※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 昨日の続きです。 チャンスを貰った僕が合わせた日付は、ドイツに初めて行った日。 ・・・自分でも、よく覚えているな、と思いながらだった。きっと、この時から僕はこの人が好きだった。自分から昔の友達に会いに行ったのは初めてで、僕らしくない感傷だと思ってはいたのだけれど。 「残念」 鍵は抜けなかった。若林くんの意地悪な口調が耳に障って、僕はもう一度シリンダーを睨みつける。 「もう一回」 僕の手は1207を回した。この日、初めて僕達は抱き合った。若林くんのものになった証を刻まれて、もっと好きになった日。 それでも、その挑戦も失敗に終わり、僕は途方に暮れた。
それから、何度か挑戦した。僕の誕生日や初めてデートした日や。それぞれの日が大事な思い出と結びついていて、それが空しい音を立てる度に、僕は身を切られるような痛みに気付く。記念日を忘れてしまう僕を若林くんは冷たい、と言う。でも、一緒にいる年月が積み重なるほど、思いは深くなって、そんなにたくさんは覚えていられない。・・・今でも僕の心は君でいっぱいで。
そう考えている内に、僕の脳裏に昨日の会話が蘇ってきた。 「出会った日から好きだったんだぜ」 夕食の後、他愛のない話をしていたら、若林くんがそんなことを言い出した。 「まさか。だって、あの出会いは印象悪かったよ、絶対」 僕はあろうことか若林くんにボールをぶつけそうになったのだ。渾身とは言わないけれど、強く打ったシュートを。若林くんだから止められたけれど、けっこうひどいと思う。 「しかも、その後対戦したし」 その後は若林くんの敵として対戦した。・・・どこに好きになる余地があるんだろう。 反対に、僕の方はすごく気になる人だと思ったのを覚えている。僕のシュートを軽々と止めたことや、翼くんと僕の二人がかりで向かっても敵わない君を、サッカー選手としてだけじゃなくて、すごいと思った。 「でも、一目見た時に、分かったんだ」 「・・・嘘ばっかり」 恥ずかしくて、否定した。だって、君はそんなことおくびにも出さなかった。僕はさっさと話を変えて、君の顔も見なかった。
「じゃあ、もう一回」 動く度に、手錠が手首に当たる。痛まないようにと、若林くんはタオルを挟んで巻いてくれていた。それでも、手錠を意識すれば、その先にいる若林くんを意識してしまう。この短い距離で、僕達は結ばれている。 「・・・何か思いついた顔だな」 「うん」 若林くんは少し怒っていたのだろうと僕は思った。ゲームと言い、口では遊びを装いながら、それでもどこか冷たさが感じられたから。
僕は若林くんの首に自由な左手をまわして、唇を寄せた。今日、何度目か分からないキスだけど、やっぱり恥ずかしくて、目をつぶったまま、口付ける。
「はい、どうぞ」 唇を離すと若林くんは箱を取ってくれた。今日何度も睨みつけた憎らしい箱だけれど、若林くんがどんな思いで鍵を入れたのかと思ったら、ちょっと切なくなる。
僕が合わせたのは、僕が南葛小に転入した日だった。この日に、僕は若林くんに出会い、そして。この日がなければ、僕の人生はずっと違うものになっていただろう。
カチャ
シリンダーを合わせて引くと、鍵はようやく外れた。箱の中には鍵が一つ。 「やった・・・」 嬉しいというよりは安堵した。知らずに傷つけたことを、これで取り戻せる。 「もう終わりか。・・・もう少しくっついていようか?」 「お断り」 意地悪を言ってはいるけれど、もう怒ってはいないのだろう、見下ろす若林くんはいつもの優しい顔で、僕は戸惑いながらも翻弄される。 「ちゃんと覚えていたよ」 「ああ」 忘れたことなんかない。たくさんの土地に行き、別れてきた僕だけど、あの輝くような日々を忘れたことはなかった。 「僕にとっても大事な日だから」 手錠の鎖が軋った。若林くんは胸の上の僕を右手だけで、抱き締めてきた。 「・・・本当に出会った時から好きだったんだぞ」 「うん、信じるよ」 僕は自由な左手を若林くんの右腕に重ねた。本当は両手で抱き締めたいところだけれど、仕方がない。 「岬、しばらくこうしていて良い?お前と俺と、繋がっているって思いたいから」 「良いよ」 そんなことをしなくても、僕達はずっと繋がっている。身も心も、君に捕らわれている。分かっているのに、言葉にされると改めて胸に響く。そんな簡単なことが嬉しくて、僕は左手を伸ばし、若林くんの右手に絡めた。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 昨日1回のつもりが長引いてしまって、2回になってしまいました。 手錠、あんまり関係ないですね。 ネタをお借りした銀月星夢様、いつものことながらすみません。 ご快諾どころか、読みたいと言っていただいたのに、こんな出来で・・・。 リクエストを下さった方もすみませんでした。
拍手お礼: さくら様。いつもありがとうございます。 手錠はドキドキしますよね。そのアイテムは素敵過ぎませんか? 萌えてしまったので、いつか使って下さい。楽しみ?v
M☆様。いつもありがとうございます。 あっさり終わってしまってすみません。ゲーム、若林くんは楽しかったはずです。
拍手のみの方もありがとうございました。励みになります。
from past log<2009.4.10>
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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