※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 夏に成り切らない季節に現れた岬は、若林の記憶にある姿とそう印象が変わらないままだった。
優しい声で、サッカー仲間には珍しい穏やかな口調で話す岬に、若林の心はざわめいた。あまり周囲にはいないタイプの人間で、強さを誇示する訳ではなく、見た目はむしろ弱そうなのに、心の強さと賢さで一目置かれる岬は、若林にとっても頼りになる存在だった。それだけに、3年前の決勝戦で肩を抱いた時に、そのあまりの華奢さに驚いた。強く抱いたら壊れそうな小さな体で、ゴールを守ってくれたと思うと、じんわりと胸に暖かいものが満ちた。 きっとそれは、恋だったのだと若林は思う。限界まで水を入れたコップに水を足したように、溢れた想いだった。
「それにしても、岬は随分背が伸びたよな」 一緒にボールを追った後、若林の家に向かった。すぐに帰るのは大変だからと若林が引き止め、宿の提供を申し出た結果である。 あの時に比べれば、岬は随分背が伸びた。顔の位置が近付いたように思えて、若林はそう口にした。 「ありがとう。若林くんこそ、また大きくなったね」 男なら誰でも憧れる見事な筋肉に、いっそう大人っぽくなった整った顔がついている。 岬としては随分背が伸びたつもりだが、3年前と目線の位置はそう変わっていない。 「今身長どれくらい?」 尋ねた岬に、若林はうろ覚えの数値を答える。 「170センチ…だったと思う」 それは有り得ない数値だと岬は思った。先日測った岬の身長は165センチだった。身長にコンプレックスのある自分が覚え違いをすることはない。身長にも無頓着な若林に、呆れる半面少しうらやましく思った。 「まだまだ伸びそうで、うらやましいよ」 「ゴールを守るのには、大きいに越したことはないな」 『5センチ』にしては随分見上げる角度で、岬は微笑む。若林は変わらない。どこにいても、大木のようにどっしりと根を張り、自然体でそこにいる。5センチには思えない差も、気にならないのだろう。 「岬は背が伸びても印象変わらないな。細くて可愛くて」 声に出してから、しまったという表情で口を押さえた若林に、岬は困ったような笑みを浮かべた。 「そのうち、追いつくよ」 背は伸びても、岬の印象は変わらないだろうと若林は思う。細く華奢な体で、強い心で戦う岬の姿に、きっとまた心を捕らえられる。 「追いつかれると思うか?」 若林の少し感情的でムキになったような口調と、やや子供っぽい反論に、岬は笑い声を立てた。 「若林くんこそ、変わらないね」 3年も経ってから友達と再会したのは初めてのことで、変わっていないこと、がこんなに嬉しいとは思わなかった。はしゃいでいるように見える若林もおそらく同じなのだろう、と岬は思った。
その誤解がとけるのは、少し先のことになる。身長差がキスにちょうど良い、と気が付くのも。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 小学生時代は15センチ、中学生時代は5センチの身長差なのですが、これ5センチの差じゃないですよね? 若林くんの数値がきっと何かの間違いじゃないかと。 という記事を作ったら、書きたくなったので。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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