※二次創作です。苦手な方はご注意下さい。
GOLDEN-23サウジアラビア戦(ホーム)の後の話。 「勝つよ」の続きです。 「おはよう」 約束通りに見舞いに、それも朝一番に岬は顔を出した。 「勝ったよ」 「ああ。見てたぞ。おめでとう」 右目しか使えないので、負担をかけないよう、TVはまったく見ない。もっぱらラジオを聞いて過ごしている。それでも、サウジアラビア戦は見た。オフサイドトラップ対策に、ほぼ一人で突破した一点目の岬のプレーもすごかったが、二点目の石崎から井沢、岬、新田と繋ぐパターンは初めて見た。アウェーの対サウジ戦、オウンゴールをしたのは石崎だった。仲間の汚名返上に、岬を中心とする南葛の連中がいかに燃えていたのかを見せつけられた気がして、TVの前で何度も拳を握りしめた。 「何?」 岬は俺の枕元の花の水を替えてくれている。普段の岬は、気は強いが、あんな闘志は見せない。 「いや・・・格好良かったな、と思って」 「三杉くんでしょう?すごかったよね」 得手不得手があるとしたら、岬はサウジアラビアを得意とする方だろう。岬を中心として攻撃は展開され、守りはDF中心に固められた。次藤や井川のようなフィジカルに強い選手が今は薄いので、オフサイドトラップと細やかなプレスディフェンスと。ボランチの松山とリベロの三杉のダブルチェックもこの試合ではよく機能した。 「岬もだ。敵討ちありがとうな」 オウンゴールはキーパーにとっても恥ずかしい。味方の制御が不十分だったと言われても仕方がない。 「ううん、まだ本命が残ってるから」 岬は微笑んだまま、隣に座った。 「試合後に、マークと話してね」 また出て来たマークにムカッとするが、岬は気にする様子はない。 「オーストラリア戦、頑張るって。僕ものすごく励ましちゃった」 全日本には自力進出の望みはない。オーストラリアの勝ち点が問題になる。次の対戦国サウジアラビアがオーストラリアと引き分け以上ならば、その可能性は出て来る。 「励ますって何だ!?」 「日本の案内は断ったよ。その分、しっかり休養してって言ったら笑ってたよ」 あれでも一応は王族なんだぞ。ひどい扱いだと思うが、俺が岬を想って来た日々はその比ではない。 「まあ、次がオーストラリアじゃな」 「うん。君に怪我をさせた借りは返して貰う」 冴えた光は、先程花を見ていた時の、穏やかで柔和な表情とは大違いだった。 日本に帰ってきて、オリンピック予選に参加しなければ、岬のこんな表情は知らなかったに違いない。俺の怪我に取り乱したり、憤ったり。 「岬、今日は時間は良いのか?」 「ごめん、あんまり時間ないんだ。今日は無理して抜けてきたから」 ベッドサイドの小さな椅子に、岬は腰掛けると、岬は俺を覗き込んだ。 「それより君こそ・・・長く居てたら目が疲れない?」 「逆に少し位は使わないとな。お前が来てくれたら目の保養になるし」 「・・・ばか」 甘い口調で、口付けようとする俺をたしなめると、岬は微笑む。 「次、敵討ち終わったら、そしたら、また逢いに来る。・・・その時に優しくして」 岬らしくなく、戯言めかした言い方に、少し気になった。どこか遠くを見るような、ものを思うような眼差しの岬は透き通りそうに儚く見えた。 「その頃には、もう退院できるはずだから。応援に行ってやるよ」 「うん。分かった。お大事にね」 オーストラリア戦に向けて、もっと恐い顔をしているのかと思っていた。どこか辛そうに張り詰めた岬は、初めてこの病室に来て、涙を流した時のようだと思う。 岬の涙を見たのは初めてではない。それでも、俺が泣かせたと思うと、今でも胸が痛む。勝利だけが岬を微笑ませるのではない。敗北だけが岬を傷つけるのではない。 一刻も早く退院したいと思った。そして、せめて岬の側にいてやりたいと思った。
立ち上がろうとする岬の腕を掴むと、思い切り引っ張った。腕の中に倒れこんだ岬を強引に抱き締めて、しばらく離さなかった。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 GOLDEN-23、「マーク問題」で嫉妬する若林くんを書くだけのつもりが、泥沼です。続きは書けません。10巻での出来事、につながるからです。 ああ・・・。 でも、オーストラリア戦の後の岬くんは、本当に慰めて欲しかっただろうと思うのです。 この一番辛い時に、若林くんは一緒に戦えずに、側にいられなかっただけでも自分を責めるタイプの人なので、そっちも辛そう。 ああ・・・もう、本当に二人には幸せになってほしい。
from past log<2009.2.21>
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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