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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
No one knows,but you told me.
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。

「若林くん…」
突然の訪問者に、僕は言葉を失った。
 アジア予選が終わり、一旦チームは解散になった。僕も南葛や修哲のメンバーと一緒に駅まで帰って来たけれど、商店街に寄るからとみんなと途中で別れた。何しろ、しばらく家を空けていた分、食料なんか何もないだろうし、父さんが戻って来ているとも思えなかった。
 そして、その判断は結果的に正しかった。

「どうしたの?」
「お前の顔が見たくてな」
そう言うなり、若林くんは玄関で立ったまま動けないでいる僕の肩を抱いて、部屋の中に押し込む。
「…急に来たら、ビックリするじゃないか」
「俺が言う前に、お前が帰っちまったんだろ」
若林くんの言葉に、ため息が出た。

 …予想通り、若林くんは何も分かっていない。

 確かに食料はなかった。でも、買い物は後にして、翼くんや他の仲間達と旧交を暖めても良い場面だった。それを、早々に抜け出して来たのは、若林くんのことがあるからだ。
 若林くんとは、以前から付き合っている。僕がフランスにいた頃から付き合い始めて、日本に帰ってからも、二人の仲は続いた。僕はそれまで誰とも付き合ったことはなく、キスだって初めてだったけど、4年が経つ間には、日本人としては年齢以上の経験を積むことになってしまった。そんな有様で、普段ヨーロッパにいるだけに、公然とふるまいたがる若林くんに対し、どうしても人目を気にしてしまう僕は、その分だけ苦労が多かった。それでも何とか若林くんをコントロールして、隠し通してきた。合宿では、特に注意をした。必要以上に若林くんに近づこうとしない様子は、かえって不自然だったかも知れないけれど、うまくやり過ごしたと自負している。
 だけど、合宿を終えて自由の身になった若林くんが、僕の家に寄りたがらないわけがなかった。


 大体、合宿に合流する前の日にも、若林くんは会いに来てくれた。合宿に合流する前にと、はるばる僕の泊まっているホテルまで来てくれた若林くんに、嬉しい反面、少し照れ臭く感じた。
「お帰り、岬」
「ただいま…若林くんにそう言われるのって変な気がするよ」
いつもは、日本に帰って来る若林くんを、僕が迎える側だ。僕が「お帰りなさい」と言うなり、抱きつかれるのも。
「ただいまのハグは?」
「それもセットなの!?」
呆れた口調になってしまったけど、若林くんに向けて手を広げる。
「じゃあ、ただいま」
そう言ったとたん、抱きついて来たのは若林くんの方だった。
「ちょっと、若林くん!」
「はは、つい、な」
好きな相手が腕を広げていたら、抱きつきたくなるだろう!?と当然のように言う若林くんに、僕は若林くんの背中に腕を回した。僕だって、異論があるわけじゃないんだ。ただ、そのスキンシップは僕にはハードルが高いだけで。
「まあ、二人っきりだしね」
「そうだろ?」
合宿では触れ合うことも難しい。試合前の緊張で、また試合後の昂ぶりでお互いが欲しくなっても、叶わない。
「ご褒美の前借りだな」
若林くんの言葉に、闘争心と一緒に愛しさが沸き上がるのを感じた。


 そう言って笑い合ったのは、ずいぶん前のことのように思えた。勝利の喜びを分かち合うことすら、人前では気が引ける。だから、若林くんが会いたいと言ってくれて、嬉しくて仕方がない自分にもため息が出た。いつもは恥ずかしい「ただいまのハグ」が待ち遠しいなんて…困っちゃう。こうやって、何度も何度も思い知らされる。君に会える喜び。君といる幸せ。
「じゃあ、お帰り、若林くん」
「ただいま、岬」

(おわり)

拍手ありがとうございます。
ワールドユース編で南葛の町にいる若林くんを見たら、つい書いてしまいました。
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