※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 目が覚めると、すぐ近くに岬の顔があった。
「全然、痛まないよ。毎日リハビリしてる」 電話では、平気そうに言っていたけれど、久しぶりに見る岬の寝顔は少し痩せて見えた。
・・・強がってるなよ。
いつものように抱き締めようとして、気付いた。
動けない。
見渡した周囲の景色には見覚えがないし、岬のいるスポーツ科学研究所、なのだろう。俺は岬が来ないでくれと頼むままに、行ったことも建物に入ったこともない。それなのに、俺はどうしてここに寝ている?
俺は一体・・・考えて、更におかしなことに気付いた。岬が大きく見える。岬はそう小さい方ではないが、俺の腕にすっぽり収まるのに。
それから、ほとんど動かせない首で必死に目だけ動かし、自分を見て、驚愕した。
視界にあるのは、大きく膨れた腹と短い腕。
俺はぬいぐるみになっていた。
「ぎゃああ」 内心叫んでから、岬を起こしてしまったかと思ったが、ぬいぐるみと化している俺に声帯は存在しなかったらしい。声も出せない俺の横で、岬はすやすや眠っている。
電話の向こうの岬が空元気だったのは確かで、俺は気が気でなかった。そっちに行っても良いか?と尋ねた俺に、岬は冗談めかして言う。 「ダメだよ。君は全日本のGKなんだから。・・・僕が決勝に駆けつけられるように、勝ち進んでくれなきゃ」 優しくたしなめる声にも、岬の辛さがにじみ出るようだった。辛いリハビリにたった独りで立ち向かっている岬に会いたいのは、俺のエゴかも知れないが、夜になっても気になって眠れなかった。 それが、今朝は何故か岬のすぐ近くにいる。動けないぬいぐるみではあるが、岬を見守ることができる。
「おはよう、若林くん」 いつの間にか、岬は目を覚ました様子だった。ぬいぐるみの俺を抱き取ると、ぎゅっと抱き締めてくる。 「昨日は君の夢を見たよ」 そう言うと、岬は俺の帽子を直して、俺をベッド横に座らせた。 「今日も一日頑張ろうね」 岬はどうやらこのぬいぐるみを若林、と呼んでいるらしい。岬に抱き締められたのは嬉しかったが、この色はおそらく以前見せられたリラックマに違いない。・・・勘弁してくれ。岬には俺がそういう風に見えているのか!? 頭をよぎった疑問で、血の気が引きそうな俺をよそに、岬は着替え出した。トレーニングウェアに着替えて、髪を整えてから、俺の方に向かってくる。 また抱き締められるのかと、嬉しかったり焦ったりしている俺に、岬はにっこりと微笑んだ。 「じゃあ、行って来ます」 確かに、いっそう細くなったように思える。元々そう逞しくもなかったが、更に繊細に見える。それなのに、俺を見た目には、静かな闘志が宿っていた。
「心配は要らないよ。僕は大丈夫」 電話で話していた通り、とまでは思わないが、少し安心した。
目が覚めると、合宿所のベッドだった。いつもより少し寝過ごしたらしい。 それにしても、良い夢だった。ぬいぐるみ扱いは気に入らないが、岬に抱き締められるのは嬉しかった。痩せてはいたが、優しい頬はばら色で、甘い色の瞳は相変わらず輝いていた。嬉しくて、携帯のボタンを押す指さえ弾む。
「今朝、俺の夢見たか?」 「えっ!?」 無言の肯定に少し嬉しくなった。こうしていても、俺とお前はつながっている。お前が必ず戻ってくることを、俺は信じている。恋する男としては、大事な恋人のことを過剰なくらい案じてしまうけれど。 「待ってるぜ」 「うん。必ず駆けつけるから」 電話の向こうでは、きっとあんな風に笑っているのだと想像できた。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 電話で無理していることを見抜くのって難しいな、と思うことがあって。 でも、何となく伝わったり、気付いたりするものだな、と。
便宜上、記事の日付は色々にしていますが、 おかげさまで、明後日でこのブログも1周年を迎えることになりました。
・・・そのうち、4ヶ月くらいお休みしていましたが。
1年経っても相変わらずの当ブログですが、これからもよろしくお願いいたします。
from past log<2009.9.9>
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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