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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。

 若林くんはまるで嵐だと思う。

 フランスに渡って三年、落ち着いて静かだった心を波立たせたのは、僅か1ページの記事だった。

 会いたい。そう思った。

 同じ学校でもない。三年前ほんの短い期間、同じチームにいた、だけの付き合いなのに。
 なのに、懐かしくてたまらなかった。

 会いに行っても良いよね?

 いつもの僕なら、迷惑じゃないか、とか、変に思われるんじゃないか、とかそういう気持ちが蓋をする場面だ。それなのに、そのいつもの慎重さも臆病も忘れたかのように、僕はすぐに行動を起こしてしまった。
 きっと、その時既に、僕の心は嵐に掠われてしまっていたに違いない。

「若林くん」
三年ぶりなのに、突然訪れた僕に、若林くんは驚いた様子だった。
「み、岬」
でも、次は僕が驚く番だった。そのまま抱きすくめられ、強い腕に包まれて、僕は慌てた。
「わ、若林くんっ!?」
たったそれだけなのに、単なる久しぶりの再会を喜ぶ反応だろうに、妙に気恥ずかしくなってしまう。三年ぶりの若林くんは、いっそう大きく逞しくなっていて、同い年にはとても思えない位だった。
 それなのに。
「会いたかった」
耳元に囁かれた言葉はすごく優しくて、僕の心に簡単に忍び込んだ。

「岬、俺の家寄ってくだろ?」
まるで、南葛の同じ町に住んでいるかのような気軽さで、さも当然のように言う若林くんに、僕はついつられて笑ってしまう。
「今から帰れないだろう?」
それは、その通りだけれど。
 そう長く留まるつもりはなかった。会ってすぐ列車に乗ったなら、帰れないこともなかった。それなのに、帰るとは言い出せなかった。共通の思い出なんか、そう沢山ある訳じゃない。気がつくと、僕は日本を離れた頃の話までしていた。
 母親と住むことを拒み、父さんについて来た話が面白かったとは思えない。それなのに、若林くんは黙って話を聞いてくれた。
「そうか、そんなことがあったのか」
それ以上に聞かない若林くんのおおらかさに、救われる気がした。それから、一緒にサッカーをした。若林くんとのサッカーはやっぱり楽しくて、時間はあっという間に過ぎていった。そしてそのまま、若林くんに誘われるまま、家に向かった。

 若林くんの部屋は、広々としていた。
「そんなに物がないからな」
若林くんは言ったけれど、坐り心地のすごく良いソファーや大きなテレビ、どっしりした棚、とどれも吟味されているみたいに見えた。
「良い部屋だね」
「岬に気に入ってもらえるなんて光栄だな」
流行ではなく、自分に似合う物をきちんと分かっていて、長く大事に使うのは、若林くんらしい気がした。
「・・・そうかもな」
僕の言葉に、若林くんは答えたけれど、その表情は何だか複雑そうに見えた。
「一回気に入ると、長いんだ、俺は」

 電車の時間が近付くにつれ、話したいことが次々に浮かんできた。でも、うまくまとまらない。
 よく考えてみれば、こうして誰かに見送られて電車に乗るのは初めてで、別れ、が相変わらず苦手な自分に気付く。
「じゃあ、また来てくれよ」
「うん」
結局、電車の時間ギリギリまで他愛のない話をした。それでも何だか頼りなくて、去りがたくしている僕を、若林くんはそっと抱き締めてくれた。
「わ、若林くん!」
普通のハグだったのに、すごく戸惑って、固まってしまった僕に、若林くんはにこにこ笑って手を差し出してくれた。
「日本人の俺達にはこっちの方が合うな」
確かに、周囲には抱き合って別れを惜しむ人達が溢れている。僕だって、こっちの友達とは普通にそういうことをしたりするし、シュートをアシストした時なんか、抱き上げられちゃうことだってある。それでも、その時は意識せざるを得なかった。広い胸と強い温もりを。
「若林選手の握手なんて、高くついちゃうね」
手を握り返して、冗談を言った僕に、若林くんは楽しそうに笑う。
「じゃあ、何回でも握手してやるよ」
そう言って、僕の手をもう一度握った。

 それから、何度か遊びに行った。
 いつ来ても、若林くんは優しかった。僕が困ってしまうくらい、優しく接してくれる。
 でも、僕はいつもどこかで怯えていた。

 その日は僕のリクエストに応じて、若林くんは試合のビデオを見せてくれた。若林くんのいるチームは、すごく強くて、対戦相手が気の毒な位だった。
「こう、縦のラインが通ってると良いよね」
「南葛SCみたいだろ?」
若林くんは軽く片目をつぶってみせた。確かに、FW、MF、GKというポジションは同じだ。
「ほら、写真も置いてるだぜ」
棚の正面に飾られているのは、優勝の時の記念写真だった。あの旗の下へ、若林くんと僕は、お互いを支えながら、向かったのだった。
「わあっ、懐かしい!」
僕も当然この写真は持っている。アルバムに挟んでしまっているけれど。
「あの時はありがとう」
「どういたしまして」
試合が終わった時、若林くんが駆け付けてくれた。立つのも辛い僕を励まして、肩を貸してくれた。
「勝ったぞ!」
ホイッスルは分かっていたけれど、あの若林くんが珍しく興奮して声を弾ませる。僕も嬉しくて、でももう夢の時間は終わりなんだと思ったら、涙が出そうになった。
「どうしてだか分からないが」
若林くんが、ゆっくりとこっちを見た。その熱さが触れるまでもなく伝わるような視線で、若林くんは僕の心をかき乱す。
「岬にはまた会えるって信じてた」
嵐の予感がした。棚に手をついた若林くんに、僕は逃げ場を失う。
「若林くん、離して」
心がざわめく。このまま流されたら駄目だと分かっているのに、心は歓喜に弾む。何度も、何度も、どうして会いに来てしまったのか僕は分かっている。僕は若林くんのことが気になって仕方がない。波に揺られ、さまよう小船のように、気付けば沖にさらわれている。
「なあ、岬。俺はお前のことが」
囁く声に、止める声が吹き消されていく。嵐が僕の心をかき乱す。
「嘘だよね、若林くん?」
自分でも分かるくらいに声が震えていた。怖くて、恐ろしくて、僕はいっそう臆病になる。
「嘘なもんか。お前のことが好きだ」
よどみのない口調で若林くんは言ってくれた。胸の中で嵐が静まらない。僕の身体など破ってしまいそうなほど、心は荒れ狂う。でも、僕は怖くなる。

 君のぬくもりが欲しかった。だけど、気付かれないように、熱くなった頬を、激しく高鳴る胸を隠してきた。

 これ以上、好きになったら、どうしよう。
 そう怯える僕に、若林くんは何でもなかったように、いつでも温もりを、優しさをくれた。それに対して、優しくされて有頂天の僕と、本当は違うんじゃないかと冷静に判断する僕がいた。

「岬」
嵐は徐々に勢いを増す。息をするのも苦しい程に胸が騒ぐ中、僕は若林くんに向き直った。
「信じるよ?」
冗談めかして、言った。きっと、君が僕を気にする以上に、僕は君が好きで、考えれば考えるほど不安はやまない。それなのに、胸の嵐はそんな不安すら吹き飛ばしてしまう。
「信じろよ」
余裕の感じられない腕が僕をさらう。熱っぽい瞳が僕を見つめている。恐れ悩んでいたのが愚かだと言わんばかりに、若林くんの瞳に映る僕は微笑んでいる。
「うん」
見つめ返すだけでドキドキして、触れた部分が熱い。でも、もう怖くはなかった。昂ぶってはいても、心は嘘のように凪いでいた。
「信じてるよ」


(おわり)

長くなってしまいました。昨日と二日で前後編にすれば良かった・・・と今更後悔しました。
うう。

from past log<2009.9.11>
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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