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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
二人きり
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。


「まさか、日本を出た後に、友達と会えるとは思ってなかったよ」
俺の目の前で岬は笑った。いつも懐かしい気持ちになる優しい笑顔に、俺もつられて頷く。
「そうだな。日本語で話すのなんか、久しぶりだ」
見上さんが帰国してからは、日常的に日本語を話す機会は少なくなった。家族や日本からの電話がなければ、日本語を忘れてしまいそうだ。
「それだけでも会いに来た甲斐があるね」
岬は相変わらず少し高くて耳に残る穏やかな声に、優しい口調で話す。きれいな声にふさわしくきれいな日本語だ。
「そうだな。会いに来てくれてありがとう。そう言えば、岬は親父さんと一緒なんだよな」
「うん。それに、通っているのも日本人学校だから、同級生も鈴木くんとか田中くんだよ」
「それは良いな!道理できれいな日本語だ」
日本人の名前を聞くのもなかなか嬉しい。修哲サッカー部の連中や翼を除くと、日本人の名前に接する機会すらほとんどない。
「それはありがとう。…ねえ、若林くん、言葉が通じなくて不自由してない?」
気遣うような表情で、岬は俺を覗き込んだ。恐らく岬も苦労したのだろう。そんな様子が見て取れた。
「俺の方は、出発まで時間があったからな。少しは勉強して来たんだ。それにもう慣れたぜ」
さっき聞いた岬の話では、岬は母親に預けられる予定だったという。急に来たとなれば、相当大変だったのだろう。
「さすがは若林くん」
岬の笑顔を見ると、花が開いたような気がする。待ち望んで、見ることのできた花を。あまり見すぎないように、話を逸らせた。
「そう言えば、友達と二人で話すこと自体、あまりなかったな」
たいてい一人かみんなが一緒だった。翼とは時々二人で話すことがあったが、それ位だ。
「それはよく分かるよ」
岬はくすくすと声を立てて笑った。その笑う様子はやっぱり可愛くて、もう少し笑わせたいと思う。

 最初に会った時から、岬は可愛くて、気になる存在だった。サッカーがうまいのを知ると、更に気になって、話すようになって余計に気になった。
「何が面白いんだ?」
「ううん、若林くんらしいな、と思って」
明るく笑う岬と、話す俺を、周囲は離れて見ている。二人の会話は、誰にも分からない。
 そう思うと、急にドキドキしてきた。ほとんど日本人に会うことのないこの街で、二人っきりの会話だ。
「岬」
「なに?」
ベンチの隙間を埋めるように、岬に近付いた。岬が動くと、柔らかい髪が揺れる。あの髪はきっと、良い匂いがする。
「こうして話していても、俺の話が分かるのはお前だけなんだよな」
「うん、そうだよね。こんなに広いのに」
周囲を見渡す岬の方に腕をついて、体を傾けた。半身分近付いたところで、岬に告げる。
「好きだ」
「えっ!?」
驚く岬に「繰り返そうか?」と尋ねると、岬は小さく首を振った。顔が真っ赤になっているから、どうやら聞こえていたようだ。
「いきなり、こんなところで…」
「誰も聞いてないぜ」
俺の反論に、岬は俺を見返した。思ったより距離は近付いていて、岬の目は記憶にあるよりも茶色くて、甘い色だと思った。
「俺とお前と二人きりだ」
周囲に飛び交っていたドイツ語もいつの間にか遠ざかって、世界に二人きりのような錯覚に陥った。

(おわり)

拍手ありがとうございます。
異国の街で二人。何か良いですよね。
ちょっと仕事がきつくて、風邪をこじらせました。動くのもしんどいので、横になって…なのに、書いてしまっています。
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