※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 貴公子と評される三杉であるが、不機嫌を隠そうともせず、げんなりしていた。 「それで、各チームに了解は取ったんですか?」 「ああ。それは問題ないよ」 片桐が頷くが、三杉の不機嫌は治りそうにはない。 「それなら僕から言うことはありません。協会の意向なら協力せざるをえませんね」 言うことはない、と言い切った顔は苦々しく、その表情が万言よりも雄弁に語るようだった。
オリンピック予選に向けた代表合宿に、人気選手が集まっているから、寝起き取材をさせてくれ、という依頼がサッカー協会に入った。サッカーのPRになるから、と却下しなかった協会の片桐から、合宿を事実上代表している三杉に連絡があり、今に至る。心臓病を克服したとはいえ、この人を驚かせるのはこちらの心臓に悪い。それならば、協力者として迎える方が効率が良い、と片桐は判断したのであった。 そして、片桐の要請に対し、選手の集中力にも悪い影響がある、と考えた三杉は各チームとの契約を盾に一旦は断った。しかし、各チームが了解を出してしまった以上、それ以上は抗しようがない。 「それで、どの選手を?」 諦め、というよりは不愉快を前面に出した三杉に、片桐が提示したのは、松山、岬、若島津、若林だった。
意に染まぬ経緯ではあったが、それでも、三杉は一度引き受けたことを中途半端にはできないタイプだった。そこで、何とか企画を片付ける為に、計画を立て始めた。
そして、決行の日が来た。前日の夜に、そっと裏口から入ってきたスタッフと打ち合わせを済ませ、当日の朝には三杉が先導した。
三杉がまず案内したのは自室だった。チームのキャプテン松山は、チーム一の早起きであり、三杉自身と同室である為、最初に起こすことになった。朝練で起きる前の時間に、入って来たスタッフが潜入する。 「あ、松山選手です。寝顔も爽やかですね」 声を潜めた女子アナが、ジャージ姿の松山の寝顔を覗き込む。その実、模範的なまでの寝相に笑いがこみ上げているのか、小刻みに肩を揺らしている。 「ん・・・」 人の気配や物音に気付いたのか、寝起きの良い松山はゆっくりと目を開けた。そして、自分に向けられたライトに気付き、もそもそと方向を転換して布団に潜ったかと思うと、すぐに跳ね起きた。 「な、な、」 「どっきりだよ、松山くん」 傍らで微笑む三杉に、松山は言葉が出てこない。 「あ、あ、」 「どっきり、成功でーす」 女子アナの台詞に、松山がへなへなとベッドに座り込む。この日、松山は練習に出るのが三十分遅れた。
三杉が次に計画していたのは若島津だった。若島津に関しては、同室の反町にあらかじめ話を通して、レポーターを務めて貰うことにしていた。何しろ、若島津ときたら、知らない人間の気配には敏感であり、とても寝込みを襲えそうにはない。テレビ放送の壁とパーソナリティーを考慮して、三杉は反町を計画に巻き込んだのであった。 「うふふ、面白いですね」 「そう?ねえ、メアド教えてよー」 しかし、現場で三杉はその自分の選択を後悔していた。反町は移動中女子アナの横を固めて、標的を仕留める狩人の目になっている。口調は軽く、表情は笑顔で、だが目では勝負を続けている。 「やだー、カズくんったらー」 しかも、既に愛称で呼ばれている。それより、任せた仕事はどうなった、と三杉は遠ざかる反町の背中を睨みつけた。 「じゃあ、カズくんよろしくね」 三杉にとって幸いなことに、女子アナはプロだった。上機嫌の反町にハンディカメラを持って送り出すと、さっさと次の目的地、岬の部屋に向かう。どうやら、そちらが目当てだったか、と三杉が苦笑しながら続く中、反町は部屋に突入した。 「おはようございますぅ、皆様の反町一樹です。これから我らが若島津くんの部屋に突入したいと思います」 さっきまでの女子アナの口調を器用に真似ると、反町は自室のドアを開け、それから立ち止まった。ドアの向こうに仁王立ちしているのは、当の若島津だった。 「健・・・ちゃん?」 「反町、頼むから、朝から騒ぐなよ。目が覚めただろ?」 ハンディカメラを構えている反町に動じることなく、かえって諄々と説教をし兼ねない若島津に、反町は深く反省をした。中学時代スランプに姿を消した日向キャプテンのせいで、若島津は人の出て行く気配には異常に敏感なのだ。その脅威の神通力の持ち主が、夜明けに部屋を出た反町の気配に気付かぬわけがない。 「・・・参りました」 反町は深く頭を垂れた。
(つづく)
拍手ありがとうございます。 何故か合宿話が書きたくなって。 明日はあと二人の寝起きに迫ります。
from past log<2009.4.16>
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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