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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
きみが嘘をついた(後編)
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。
4月1日限定拍手が、途中で切れていましたので、一部変更して再掲します。

 待ち合わせは練習が終わった後の、夕方の公園だった。夕陽の色に染まる景色の中、時間通りに現れた岬は、待っていた俺を一瞥すると、黙って歩き出した。
 岬の家に行くのは、初めてだった。物は少ないが、清潔に保たれている部屋は、以前に想像した通りだった。
「父さんは、今日は帰って来ないから」
岬はそう言って、内鍵をかけた。俺を案内する態度はごく事務的で、できるだけ早く済ませようという感情が透けて見えた。それは当然のことだ。それ程岬を傷つけておきながら、間近にいるというだけで、胸の中がざわめく。
「どうぞ」
岬は隣の部屋に続くドアを開けた。

 隣の部屋は、恐らく岬の部屋なのだろう。こちらもあまり物はないが、造り付けの棚には本が並べられており、テーブルにはペンやノートが置かれている。いずれ引っ越すことも考えて、家具付きの家を借りたと以前岬は話していた。岬のものにしては大きめのベッドもその一つだろう。テーブルの方の椅子に腰掛けた俺に対して、岬は部屋の入口近くに立ったままだ。

 弁解する気持ちがなかった訳じゃない。だが、聞く耳を持たない岬を、合宿所で説き伏せるのは無理だと分かっていた。それよりは、場所を変えて、ゆっくり話したい。
 俺は椅子から立ち上がると、ドアの方から回り込むようにして、岬の退路を塞いだ。
「なあ岬、少し話せるか?」
壁際に追い詰めた岬に尋ねると、岬は顔を反らした。サラサラの髪が揺れて、白い顔に影が射す。
「弁解とか要らないよ。君にとったら、僕なんか単なる性欲処理の相手だろ?」
俺を見ないまま言い放つ岬に、手首を掴んで、壁に押し付けた。岬が驚いたように目を見開く。
「そんな訳あるか。俺は、お前が好きなんだ。決して体だけがほしいんじゃ…」
「嘘つき」
岬は俺の言葉を遮って言った。俺も相当大きな声を出していたので、岬の方も怒鳴るような剣幕だ。
「僕のこと、大事だって言っておいて、よくあんなこと…」
白い顔が、恥ずかしいのか憤りのためか、僅かに朱を帯びている。普段は冷静な岬が感情をあらわにしている姿に、反論する気はなくなった。試合の時でもなかなか見ない、鬼気迫る岬の姿は、何ともいえない迫力があって、顔のきれいさが目立つ。岬はどうしても許せないのだろうが、俺はどうしても許されたい。
「あの時は、本当にすまなかった。お前が帰ってしまうと思ったら、我慢できなくなった」
岬は唇を噛み締めたまま、俺の言葉を聞いていた。握られた拳は見るからに力が入っていて、絶対に退かないという岬の意志を感じさせる。岬は俺のことを許せないに違いない。それなのに、俺は岬を抱きしめたくて仕方なくなっている。岬が強がれば強がるほど、焦がれる想いはままならない。
「優しくなんて、できる訳がない。俺がどんなにお前のこと好きだと思って…」
「…もし、本当に好きなんだったら、出す条件が違っているんじゃない?」
俺の言葉を遮りながらも、話し始めた岬の口調は静かそのものだった。いや、違わないと反論しようと思っても、正鵠を突かれて、言葉も出てこない。…確かにそうだった。久しぶりに見た岬の姿に、あの夜のことを思い出したのは間違いない。夢にまで見た、さらさら揺れる髪や、ほのかに香る石鹸の匂い、触り心地の良い肌の質感に、感情が動かされてしまった。
 だが、それだけではない。
「…お前が翼を庇うのがおもしろくなかったんだ」
翼との会話を聞いて、心配になったのか、わざわざ俺の部屋に来た。それだけ翼が大事なのかと、気になった。
「それでも、あんな条件出すなんてどうかと思うよ」
「仕方ないだろ。お前に関しては、余裕なんかないんだ」
岬と顔を合わせる度に、鼓動が跳ねる。胸の中に熱いような塊が生まれて、徐々に広がっていく。それを何と呼ぶのか、きっと岬と俺では多分違っている。


「…本当に僕のことが好きなら、証明して」
岬はそう言うと、ゆっくりとベッドの上に上がった。見られていることを確認するかのように、俺をじっと見据え、岬は服を脱ぎ始めた。白いカッターシャツのボタンをゆっくりと外していく内に、真っ白な肌があらわになる。骨が細い上に筋肉がつきにくいと自分で言っていた通り、細いのに痩せぎすではない、しなやかな体だ。
 焦がれていた岬を組み敷いた時、このきれいな体に、汚すということを意識した。
 だが、今は違う。バサッと白いカッターシャツを脱ぎ捨てる岬の表情に、俺は岬が執拗に詰ってきた訳を知った。
「嘘つきはどっちだよ」
俺はベッドに上がると、膝立ちのままの岬の腕を引っ張り、ベッドに押し付けた。
「なかなか気付かない辺り、若林くんは僕のことを見てないんだよ」
そっと睨む岬に、構わず唇を奪った。

 岬は抗うことなく、覆いかぶさる俺の背に腕を回した。
 翼が言った通り、岬が俺を好きだとしたら、嬉しいと思った。はだけたカッターシャツを肩に引っ掛けたまま、誘惑するように微笑んだ岬に、許す口実が欲しい岬の真意を見た気がした。
「嘘つき同士、お似合いだと思わないか?」
キスで蕩けた顔を覗き込めば、岬は一瞬間をおいた後、にっこりと笑った。
「それは言えてるかもね」


 それから、何度も何度も唇を重ねた。岬のキスが恋人のそれになるまで、そうかからなかった。
 だが、すぐにでも岬がほしい俺に、岬は「まだ、だめ」と首を振る。誘惑しておきながら、焦らす岬に、これこそが罰ゲームのようだと思った。
「やっぱりお前って嘘つきだな」
呟く俺に、嘘つきな恋人は優しく笑ってキスをくれた。

(おわり)

拍手ありがとうございます。
拍手お礼に掲載時、この部分が飛んでいるとご指摘をいただきました。読み返したつもりだったのですが、散漫だった様子。
時間があれば良かったのですが…次回は気を付けます。
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