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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
サト.ラレ(前編)
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。
※今日は「サト.ラレ」という漫画の設定を少し使用しています。

「町ん中でむやみにボールをけるもんじゃないぜ!」
『…何だこいつ、すごい可愛いぜ』
この日、南葛小に引っ越して来た岬は、ボールを当てそうになった相手から、いきなり変な反応が返ってきて、驚いた。話し声に、重なるように謎の音声が聞こえてくるのだ。
 とはいえ、日本全国津々浦々を旅して来た彼は、少々のことでは動じない。反応したら負けだと、笑顔で応じる。
「ごめんなさい。ボール取ってくれて、ありがとう」
帽子の少年が投げ返してくれたボールを受け取って、礼を言う岬に、少年も笑い返した。
「俺は若林源三だ」
『笑ったら、もっと可愛いぜ。見ない顔だが、転校生か?』
独り言にしては大きい音声に、岬は不審に思いつつも、普通に答える。
「僕は岬太郎。南葛小に転校してきたところ」
転校生としての好感度アップスキルを遺憾無く発揮して、対応する岬に、若林も笑顔を向けた。
「おう、よろしくな」
『男なのか!?でも、可愛いよな。サッカーも上手そうだし、仲良くなりたいぜ』
追いかけてくる謎の現象に、岬は聞こえないふりで、頷いた。

 急いでいるから、と走り去った若林と別れて、修哲小学校にたどり着いた岬が見たものは、サッカーの試合だった。修哲小と南葛小の対抗戦との垂れ幕に、オーバーな学校だと呆れて、それ以上に立派なサッカー場に驚きつつ、岬は入って来た。
 だが、そこで繰り広げられている試合を見た途端、そんな感想は霧散した。南葛を引っ張っている10番にも、修哲のゴールキーパーにも見覚えがあったし、二人の繰り広げるプレーは、全国を転々とした岬も驚くほどのハイレベルなものだった。
 だから、岬はその試合に参加できる機会を逃さなかった。二人の天才が対戦する試合に加われる奇跡に、岬の小さな体は震えた。

 だが、岬が本当に震えることになるのは、グラウンドに降りてからだった。
「岬くーん!」
『岬くんと走るのって楽しいな!次は左だ!!』
猛スピードで飛ばしながら、走る方向をお知らせしてくれる天才FW。
『岬ってやつもなかなかやるじゃないか。可愛いし』
険しい顔で、ナイスセーブを連発しながら、一度しか名乗っていない岬の名をしっかり覚えていて、謎のメッセージを送ってくる天才GK。
 どういう状況か分からない。それでも岬は自分から参加した以上は、自分のせいで負けたと言われるのは許せなかった。そんな岬の異変を察したのか、石崎がタイムを申し出てくれた。
「岬、で良かったな?」
「うん。どうしたの?」
石崎の声が二重に聞こえないことに安心して、岬が首を傾げる。石崎は岬に近付くと、耳打ちした。
「あのな、お前天才保護法って知ってるか?」
「う…うん。確か、サト.ラレとかいう、自分の考えを発信しちゃう天才がいるんだよね」
この世界には、あらゆる思考が思念波となって周囲に伝播してしまう症状を示す者が生まれることがある。それを俗にサト.ラレといい、例外なく天才であるが、本人に告知すれば全ての思考を周囲に知られる苦痛から精神崩壊を招いてしまうため、それを知っても絶対に相手に言わないという「天才保護法」という法律が存在する。
「あいつらがそれ。翼はそれでも、誰も動きについていけねえし、若林の力は群を抜いてる。だから、あいつらが言ってることは気にすんな」
石崎の断片的な説明も、二人とプレーした岬には実感できた。二人が天才であることも、思考が駄々漏れであることも。
「…そうか。ありがとう、石崎くん。よく分かったよ」
状況が整理されただけで、岬には十分だった。天才に会うのは初めてでも、天才保護法は知っている。グラウンドの副音声は、二人の天才の心の声であり、岬は気付かないふりをしなければならない。

 対抗戦は、同点という結果で終わった。
 延長戦になる頃には、岬は翼の動きに完全についていけるようになっていた。翼の思考は黙っていても耳に入って来る。その動きについていける俊敏さも勘も岬にはあった。
 普段、翼と練習していた南葛のチームメイト達は、口々に称賛の言葉を発した。そして、翼は更に岬を誉めた。
「岬くん、すごいね!」
『俺、あんなにサッカーしやすかったの初めてだよ!』
他のチームメイトの手前、岬は八の字になりそうな眉毛を気力で立て直して微笑んだ。
「ありがとう。翼くん」

 翼とはうまくやっていけそうだ、と岬は思った。翼は裏表がなく、同い年なのに、まるで弟のように思えた。

 問題は、もう一人の天才だった。
 岬は確かに可愛らしい顔をしている。整った色白の顔に、大きなキラキラ光る甘い色の瞳に、ひっそりと柔らかさを主張する唇を兼ね備えているが、小学生男子としてみれば、「女みたいな顔」とからかわれる要素でしかない。からかわれないように、逆に気を張っていたりする。だが、若林の思考はそれを遥かに超えていた。
 対抗戦の後、握手に来た若林はニコニコ機嫌の良さそうな様子だった。
「良い試合だったね、若林くん」
岬が差し出された手を握ると、若林は表情を崩さないまま、帽子に手をやった。
「ああ」
『やっぱり可愛いな』
岬は聞き返したくなる衝動に必死で耐えた。だが、先に崩れたのは、修哲小のメンバーだった。みんな一斉に、嫌な汗をダラダラ流しながら、信じられないという顔で、若林を見ている。
「じゃあ」
もうこれは、さっさと立ち去るしかない。決断した岬の行動は早かった。
『もっと話したかったぜ』
追いかけてきた若林の呟きは、知らないふりをした。

 翼とのサッカーは楽しい。全力で走り合う間に、翼の声が聞こえなくなる瞬間がある。それを岬は、翼の理解されたい気持ちがなくなる瞬間だと捉えていた。そしてそれは、岬にとっては本当に幸せな現象だった。
 ただ、若林に対しての接し方は問題だった。違う学校だから、あまり関わることもないだろうという岬の予想は残念ながら外れた。小学校単位ではなく、地域選抜チームを作るという構想が急に持ち上がり、岬も参加することになり…そこには、若林もいた。翼に話しかけながらも、チラチラ視線を向けてくる若林に、岬は露骨に視線を外す。
『岬に会うのは久しぶりだな。相変わらず、可愛いぜ』
少し離れても、若林の思考は追って来る。監督が周囲に二人の天才の説明を始める。どうやら翼には若林の思考は聞こえないらしく、平然としているのを見て、岬は生まれて初めて、天才を羨んだのだった。

(つづく)

拍手ありがとうございます。
長くなってしまったので、2分割しました。後編もこんなノリです。
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