSGが同じ轍を踏むことはない。 「だから、後半は中まで入って、攻めるよ」 「ミサキがそう言うなら、従うよ」 強い意志を感じさせる岬の言葉に、ピエールは大きく頷く。相手を高く評価しているからこそ、自身のベストを尽くそうとする気持ちはよく分かった。 「僕は、僕の道を賭けて戦うんだよ。負ける訳にはいかない」 岬は静かな口調ではあったが、その瞳は燃えるように見えた。
ピエールがシュートを打ってくる。スライダーショットは数年の練成を経て、より複雑な角度で落下するようになった。それでも、何度か放たれたシュートを見逃すほど、若林は甘くない。キャッチしようとした時に、横合いから岬がフォローに入った。 「そう来ると思ったぞ!」 岬のスライディングよりも先にボールを掴もうと若林は手を伸ばす。だが、岬はそのボールを後ろに流した。 「ゴーール!」 ゴールを決めたのはボッシだった。
後半35分の得点が決勝点となり、勝利を得たのはPSGだった。その後の10分間、ハンブルガーSVは不利な展開を強いられ、PSGは追加点を奪えなかった。それでも、最後まで観客の目を釘付けにするような試合だったのは、両チームが死力を尽くしたことが伝わった為だろう。
試合終了のホイッスルとともに、両チームがセンターラインに並ぶ。他のチームメイトが見守る中、若林は岬と握手した。 「俺の代わりに翼を倒して来いよ」 そう言いながら、若林は笑う。その笑顔はPSG加入を相談した時と同じだと思うと、岬の胸には込み上げるものがある。 「じゃあ、これ」 若林は被っていた帽子を脱ぐと、岬の頭に乗せた。ハンブルガーSVのマークを刻んだ帽子は、若林の敬意のように思えて、岬は若林を見上げた。 「ありがとう」 試合が終わっても、若林は大きく見えた。尊敬するプレイヤーだから、全力で立ち向かおうと思えた。その胸を借りて、勝った今こそ、盟友大空翼と向き合うことを許されたのだと、心から思う。 「翼くんに勝って来るよ」 深く被せられた帽子の陰から、楽しげに微笑むこの時の岬の顔を、一生忘れることはないだろう、と若林は思った。
(終わり)
「妄想 その後」
拍手ありがとうございます。 こっそり書いてはいたものの、誰得感があったので、掲載は見送っていたのですが、もし関心を持って下さる方がおられれば、載せるつもりをしておりました。その奇特なCさまに、感謝しながらの掲載です。そちらのセンスにはとても及びませんが、自分の読みたかった試合展開を書かせて頂きました。自己満足ではありますが、幸せです。
from past log<2009.9.13>
スポンサーサイト
テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
|