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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
席を立たないで
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。

 席を立たないで。

 岬の言葉に、目を上げた。向き合った時に、視線は絡み合った。


 岬のことを好きになったのは、いつだったのか。もしかすると、初めて会った時かも知れない。
 我ながらあまり親しみやすい方ではない。今までまがりなりにも親しくなったのは、向こうから近付いて来た相手ばかりだった。でも、岬は違った。
「岬、なかなかやるな」
試合後のホイッスルが鳴り、センターラインに向かう途中で、翼と話した後、岬にも声をかけた。初見で、あの翼と組める同学年がいるというのは驚きだった。…この小さな二人に、まんまとしてやられた。
「ありがとう。若林くんにそう言ってもらえるなんて、嬉しいよ」
岬は優しく微笑み、そう返して来た。試合の後に、相手チームの奴と話す気になったのは、初めてだった。返ってきた笑顔も印象的で、きれいな顔だと思うより先に、目が引き寄せられていた。
「岬くんはすごいんだよ!心が通じているみたいなんだ」
ボールとじゃれながら放たれた翼の台詞に、岬は一瞬ぴくりと肩を震わせた。その次の瞬間には、嬉しそうに微笑みを返していて、見間違えたかと思ったのだが。その動揺の意味を知ることになったのは、ずっと後のことだった。

「岬、来てくれてありがとうな」
呼び出したグラウンドに、時間ピッタリに現れた岬は、まっすぐ俺に歩み寄って来た。夏は終わりかけていても、日差しはまだまぶしくて、俺はキャップを深めにする。
「僕も話があるんだ」
岬は真剣な表情で俺を見上げた。

 南葛SCでチームメイトになってから、岬と何度か話した。岬は優しい顔に似合わず、気が強くて、自分をもっている。各地を旅して来ただけあって、子供っぽい顔には似合わず落ち着いていて、賢さがにじみ出ていた。そんな岬との会話は楽しくて、話す機会は増えた。
 決勝戦の朝に話した時もそうだった。岬はいつもと変わらぬ笑顔で、ウォーミングアップをしていた俺に近付いてきた。
「若林くん、今日はよろしくね」
緊張を感じさせない、普段通りの静かな口調だった。どこか懐かしいその笑顔に、俺は思わず手を止めて、岬を見つめた。
「こちらこそ」
久しぶりの試合で、相手は明和FC。気負いがなかったといえば、嘘になる。そのもやを晴らすように、岬はそこにいた。

 その岬が、もうすぐ引っ越していくという。何度か練習終わりに寄った河原に呼び出したのは、全国大会の数日後だった。

「先に僕から話しても良い?」
土手のコンクリートは日陰になっている分、ひんやりとしていた。岬ははみ出した草を踏まないように避けて座ると、そう前置きした。
「…ああ」
岬と話したかったが、どう切り出せば良いのか、分からなかった。それだけに、岬の提案はありがたい。俺が頷くと、岬は高く澄んだ、落ち着いた声で、ゆっくりと言った。
「若林くん、僕は人の心が読めるんだ」

「はあ?」
岬の言った意味はすぐには分からなかった。岬は丁寧にもう一度繰り返し、俺は聞き違いでなかったことを受け入れるしかなかった。
「どういう意味だ?」
言い返した俺に、岬は静かに首を振る。岬の横顔は、まるで透き通りそうに白い。
「僕が翼くんの心が読めるって言っても、信じない?」

 そう言われると、そんな気がした。翼の動きが読めるのは、岬だけ。明和の連中の動きも岬だけは読んでいたし、三杉にも惑わされずに冷静を保っていた。
 岬は、見返した俺の視線を感じてか、横顔のままひとつ頷く。
「どうしても、若林くんには言いたかったんだ」
微笑みながら振り返った岬に、俺は息を飲んだ。

 俺は岬が好きだ。決勝戦の時に自覚して、数日温めた想いだった。切り出し方は分からなかったが、そう言うつもりだった。そして、岬の表情からすると、その想いも俺が断念したことも、知られていると思った。
「やっぱり、気持ち悪い?それとも、怖い?」
尋ねる岬に、俺は大きく首を振った。だが、恐らく俺の表情はそうはいっていなかった。岬は黙って立ち上がり、振り向きもしなかった。

 岬の消息が分からないと聞いたのは、翼からの初めての手紙だった。しばらく返事ができなかったことを詫びた後、翼は戻ったチームの様子を書き、その後に、岬宛に出した石崎の手紙が戻ってきたことを書いていた。
 
 好きだと告げた後、手紙をくれと頼むつもりだった。友達に手紙を書いたことがないと言った岬と、秘密のつながりが欲しかった。離れて行く岬を留めることはできなくても、岬との時間を留めておきたかった。結果的に、岬の違う秘密を知らされることになったが。

 あの時、立ち上がって岬を追おうと思った。だが、胸に沸き起こった動揺が俺の足を止めた。我ながら、小学生の時分から早熟だった。好きだという感情には、触れたいという欲望が伴うほどに。
 岬はきれいな顔をしていた。白い細い体は華奢で、優しい声は時々甘く響いた。触れたことは数える程しかなかったが、その肌の柔らかさははっきり認識していた。…自分の中の醜い感情を澄んだ大きな目に見抜かれることが怖かった。


 それだけに、今岬が目の前にいることが、不思議で仕方なかった。
「岬!?」
突然ハンブルクの俺の前に、岬は姿を現した。背も伸びているが、少女めいた優しい顔はそう変わっておらず、紛れもなく岬だと分かった。
「若林くん、久しぶり」
微笑む岬に、あの夏を思い出して、目が眩みそうになった。
「お前、どうして…」
それ以上は言葉にならなかった。

「そうか、岬はパリにいるのか」
岬は、あの日のことなどなかったかのように長く話した。あの日以前の、違う学校だがよく話すチームメイトという関わりに戻って、淡々と話した。どうしてここにいるかを説明されながら、あの日のことで頭がいっぱいになった。

 岬は、俺の想いを知っている。そのうえで、秘密を打ち明けてきた。
 三年間、あの日のことを後悔していた。夢に現れる岬は、大きな瞳を曇らせ、透明な涙をこぼす。その様子を見つめるばかりで、身動きできずにいる。今の俺なら、どうするべきだったか分かるのに。

「岬」
話が途切れた途端、それまで話し続けていたのが嘘のように、岬は黙り込んだ。
「…読めているんだろ?」
「若林くん、あのね…」
岬は俯いたまま、口にした。夏の風に揺れる微かな葉音にさえ掻き消されそうな声だと思った。
「俺、水取りに行って来る」
喉はカラカラだった。締め付けられるような感覚に、居てもたってもいられなくなった。
 立ち上がった俺に、岬は意を決した様子で向き直った。その表情に、岬もあの日のことを忘れていないことを思い知らされる。そして、それをやり直すために来てくれたことも。
 岬の考えは分からない。それでも、岬が俺の想いを恐れることなく、ここにいることの方が、嬉しかった。
「立たないで」
岬の言葉に、目を上げた。向き合った時に、視線は絡み合った。

「…読めるんだろ?」
「…読まないようにしてるよ」
岬は静かに答え、俺は黙って手を伸ばした。握りしめる指先が白く見える岬の手に、手を重ねる。
「逃げないでいてくれて、ありがとう」
「それは俺の台詞だ」
もし再び会うことがあれば、岬を恐れたのではなく、自分の心を恥じたのだと詫びるつもりだった。それなのに、岬の手を握った途端、好きだという気持ちしかなくなった。
「岬」
俺の呼びかけに、こちらを向いた岬は真っ赤になっていた。伝わったことは、火を見るより明らかだ。
「何を言いたいか、知っているみたいだな」
「…うん。読もうと思わなくても、伝わってきた」
掴んだ手は、思ったより細くて小さかった。逃がしたくないと思ったのは、去っていく岬の背中を思い出したからだ。心が読めようと、好きなものは好きで、傷付けたくはない。
「でも、君の声で聞かせて」
ねだる声は、俺の心を確信している分、少し甘えが含まれている。
「ああ。好きだぜ、岬」
耳元に囁くと、岬は白い頬をほのかに染めて、恥ずかしそうに目を伏せた。その様子は、岬が答えるまでもなく、岬の気持ちを俺に伝えてくれた。
「…僕も好き、だけど」
そう言いつつ、岬は目を上げた。視線が合いそうになったところで、岬は急に俺の手を振り払おうとした。
「いやらしいこと考えるのやめてよ!」
「しょうがないだろ!お前の手は暖かくて柔らかいんだから!!」
弁解しながら、胸の奥の奥まで見てくれても良いのだと視線で訴える。すべてをさらけ出して、信じてくれるのならば、むしろ望むところだ。
「…若林くんって」
腕を掴まえたものの、岬は目を逸らした。
「受け入れてくれるって信じてた。…えっちだけど」
「はは。それはお前が可愛いから仕方ない」
そう言いながらも、岬は逃げる様子もない。恥ずかしそうな姿も可愛いと見惚れながら、好きだ、と繰り返した。

(おわり)

昔の歌のフレーズを耳にして書き出したのですが、休み休みしているうちに、何ヶ月もかかってしまいました。
エスパー岬とえっちな若林くんの話です。
テレパシーセービング(笑)の若林くんの方が、読心術とかしそうですが、おさまり的にこうなりました。
岬くんは、若林くんの妄想に悩まされますが、それ以外は幸せだと思います。
「離婚原因:セクハラ」には気をつけていただきたいところ。
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