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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
『うまく言えないけれど』
おりょう様が岬くんのお誕生日記念のお話を送って下さいましたので、公開します。
5月初頭に送って下さったのに、私が寝込んでいて、公開が遅れてしまいました。すみませんでした。


Message body

『ごめん、今年は会いに行けそうにない』

部活中に届いたメールを何度も読み、岬は「しかたないか…」と息をついた。
ただ今午後八時。ドイツはサマータイム真っ只中なので、恋人はおそらく昼ごはんを食べ終えてのんびりしているだろう。
携帯を耳に当て、目を伏せて。
1コールで呼び出し音が途切れて。

『…岬』
強ばっていた頬が、ふにゅっと緩んだ。

『ごめん』と何度も何度も詫びる若林に、『大丈夫』と何度も何度も繰り返し伝える。おおよそ会話にならない会話をして、最後に『愛してる』と言われて照れながら電話を終えた。
岬は携帯電話を机上に置き、額に手を当てた。応えられない自分を責めるように。

誕生日を一緒に過ごせないことを、平気と言えば嘘になる。
様々なイベントひしめく五月五日は、若林と出会い恋に落ち、想いを共鳴するようになってから、『ふたりの特別な日』となったから。


ゴールデンウィークに入っても、南葛高校サッカー部は部活動に明け暮れる。
去年の夏大会で、日向率いる東邦学園に負けた。その雪辱を晴らすためには、休んでなどいられない。東邦を倒し、全国制覇をするために、彼らは毎日毎日汗や泥を散らしながら駆け回っている。そして、翼の抜けた穴を埋めるべく、更なるレベルアップを目指して。
もちろん祝日の今日も部活動に励んでいる。しかし、大型連休という言葉の魅力に抗えるほど彼らは大人ではない。皆口には出さないものの、ほんの一日でいいから休みがほしいと切に思いながら、朝からボールを追いかけていた。

休憩中のことだ。
「…なあ、ここだけの話。…週末休みになるらしいぜ」
井沢が声をひそめ、とっておきの情報を伝達した。どこから仕入れてきたのかわからないが、井沢の情報はいつも信憑性が高いので…。
「え!嘘マジで!?」
「休みあるのか!?」
祝日&ハードな練習のダブルコンボで干からび気味だった部員たちは、水を得た魚のようにおおはしゃぎだ。監督に聞こえぬよう声をひそめた井沢の気配りなどお構いなしで、彼は思わず頭を抱えていた。
岬は彼らに目を向けず、指を折って曜日を呟き、ため息をついた。
「週末…か」
今年は土曜日が六日、日曜日が七日だ。
(やっぱり無理だなあ…)
いっそ自分から会いに行ってしまえと思ったのに。ほんの少しでもいいから、一緒にいたくて。だが休みが確定したわけではなく、確定したとて誕生日を一緒に過ごせる可能性はあまりにも低い。
日常がうまく噛み合わない。
特別な日に、少しでもいいから一緒にいたいのに。

ふと、初めてハンブルクへ行ったときのことを思い出した。
闇雲に探し回り、会えないなんて考えもせず、ただ若林の姿だけを追い求めた自分は、きっと今まででいちばん積極的で、いちばん子供だったのだろう。

あれから少しは大人になったと思う。
携帯電話を持ち、連絡できるようになった。小さな部屋を占拠するほどの贈り物、抱きしめると愛しくなるぬいぐるみの匂い。会えない時間を補うものは、あの頃よりたくさんある。補って、足りなくなって、埋めて…、あの頃よりも大人になる術を覚えた。
でも、恋人はもっと高いところにいる。自分の手で夢を掴み、まだ追い続けているその姿は、いつも眩しく輝いている。

凄く誇らしくて、凄く悔しい。
だから、早く追いつきたい。

誕生日は、岬が若林を追い越すことができる、数少ないもの。恋愛にまで好いた負けたを絡めるのは無粋だとわかっていても、ついつい拘ってしまう。
負けず嫌いで、素直じゃなくて、臆病で、なのに頑固で。
そんな自分をすべて受け止めてくれる、大事な大事なひと。
「…そうだ」
岬は空を見上げた。飾り雲が緩やかに西へ流れる様子を見つめながら、ひとつの決意を胸に秘めた。


-五月五日、午後十時-

~若林くん へ

今日は僕の誕生日です。
君より少しだけお兄さんになりました。
今年もお祝いの電話とたくさんのプレゼントをありがとう。
でもプレゼントで部屋が埋もれちゃいそうだよ。
…なんてね、本当はすごく嬉しい。

今日は素直な気持ちを手紙で伝えます。
笑わないで読んで下さい。

いつも僕のことを大切にしてくれてありがとう。
意地っ張りで素直じゃない僕を、君は優しく受け止めてくれる。
だから、僕は君のそばにいることが、何よりも心地よくて幸せです。
ときどき、幸せすぎて怖くなるくらい。
だけど、若林くんが笑ってくれるだけで、怖さも幸せに変わります。

自分の手で夢を掴んで、掴んだ夢をずっと追い続ける若林くんが、誇らしくもあり悔しくもあります。
そして、君は僕の憧れです。
だから、ずっと『日本が誇る世界一のゴールキーパー』でいてほしい。
僕も必ず追いつくから。

僕は不器用だからうまく言えないけれど、誰よりも君が好きだよ。
たくさん愛をくれる、世界中でただひとりの君が、誰よりも大切なんだ。

本当は、ほんの少しでもいいから、若林くんとふたりで誕生日を過ごしたかった。
僕の素直でわがままな気持ちです。
次の若林くんの誕生日は、一緒に過ごせたらいいなって思います。

いつもありがとう。

岬 太郎~

body

「…ふう」
手紙を書き終えるのに、さほど時間はかからなかった。
いつもは口にできない想いが溢れ、ペンを持つ指が止まらなかった。恥ずかしかったけれど、心から素直な気持ちを認めることができた満足感に、岬は高揚した頬をそっと押さえた。
便箋を丁寧に折り、封筒に入れたところで、ふと顔を上げた。
「そういえば…」
岬は若林から届いたプレゼントボックスを開き、ひとつの箱を取り出した。封を留めるシーリングワックスセットだ。こんなおしゃれなものを使う機会があるのかな、と思っていたが、早くも出番がやってきた。
「さっそく使わせてもらおう」
小さく笑み、机の上に箱を置いたとき。
「…ん?」
今、小さな音がした。
岬は周りを見渡し、最後に箱に目をやり、じっと見つめた。
「……」
ゆっくりと箱を振ると、ほんの僅かだが確かに聞こえた。-紙が擦れる音が。
岬は箱の中身を丁寧に取り出し、台座を外した。
「…これって…」
そこには、丁寧に畳まれた便箋が入っていた。


~岬 へ

誕生日、おめでとう。
この手紙を見てるってことは、プレゼントを使ってくれたのかな。
もし俺のために使ってくれたなら、とても嬉しい。

だけど、岬の誕生日を一緒に過ごせなくて、淋しくてたまらない。
どれだけプレゼントを贈っても、電話やメールをしても、特別な日を一緒に過ごせないのは凄く残念で悔しいんだ。
俺もまだまだ子供だよな。

そんな俺だけど、岬と出会ってたくさんの喜びや幸せを感じるようになった。
今まで見えなかった感覚も、触れなかった感覚も、岬が教えてくれた。
ひとりでいる淋しさは、次に会えるときの幸せが埋め尽くしてくれる。そして、岬はもっとたくさんの幸せを俺にくれる。
岬がいること、岬といることが、俺にとっていちばんの幸せで、唯一の安らぎなんだ。
だから、笑ったり怒ったり、泣いたり拗ねたり、かわいく恥ずかしがったり…、もっといろんな岬を見たい。
いつだって傍にいる。
ずっと、愛している。

本当はもっとたくさん会いたい。
だから、できる限り会いに行くよ。
そのときは、いつもみたいに呆れながら笑ってほしい。
いつも、岬らしくいてほしい。

最後に。
生まれてきてくれた岬へ。
岬を生んでくれたご両親へ。
心から感謝を込めて。

若林 源三~


「…っ……」
手紙を握りしめ、岬は顔を歪ませた。
心がひどく苦しい。きっと、心が泣いている。
若林からの手紙は、まっすぐな言葉たちで溢れていた。若林らしい、強く優しい字で。
「若林…くん……」
遠く離れた恋人を呼ぶ。
「会いたいよ…」
素直な涙が、ひとつ、零れた。

岬は涙を拭った手で携帯を取り、コールボタンを押した。
若林が忙しい合間を縫って電話をくれてから、さほど時間は経っていない。心配性な恋人は、きっと『どうしたんだ?』と不安げに聞くのだろう。

無機質な音は1コールで途切れた。

『もしもし、岬?』
声が聞こえた。
『岬?どうしたんだ?』
電話越しに。
そして、-薄い窓越しに。

岬は携帯を握りしめたまま、窓を開けた。
「……なんで…」
そして、すぐに携帯を手放し部屋を飛び出した。サンダルを引っかけるのももどかしく、息を切らしてアパートの廊下を駆けた。

今、目の前にいる。
恋い焦がれた、愛しいひとが。

「若林くん…っ」

岬は脇目も触れずに大好きな胸の中に飛び込んだ。
午後十一時。ふたりひとつの影が、月明かりに照らされた。


うまく言えないけれど、ずっと好きでいたい。
うまくできないけれど、ずっと傍にいたい。
淋しさもつらさも、あたたかな胸の中で幸せに変わり、埋め尽くされるから。
泉のように溢れる想いも、全部包み込んでくれるから。

「…会いたかった」

素直な言葉が、ひとつ、零れた。


-会えないなんて、無理だよな。
-誕生日おめでとう、岬。

(おわり)

おりょう様、早々にお送りいただいていたにも関わらず、公開が遅くなってしまって、本当に申し訳ありません。
素敵なお話をありがとうございました。
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