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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
雨は降り出した
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。


 今朝の天気予報では、雨という予報だった。まだ降ってはいないものの、時間の問題だろう。今にも降り出しそうな真っ黒な雲と、湿気を帯びた空気が雨の近いことを物語っている。

「雨になる前に、早く帰らないとね」
岬はそう言って道を急ぐ。如才なく折りたたみ傘を用意していても、雨に遭うのは嫌なのだろう。
「そうだな」
雨で濡れたくないのは俺も同感だ。一緒になって道を急ぐ。

 岬といると、こんなことすら新鮮で楽しい。日本にいる時は、同年代ではリーダー視されていたこともあって、羽目を外すことは難しかった。ドイツに来てからは、背伸びをすることが多かった。同い年相手に、年相応に、カッコつけずに振る舞うのはとても楽だった。そして岬はそういうことを許してくれる雰囲気の持ち主だった。

 岬は俺を甘やかしてくれる。あまり頼らないし、むしろ頼れと言ったりする。
 今日の買い物も、普段買い物に行けない俺に、岬が提案してくれたものだ。
「もう買い忘れはない?」
「ない…はずだ」
「はずって何だよ」
岬が笑う度に、それだけで嬉しくなって、わざとふざける。そんな他愛のないことが何故かやめられない。


「…とうとう降って来たね」
結局途中で雨が降り出した。
「傘持って来たけど、二人じゃ狭いかもね」
岬はそう言って、折りたたみ傘を広げた。どうやら二人で入るのは決定事項らしい。
「俺は良いから」
「ダメだよ。肩が冷えるから」
岬はそう言って譲らず、俺は仕方なく右側から傘に入る。だが、狭いものは狭い。肩をすぼめて入っても、右手で傘を掴んでいる岬とぶつかりそうになる。
「大丈夫だよ、もう少し寄っても」
そう微笑んだ岬の肩をそのまま掴む。肩を抱き寄せて、何となく目が合った。
「あのさ、岬」
「なあに?」
傘が揺れたせいか、濡れてしまった岬の前髪を一房掴む。
「…好きだ」
「えっ?」
思わず傘の柄を手放した岬の手を、覆うように握った。
「本当に?」
尋ねた岬に、胸はかき乱された。傘の柄を握り締めて、雨音にかき消されないように、声を振り絞る。
「好きなんだ」
「…僕もだよ」
岬は、対照的な程静かな声を出した。冷たい雨で薄ら寒い中、顔を赤くしている岬に、じっとしていられなくなった。
「岬…」
傘の中に篭った熱気もべたつく湿気も忘れて、岬を抱き寄せる。恥ずかしいのか少し目を逸らす様子に、落ち着かない。心臓が自分のものとは思えない程、ひどく音を立てる。
 岬の手を引いて、ビルの間の路地に入った。岬を壁に押し付けた時、傘が手から落ちて転がった。
「傘…」
「後で拾う」
庇から零れる雨粒が火照った頬を冷やしても、キスをやめることはできなかった。

(おわり)

拍手ありがとうございます。
雨の予報が出たら公開しようと思っていた話ですが、台風は違うなあ。
みなさま、どうかお気をつけ下さい。
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