※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 「ここって9階なんだよね」 岬は病室の窓の外を眺めて口にした。妙に白い病室の壁のせいか、顔色も悪いように見える。 「岬に会える楽しみで覚えていない」 そう答えると、岬は妙な表情をした。この部屋が9階なのは聞いて来た。エレベーターで9階のボタンを押した覚えもある。ただ、エレベーターを待つ間も、乗り込んでからも、ずっと岬のことを考え続けて、やたらと長く感じた。 「もう、若林くんは相変わらずだね」 くすぐったがる時のように、笑った口に、少し寄せられた眉。ああ、我慢してるな。そう思った。 「寂しくなかったか?」 ベッドの隣の椅子に腰掛けて、岬の髪に手を伸ばした。相変わらずさらさらの髪に、小さな頭をそのまま抱き込む。 「ちょっ…と、苦しいよ、若林くん!」 胸に押し付けた岬が暴れるが、俺は気にすることもなく、もたれ掛かる岬の頭を撫でた。
「ここは本当に景色が良いよね」 抱きしめた腕の中、岬は静かに話す。 気を遣わせたくない気持ちも分かる。だから俺も気を遣わないふりをして、ただ抱きしめた。 聡い岬のことだから、俺の行動の意味くらい分かっているだろう。さっきまで顔を伏せて、きっとじっと耐えていた。 「ああ。良い眺めだ」 殺風景な部屋だけに、余計に窓が大きく見えて、随分遠くまで見渡せる。今日は晴れている分、くっきり浮き上がるような遠くの山並みが目に心地よい。 「…富士山が見たいな」 ぽつりと呟いた岬に、胸を締め付けられる気がした。岬はいつも、自分には故郷がないと言っていた。俺がうらやましいとも。そうして入院した岬が思い描いた風景が富士山だったのは、南葛が岬の心の故郷になった証だと思う。 「岬、翼達がお前のために富士山に登ったんだぞ」 「若林くんは…その腕じゃ無理だよね」 父親と山を登った経験もある岬は、俺の腕を見て納得した様子だった。翼は、岬が会いに来てほしくないという気持ちを察して、岬の代わりに富士山に登ることを提案した。俺は腕の怪我もあって、登山は断念せざるを得なかった。だが、それがなかったとしても、俺はここまで来たに違いない。 「登る時は、お前と一緒だ」 岬は顔を上げて、俺を振り返った。 「俺が連れて行くから」 願掛けに行くよりは、岬を連れて行きたい。岬がもし歩けなくても、俺が足の代わりになって、一緒に登る。そして、俺達の故郷を見下ろすんだ。 「…ありがとう」 ばら色に頬を染め、微笑む岬を強く抱きしめた。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 9が思い付かなかったので、高層階と富士登山の話を。WY編のみんなの富士登山、あの時若林くんがいなかったのは、岬くんに会いに行ったからだよね、と言いたいだけの話です。
5月休みが取れました。東京行きます。(でも、ほとんど1日だけの滞在なんです…)
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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