※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。
以前に書いた「変身」(1) (2) (3) (4) (5) の設定を使っております。 岬の親父さんが、岬に薬を飲ませて、ということが分かってから、すでに三年。 親父さんを家の会社の研究所にさらったり、研究施設を提供したりした結果、何とか岬は元に戻った。 一つ残念なことがあるとすれば、岬を嫁に貰い損ねたことだが、それでも岬が喜んで俺に会いに来てくれたり、微笑んでくれることを思えば、問題なかった。
「また父さんに不穏な動きがあるんだ」 男に戻ったとはいえ、花のように可憐な岬は不穏当なことを言うと、ソファーの隣に腰掛けた。きれいな顔を困った風に歪める岬を、俺はいつものように抱き寄せた。 「岬、話してみろよ」 「この前、起きたら注射の跡が付いてたから、聞きただそうと思ったら、それっきり研究所から帰って来ないんだよ。もう半年くらい」 注射されても気付かないということは、睡眠薬を使われていた可能性がある。 「それで、異常はないのか?」 覗き込む俺に、岬は柔らかい微笑みを返した。動く度にさらさらの髪が揺れて、動いている岬を見るのは久しぶりだと実感する。 「うん、今のところは・・・」 首を傾げる岬の、どこか不安そうな様子に、俺は電話に手を伸ばした。岬一郎を監視している研究所に電話をかける。
電話の結果、驚くようなことが分かり、俺は研究所長に岬の親父さんの確保を頼むとすぐに研究所に向かった。 「若林くん、どうしたの?」 事情を説明しようにも、所長自身が混乱していて、その説明は要領を得なかった。鋭敏な岬は俺の表情から事態の大変さを悟ったらしく、黙ってついてきた。 「坊ちゃん」 駆け寄って来た所長に、事情を聞くことにした。 「どういうことなんだ」 「それが」 所長の指差す先には、布をかけた大きなガラス容器が置かれていた。カバーが外され、注視した瞬間、俺と岬はその正体が分かって、押し黙る。 「これは?」 恐る恐る尋ねる俺に、所長は大きく頷いた。 「そうです、息子さんのクローンです」 すでに赤ん坊にまで育ったクローンは、確かに岬に似ていた。
岬の親父さんは特殊実験室に監禁してあるという。所長の後に続いて実験室に入ると、懲りない親父は嬉しそうに笑っていた。 「父さん、あれは一体何?」 低い声で呟いた岬に、空気を読まない親父さんが笑いながら返答する。 「太郎、すごいだろう?もう新生児位になったんだぞ」 岬は黙って、父親を睨みつけた。 「まだ懲りないのっ!もう、いい加減にしてよ!」 岬の怒るのももっともである。中学生という多感な頃を、変な薬のせいで変に過ごす羽目になった岬である。 「だって、太郎を元に戻さないと援助してくれないと言うから」 岬一郎が発言する度に、岬の眉がぴくりと震える。逆鱗にベタベタと触っていることにも気付かず、父親は続ける。 「わしは娘が欲しかったんだ。絵のモデルになるような」 岬はそのまま父親を実験室に閉じ込めると、所長に向き合った。 「すみません、この実験室では空気抵抗ゼロの実験は可能なんですか?」 にっこり微笑みながら、さっさと実験室の減圧機に手をかけた岬を、所長が慌てて制する。って、真空にしてどうする気なんだ。殺意たっぷりの岬の底知れない怒りに、何とか怒りを逸らせようと、俺は研究室を指差した。 「それより、あっちはどうするんだ」 「どうやら、栄養剤は投与されているらしいのですが・・・どうしますか?」 さっき、ちらりと見ただけでも、岬がショックを受けていることはよく分かった。クローンは岬そっくりで、赤ん坊の頃など知らないが、それでもそっくりだと分かる。それだけで愛しくて、処分など考えられないくらいに。 「父さんに渡すくらいなら、僕が育てます」 岬は凛とした表情で言い切った。青ざめていた顔には、僅かに赤みが差し、岬の決意を強く表していた。 「そうだな。俺も協力する。二人で育てようぜ」 「若林くん!?」 驚いて振り返る岬に、俺はもちろん笑いかける。 「でも・・・」 もし岬が男に戻らなかったら、何としても岬を嫁に貰っていた。そして、子供を作って何が何でも幸せにした。それが、条件が少し変わっただけのことだ。それくらいで、俺がお前をあきらめると思ったら大間違いだ。 「一人より、二人だろ。お前の親父さんほど子育てはうまくないかも知れないけど」 「ありがとう」
こうして、可愛くて仕方ない嫁とやっぱり可愛い子供を手に入れた俺は、心から岬の親父さんに感謝したものの、それは絶対に口に出せないのだった。
(おわり)
from past log<2009.1.22>
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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