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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
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御庭番ごっこ
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。



 滝達が来たとお手伝いさんから聞かされ、部屋に上がるように言ったが、その後に起こったことは、何一つとして予想できなかった。

 ちょうど新しい雑誌が届いて、部屋で読もうと思っていたところだった。だから、二人と一緒に見ようと部屋の方に呼んだのだが、突然やって来た滝と来生は、忍者のような覆面をして、大きな箱の乗った台車を押していた。
「何だ、御庭番ごっこか」
昔、俺達の間で「御庭番ごっこ」が流行ったことがあった。テレビの時代劇で見た滝が、かっこいい忍者に興奮したところ、滝の爺さんがうちの曾祖父さんに仕えていたとか言い出し、奴らの中ではつながってしまったのである。以来、滝と来生は度々忍者のような覆面をして、「御庭番ごっこ」をするというのが決まりのようになっていた。それも、4年頃からサッカーが忙しくなって、そんな子どもじみたごっこ遊びは終わったはずだったのだが。
 今回は大きな箱を台車に乗せて、何か貢ぎ物を来たらしい。
「何だ、大荷物だな」
そう言った時だった。箱が少し動いた。
「何か、動いてないか?」
猫でも入れられていたら大変だ。知らない猫ならまだ良いが、こいつらジョンを閉じ込めたりしてないだろうな。前にも、ジョンを忍犬として訓練されかけたことがあるだけに、俺は慌てて箱にかけられた布を取り、箱を開けた。
 箱の中にいたのは、ジョンではなかったが、見慣れた奴だった。箱の中に入っていた岬は眠そうに目をこすり、顔を上げたところで、俺と目が合った。
「夜伽役を届けに来ました」
「えっ」
滝の時代がかった言い回しに、即座に反応した辺りは、いつもの岬だったが。

「皆の者、大儀であった、下がって良いぞ」
「ははっ」
昔取った杵束というべきか、動揺を見せないように、こちらも芝居がかった物言いで滝と来生に声をかけると、二人は深く一礼をして立ち去った。滝が昔主張していた通りに「殿の命じるままに」は絶対らしく、御庭番の任務はハードらしい。…これで良いのか、という気持ちが喉まで上がってきていたが、心を無にして二人を見送り、その後すぐに岬を箱から出してやった。
「岬、大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
岬は笑顔のままだが、チームメイトに箱に入れられて運ばれるとは、どんな修羅場だ。
「何があったんだ?」
つい聞いてしまったことを、俺は数秒後に後悔することになる。
「父さんが絵を描いている間、河原で寝ていたら、いつの間にか箱に入ってたんだ」
簡単な説明だったが、頭の中がぐるぐるした。こんなに可愛い息子を放っておく親父さんに、寝ていたからと箱に入れて来る滝と来生、そして箱に入れられても気づかない岬。全員が全員、おかしい。
「そこは気づけよ。河原から家まで結構距離があるぞ」
滝と来生が持ってきた台車は学校のサッカー部のものだ。これを取りに行って、岬を箱に入れて…寝過ぎだろう。
「うん、次から気をつける」
笑顔で言われても信用ならない。滝と来生だったから良いようなものの、そのまま誘拐されたらどうするんだ。俺の心配を他所に、岬は他のことが気になっていたらしい。
「それより、夜伽って…」
笑顔というには微妙な表情に、岬は言葉の意味が分かっていると気づく。
「いや、あいつらが御庭番ごっこで言っているだけだ。滝のじいさんがうちの曾祖父さんが結婚する時に嫁さんの輿を運んだらしい」
本当は妾だったらしいし、そんな美談でもなかったが、そこは脚色させてもらった。岬は一応納得したらしく、「御庭番ごっこって面白そうだね」と笑っている。
 だが、もし眠っていたのが岬でなかったら、二人が箱に入れて運んでくることはなかっただろう。ふとした瞬間に、その明るい笑顔につい目がいくことがあった。対抗戦の時の写真を写真部からこっそり買ったのがいつの間にか広まった。たったそれだけのことで、修哲では俺が岬に思いを寄せているという噂が立っていた。だから、決勝戦で怪我をしている俺が岬を抱き起こした時、誰も手伝いに来なかった。翼や石崎でさえ手を貸そうとしないことを、岬は訝しんでいたかも知れない。
「岬、時間まだ良いか?」
今回のことも怪しまれているかも知れないが、もうすぐ引っ越していく岬と少しでも長くいたい気持ちがあった。
「うん…父さんは仕上げ中だから、すぐ帰らない方が良いしね」
「せっかく来たんだから、一緒に見ようぜ」
あまり乗り気ではなさそうだったが、届いたばかりの雑誌を掲げて見せると、岬は目を見開いた。俺達にはさすがの効果としか言いようがない。
「もう買ったの!?」
「いつも届けてもらっているんだ」
「そうなんだね」
岬は、雑誌につられるように俺の隣に腰をおろした。見るからに柔らかそうな髪がさらりと揺れて、俺は思わず見入った。
「それにしても、若林くんの部屋ってすごいね」
座って落ち着いたのか、初めて来た相手が必ず口にする言葉をなぞり、岬は周囲を見渡した。サッカー雑誌やキーパーの本の並ぶ棚を一通り眺めた後、岬が凝視したのは、俺のベッドだった。
「天蓋付きのベッドなんて初めて見たよ」
「天蓋付きって言葉を知っているだけでも大したもんだ。来生たちは『お姫様ベッド』って言いやがった」
「あはは。それは面白いね」
いかにもおかしそうに笑って、岬は立ち上がった。そして、ベッドに近づく。天蓋を見上げて動くうちに、好奇心が刺激されたのか、更にじっくりと見ている。
「中見ても良い?」
「どうぞ」
岬に見えるようにカーテンを開ける。サイドボードには、去年全国大会に優勝した時の写真と盾、そして今年の写真を並べていた。見られて困るものはない…はずだった。だが、昨日もらった写真を拡大しておいていたことを、うっかり忘れていた。翼と岬と三人で撮った写真の一部だけを拡大したのだ。
「岬、ちょっと…」
岬と俺のツーショットを飾っているとなると、誤解では済まない。岬も驚くに違いない。体で隠してしまおうと動いたところで、手が届かなかった。ちょうどそっちに動いた岬の上に覆いかぶさる形になった。
 白い可愛い顔が間近にあって、思わず息を飲む。
「若林くん…」
先に声を出したのは岬の方で、心臓が痛い程ドキドキした。
「岬…」
やっぱり良い匂いがする。少し甘くて、ほっとする匂いだ。
 胸が落ち着かないまま岬を見下ろし…そして、俺は別の気配を感じた。天蓋の向こう、俺達を見ているのは。
「そこだっ!」
昔土産にもらった十手キーホルダーをとっさに掴むと、カーテンが揺れたように見えた辺りに投げる。
「ぐはっ」という呻きと共に、ドサッとその場に倒れる音がした。
「さすがは殿!」
来生が叫ぶが、褒められても全く嬉しくない。俺としては、見られたくないものを隠そうとして、岬の上に覆いかぶさってしまい、図らずも見つめ合った現場を見られたのだ。しかも、出歯亀した滝を倒すところを岬に見られるおまけ付きだ。
「岬、これは…」
慌てて弁解しようとした時、岬はすっと起き上がった。乱れた髪を直す仕草が妙に色っぽく見えて、俺は目を逸らす。
「若林くんの家って面白いね」
くすっと笑い声を立てた岬に、少しだけ腹が立った。俺が今こんなに複雑な気持ちになっているのは、全部お前のせい。
「そんなに可笑しいかよ」
体を起こしたばかりの岬を押して、ベッドに押し付けた。岬は笑った顔のまま、目だけを動かして俺を見上げた。
「うらやましい」
その笑顔が何故か寂しげに見えて、俺は岬の顔の横に置いた手を、岬のすぐ側まで近付けた。
「もっと早く、遊べば良かったな」
「うん」
他愛のない話をするには好き過ぎて、真剣な話をするには遠すぎて、これはまだ恋とは言いきれないけれど。
「次来たら、夜伽させるけどな」
「何それ」
せめて笑顔で送り出したいと思った。

 岬が帰った翌日、高杉と滝が俺の家に岬の寄せ書き用だとボールを持って来た。
「若林さん、昨日は…」
何か言いたそうな滝に、黙って首を振る。
「言うなよ。言ったら手討だぜ」
滝はギョッとした顔で、俺を見てそれから笑った。
「聞くまでもありませんしね」


 岬のバスに間に合わなかったことに実は安堵した。もし間に合って、岬が泣いていたら、俺は『自称お庭番』に初めての命令をしていたかも知れない。
 これはきっと一時の気の迷いで、お庭番ごっこが流行ったのと同じような熱病に過ぎない…はずだったのだが。
 そうでないことを知るのは、3年後、お庭番が見張っていない異国の町でのことだ。

(終わり)

拍手ありがとうございます。
暴走がひどい時期に半分まで書いて、どうしたかったのか分からなくなったので、後は真面目に書きました。
忙しいとろくなことがないと思います。
でも、前回井沢くんと高杉くんを書いたので、どうしても滝くんが書きたかったんです!
繁忙期なのに加え、人生で11度目の引っ越しを控えて、ナーバスになっていますが、暴走せずに済むよう平穏に暮らしたいと思います。
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コメント

真様、ご無沙汰しています。
あまりにもみんなが可愛くてのたうち回りました。お庭番ごっこ最高ですね。
男に二言はない若林くんの事ですから、岬くんはドイツで再会した夜に夜伽をさせられたに違いない。
その流れで嫁にもできるし、ここで岬くんを拉致して運んできたお庭番は本当に優秀ですね。(笑)
決勝戦後の2人きりの謎もこんな理由があったとは。なるほど合点がいきました。

それから大変遅くなりましたが、お誕生日おめでとうございます。
この時期にお引越しとは大変そうですが、つつがなく終わりますように。
素敵な一年になることを祈っています。
[2018/11/11 05:12] URL | 銀月星夢 #mQop/nM. [ 編集 ]

Re: タイトルなし
銀月星夢様

いつもありがとうございます。こちらこそ、御無沙汰しております。
確かに、再会から夜伽の流れはスムーズそうですね!
なんて素敵!
若林くんの岬くんへの対応は、絶対いじりたくなると思います。
実は、新アニメの影響で、修哲カルテットがより好きになりましたので、またわちゃわちゃしている話を書いていきたいと思います。
そして、誕生日についてもありがとうございます。
ボスの日なので、そういうのを書こうと思っていたのですが、書いたのは「格差社会」だったという…。
お笑いな一年が確定してしまいましたが、これからもよろしくお願いいたします。
[2018/11/13 19:56] URL | 真 #- [ 編集 ]


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