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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
もう少し抱いていて。
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。


 出発の時間は近付き、岬は息をついた。

 再会してから、若林はいつも別れ際に見送ってくれる。
「見送られるのって、苦手なんだ」
そう断ろうとした岬に、若林は笑って言った。
「じゃあ、苦手じゃなくなるまで、練習しようぜ」
そう言われては断れない。駅のプラットホームで見送られるのが毎回になった。

「若林くん、今日はここで良いよ」
ホームへ向かう階段の手前で岬は声をかけた。別れを言おうと振り向いた岬の肩を、若林はその大きな手で掴む。
「俺が送りたいんだ」
見上げるほどの身長差がある。同い年とはいえ、体格差は大きく、壁際に追いやられてしまうと、完全に道を塞がれる形になる。
「…どうかしたのか?」
逆光になって、若林の表情は見えないものの、ひどく優しい口調の問い掛けに、岬は若林を見上げた。
「これ以上、見送られることに慣れたくないんだ。いつ来られなくなるか分からないから」
そう話す岬の顔は僅かに青ざめているように見えて、若林は思わず息を飲んだ。
 岬はなかなか心を開かない。誰をも歓迎しているようで、誰にも心の中まで立ち入らせない。一旦その奥に入れてしまった相手は、ずっと忘れられない、岬はそんな性格だ。
「見送る位許してくれよ。俺は、お前が帰るのも我慢してるんだぞ」
「ふふ、何だよ、それ」
岬の扉の奥までこじ開けて、岬と愛し合いたい。若林の願望に満ちた口説き文句さえ、岬は時々気付かないふりをする。
「岬」
「わ…」
壁に押し付けるように腕をまわし、強く抱きしめた若林に、岬は若林の名前を呼びかけてやめた。
 好きだとか離れたくないと言われてはいたが、こんな風に抱きしめられたことはなかった。強い腕は熱くて、もうすっかり大人になった男の匂いがした。
「好きなんだ」
振り払うには力の差がある。だが、それがなくてもきっと振り払うことはできない。岬は若林の背中に手を伸ばした。
 おとなしそうに見えても、岬は頑固で、人に心の扉を開かれるのはあまり好きではない。それでも、若林が扉をこじ開けるのは、嫌ではなかった。
 自分が本当は望んでいることを、若林は見逃さずに、岬の閉じた扉をこじ開けてくれるから。
「お願い、もう少し抱いていて」
腕の中で目を閉じた岬に、若林は自分の鼓動が一層激しくなるのを感じた。腕の中の岬に、どれだけ自分が岬を想っているのか、伝わってしまえば良い。
「離さないぞ」
いつも岬を見送る度に、その細い背中を抱きしめたいと思っていた。そして、一度抱きしめたからには、離したくはない。このまま岬をさらってしまいたいと思った。

(おわり)

拍手ありがとうございます。
スタンダードなのを書きたくなりました。
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