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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
『メッセージカード』
おりょうさまより、若島津くんのお誕生日話をいただきましたので、掲載させていただきます。

日向さんとの距離は、いつだって心地よい。

学校も部活も一緒に行動、寮は同室、加えて幼なじみときている。昔と変わらないポジションをずっとキープしているから、きっと心地いいんだと思う。
『熟年夫婦』とどこかのバカが宣っていたけれど、いい得て妙な言葉かもしれない。お互いに傍にいるのが当然で、変な言い方をすれば『空気感』。いろんなことを誰よりも多くを共有していれば、自ずとこうなるのだろう。
俺が日向さんの好む距離を取り続けた結果、まさしく熟年夫婦のような関係になった。

そんな日向さんは、ことあるごとに俺に話をしてくる。『報連相』をきちっとこなすのはいいことだけど、このひとの話は大抵が心底どうでもいいことだ。この間はカレーの肉が少ないと捲し立てていた。
だけど、ごく稀に重要な話が飛び出す。
その類いの話を口にする日向さんは、伝えたいことを纏めきれず、何を言っているのか自分でもわからなくなることが多い。基本的には直感で生きるひとだ。ややこしい話をし始めると混乱し、最終的には自分にキレる。だけど俺には言いたいことが伝わるから、何も問題ない。
日向さんの話がどうでもいいものか重要なものかは、眉間を見ればすぐにわかる。そうでなくても、俺はこのひとの考えていることなど簡単に見透かせる自信があるけれど。

…どうやら今日は後者のようだ。

「…いつまで黙ってるんですか?」
「……」
風呂上がりに声をかけられてから、おおよそ五分。日向さんは眉間にありったけのシワを寄せたまま、ずっと口ごもっている。
「…言えないならいいですよ。話す気になったら教えてください」
俺は半乾きの髪を指で整え、布団に潜り込んだ。
俺たちは明日から地元に帰って、各々の実家で年末年始を過ごす。といっても、半分くらいは一緒に過ごしているだろう。でも今言いたいみたいだ。

なら言えばいいのに。
怖じ気づくなんて、あんたには似合わない。

肝心なところでたたらを踏むらしくない姿は気になれど、無理に聞くのは好きじゃない。それに明日の始発列車に乗るために、さっさと寝なければ。
「俺、先に寝ますね」
「あ!?おい!ちょっと待て!」
「いや、ずいぶん待ちましたけど」
「そうじゃなくて!……」
ずい。
「なんですか?」
俺は上体を起こしながら、差し出されたものを見た。そして日向さんの顔も。
「…誕生日…だろうが。だから…プレゼント…」
ラッピング袋を突きつける日向さんは、照れを越して阿修羅のような顔をしていた。

…ああ、そういえば今日は誕生日だった。

一昨日部活仲間からデカいケーキを振る舞われたことを思い出した。反町のバカがケーキに顔を押しつけたせいで、その晩ケーキの海に溺れる夢を見たんだった。次の日には大部分の連中が帰省するから、一昨日だったらしい。
普段から自分の誕生日を意識する習慣がないので、今日も実感なく過ごしていた。寮に残る連中も殆どいなかったから、尚更存在を忘れていた。
そんな中、いちばん想定していなかった、日向さんからのプレゼント。
「…おい、なんか反応しろ」
「…ああ、すいません。ありがとうございます」
小ぶりなプレゼントを受け取ると、小さなメッセージカードがリボンに通されていた。
「早く開けてみろよ」
先ほどの照れはどこへやら、日向さんはいつもの不遜な口調で開封を促した。俺はリボンをほどき、袋の中に手を入れ、小さな小箱を取り出した。
うわ…、日向さんがワクワクしてる。
俺は小箱を開封して、プレゼントを目にした。
「…これ、俺に?」
「ああ。お前に似合いそうだったから」
俺の指先に絡むプレゼントを眺めながら、ご機嫌な日向さん。
「あんたが選んだんですか…?」
「…悪ぃかよ」
「いえ…、嬉しいです。ありがとうございます」
俺はプレゼントをかざした。シンプルなチェーンと、これまたシンプルなターコイズのチャームが通された、ネックレスだ。
「趣味、よくなりましたね」
「お前、さりげなく失礼だな」
日向さんは文句を言いつつ満足そうに笑った。

そして年末年始を実家で過ごした。
年始のお参りを始め、やっぱり日向さんと過ごす時間が多かった。

三が日が過ぎ、東京に戻った俺は都内で意外な人物と会っていた。
「そのネックレス、どうしたの?」
意外な人物…岬が俺の首にかかっているネックレスについて問いかけた。目敏くも干渉をしない岬が口にするほどだ、けっこう目立つんだろうな。
日向さんからの誕生日プレゼントだと告げると、岬は意味ありげに目を細めた。こいつに隠し立ては通用しない。この際だからと、俺も気にかけていたことを口にした。
「これ…、本当に日向さんが選んだと思うか?」
「…どうして?」
「いや、あのひとはこの手のものには疎いだろ?もしかしたら他の連中も一緒に…とか考えちゃってさ」
岬は俺の言葉をじっと聞き、ふわりと微笑んだ。
「それ、小次郎が自分で選んだと思うな」
「そう思うのか?」
「うん。だって、すごく似合ってるから」
岬はニコリと微笑んだ。
「…そうか。お前が言うなら確かだな」
岬の言葉で、胸の中のもやもやが霧散して、あたたかな気持ちが沸き上がってきた。
日向さんがひとりで懸命に選んでくれたと思うと無性に嬉しい。きっと店員がビビるくらい必死の形相で買ってくれたんだろう、そんな微笑ましい姿がようやく想像できた。
俺は指先でチャームに触れ、安堵の息をついた。

俺がそうであるように、日向さんは誰よりも俺のことをわかってくれるんだ。

「…おい、何仲良く日和ってるんだ?」
と、そこへ現れるは俺の最大のライバルにして、岬の恋人(男)。
「日和ってるなんて失礼だなあ。若林くんが東京で用事があるからって、僕まで連れてきたくせに。だから若島津がわざわざ相手してくれてるんだけど」
岬…、ジェラシーモードの若林にそんな理由は通用しないぞ。それと俺の味方をするな、俺が標的になるだろ。案の定若林は腑に落ちない顔つきで、思いっきり俺を睨んでいる。
「…ん?なんだお前、洒落たネックレスしてるな」
「小次郎からのプレゼントだって。仲良しだよね」
「…岬、今から指輪買いに行くぞ」
言うや否や、若林は岬の腕を引き、財布から紙幣を何枚か取り出してテーブルに置いた。…明らかに枚数が多い。あいつなりの謝礼だと思うことにして、俺はふたりが店を出ていくのを見届けた。

寮に帰った俺は、ネックレスを小箱に収めた。日向さんは明日の夜帰ってくるから、今は俺ひとりだ。
机の上に小箱を戻して、その横に飾ってある小さなメッセージカードを眺めた。
『Thank You』
本当は、この言葉がいちばん嬉しかった。もちろん日向さんの気持ちもプレゼントも嬉しいけれど、この言葉は何よりも心打たれた。
「どういたしまして」
直接言うのも言われるのも性に合わないだろう。俺は日向さんの気持ちのこもったメッセージカードに向かって、静かに告げた。


若島津くん、生誕おめでとう!!

(おわり)

おりょうさま、いつもありがとうございます。
大好きな二人ですが、自分で書くことはあまりありませんので、新鮮な気持ちで拝見しました。
やっぱり若島津くんにとっての一番のプレゼントは日向くんの気持ちなんですねえ。
そして、どこかのバカではありませんが、『熟年夫婦』だなあと思いました。熟年夫婦風なのにできていない二人と、新婚夫婦っぽいのに、長く付き合っているであろう二人との対比が楽しい。
直接感謝を言わない、昔ながらの頑固おやじのような、けれども若島津くんを大事に思っていることが伝わって来る日向くんに対し、ちゃんと理解して「どういたしまして」と受ける若島津くんの在り方もとても素敵だと思いました。
おりょうさま、ステキなお話をどうもありがとうございました。
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