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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
パズル
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。



 この病院の待合室には、面白そうな本はない。最初に行った日に分かってからは、パズルの本を持って来ることにしている。ずいぶん前に近所の人にもらってから、まだ全部は終わっていない本だ。
 診察が終わり、待合に戻ると、そこには若林くんがいた。
「よお」
「若林くん」
この近所に他に外科の病院はない。前に、翼くん達と通院中の若林くんと遭遇したことがあったから、同じ病院だと知っていた。けれど、まさか会うとは思っていなかった。若林くんは帽子を軽く持ち上げてみせると、僕の前に立った。
「岬、足の具合はどうだ?」
「ずいぶんマシになったよ。若林くんは?」
「俺もだ。隣良いか?」
「もちろん。どうぞ」
僕が頷くと、若林くんは長椅子の隣に腰掛けた。いつもならかなり患者さんがいる。それが今日は嘘みたいに誰もいない。狭い静かな待合室に響いた僕の声は、とても嬉しそうで、何だか恥ずかしくなった。
「それ、岬の本か?」
「うん」
若林くんは僕が隣に置いていたパズルを見つけて、指差した。
「パズルの本持って来てるのか」
「うん。ここの待合室って何もないから」
「…ああ」
お互い声をひそめて話す。いつもより近い距離で、その分ボリュームを落とした。
「俺もそうすれば良かったぜ」
鞄の中の雑誌を取り出してみせ、若林くんは笑った。
 若林くんと話したことがない訳じゃない。最初の出会いが出会いだったし、最初は敵チームということもあったけど、同じチームになってからは時々話すこともあった。
 仲間としての若林くんは、よく話すし、よく笑う。偉そうだけど、周りをよく見てるし、修哲のみんなに慕われているのもよく分かる。
 話したことは少なくても、気が合うのは確かだし、楽しかった。
「俺もその本持ってるんだぜ。パズル面白いよな」
「うん」
近所のおばさんが引っ越し前にくれた本だった。特に好きな訳でもない。それでも、僕は笑顔で頷いた。若林くんと共通のものがあるのは、何故か嬉しいと思った。
 あの決勝戦、若林くんは足が痛いのに、僕のところに来てくれた。助け起こしてくれて、一緒に喜んでくれた。
 今まで、何度も試合に勝った。それでも、若林くんの顔を見た途端に、涙が出そうになった。僕の足が自由に動いたら、一番に若林くんのところに走って行ったと思う。若林くんが僕を信じてくれて、励ましてくれたから、僕は最後まで走れた。
 そんな興奮が残っているのかも知れない。若林くんと話すだけで、落ち着かなくなる自分の気持ちが何よりのパズルだ。
 こんな気持ちを何と言うのか、僕は知らない。
「パズル、解けそうか?」
「簡単じゃないけど…解き甲斐はあるよ」
笑顔で気持ちを隠して、僕は答えた。


 病院を出てから、本屋に向かった。岬の持っていたパズルの本を探す。
 岬は不思議な奴だ。いつもは近付いても来ないくせに、簡単に俺の心を揺さぶる。
「簡単じゃないけど、解き甲斐はある、か」
岬に近付きたい、きっとそれは簡単ではない。そして、岬の答えそのままに、解き甲斐がある。
 買った本を持って帰り、難解なパズルをまず一問解こうと思った。

(終わり)

拍手ありがとうございます。
お風呂に入っている時に、「パズル」という言葉が浮かんできたので、勢いだけで書きました。数独とかのイメージです。
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