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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
紫煙
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。

以前に、タバコの話を書きましたが、その過去話、何故かリクエストありましたので、書きました。岬くんと再会した若林くんが過去を思い出す話ですが、女性が出てきますので、お嫌な方は続きは読まない方が良いかと。

 愕然とした。
 どうして忘れてしまえていたんだろう。

 西ドイツに来て三年目の夏に、岬が現れた。緑の木立の中、赤い上着の鮮やかさが目に焼き付いた。

「久しぶり」

 木漏れ日の中微笑む岬はびっくりするほど可愛くて、俺は再会の勢いに任せて、抱きついた。
「岬、久しぶり」
「わ、若林くんっ」
驚いたように声をあげながらも、岬は優しく抱き返してくれた。男と抱き合うのは、それこそ試合に勝った時位だが、そんなポリシーも吹き飛ぶ程、目の前の岬は衝撃的だった。
 あの暑い夏、こうして抱き合った。寄り掛かってくる軽さに、もっともたれてくれば良いのに、と思った。掴んだ手は細く小さくて、こんな華奢な身体のくせに、ゴールを守り切ってくれたことに、涙が出そうになった。
「勝ったぜ、岬」
「うん」
照れ隠しに大きな声を出した。岬はうっすら赤くなった目許を拭うと、微笑んだ。
 いつ好きになったのかなんて分からない。ただ、気が付いた時には、俺は岬のことが好きで、いなくなることに耐えられなかった。

 それなのに。

 たった三年。今会うまで、この笑顔は俺の胸から消えていた。

 もっとも、それは俺の心が淀んでいたからに違いない。心のけがれない聖域に岬がいたとするならば、この三年、それを顧みることはなかった。刹那の快楽と目先の欲望に、溺れた。

 初めての女の名前も、その次も忘れた。自分から相手を誘うことまではしなかったものの、すぐに誘いに乗るようになっていた。その頃付き合った女で、唯一覚えている名前はエリスだ。
「俺の家でタバコを吸うなよ。うるさい人がいるんだ」
「さすがに、怒られる?子供のくせにって?こんなことの方が怒られるんじゃない?」
甘ったるいエリスの唇から吐き出される煙は、何だか甘ったるい気がした。タバコの味のキスは苦いくせに、重ねていく内に、その苦さにも慣れた。
「また、今日もタバコの味だな」
「吸ったこともないくせに。・・・じゃあ、ゲンゾウも吸ってみる?」
良くないことだとは分かっていた。それでも、エリスの挑むような口調に、煽られるままに、口をつけた。
 初めての煙は喉に絡みついた。未知の息苦しさに喉がつかえて、何度も咳をした。むせる俺を半ば押さえつけるように、エリスはキスをした。
「ほうら、あんたも同じ味になった」
他愛のない悪戯な言葉に、何故か頭に血が上った。まるで、好きだと言われたような気分になった。
初めて吸い込んだ煙は、気持ち悪くて胸が灼けるようだったのに、慣れてしまえば、平気だった。いつもはそうでもなかったが、女を抱いた後にはタバコが欲しくなった。

 そして、その癖はエリスと別れた後にも続いた。その次の女の名前は忘れてしまったけれど。

 抱き締めた岬は、懐かしい匂いがして、俺はまるで一瞬であの夏に引き戻された錯覚すら感じた。
「よく来てくれたな」
「うん。会いたくなったから」
透き通るように、きれいなままの岬の笑顔に、ちくりと胸が痛む。きりきりと締め上げられる胸に、まだそんな感情のあったことを思い知らされた。
「な、何?どうしたの?」
もう一度抱きついた俺に、岬は驚いたように声を上げながらも、おとなしく腕の中に収まった。
「・・・会いたかったぜ」
「僕もだよ」
静かな微笑みに、逆に俺の心は乱されていく。男になりきっていないような柔らかい抱き心地に、甘い匂い。三年間の恋愛はあまり記憶に残っていないのに、まだ恋にも満たなかった岬への想いがどんどん蘇ってくる。

 不意に、エリスのことを思い出した。俺の部屋に、身体にタバコの臭いを残した女のことを。

 お前を俺のものにしてしまいたい。腕に残る匂いに、眠れなくなる前に。お前を思い出した瞬間、他の何もいらなくなってしまうなんて、お前の付けた傷は深すぎる。それでも、岬のいる時間は何て輝いているのだろう。

 これから訪れる喜びと苦悩の予感に、三年間の空白を思った。もう退屈することがない代わりに、二度と思い出すことはないような気がした。

(おわり)

拍手ありがとうございます。
ご心配ありがとうございました。マシになったので、今日は書きました。
エリス、は『舞姫』からです。他に思いつきませんでした。
私は非喫煙者ですが、付き合っている相手が喫煙者ですので、すごく臭いがついています。髪や服に染み付いた臭いは嫌なのに、相手のキスは気にならない。そういう気持ちで書きましたが、全然違うものですね。

拍手お礼:
いつも様。いつもありがとうございます。
ツンデレなところも、若林くんにはたまらないと思います。
パペットは、ヒマができたら作ってみたいな、と思いながら描きました。
子供の前でも、若林くんは二つくっつけて遊んでそうです。

拍手のみの方もありがとうございました。励みになります。

from past log<2009.3.19>
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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