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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
『Music Box』
おりょうさまから、クリスマスのお話をいただきましたので、本日明日とアップさせていただきます。


ふたりで過ごした、初めてのクリスマスのお話。


若林が自信満々で手渡したクリスマスプレゼントは、淡い茶色の木彫り箱。横にゼンマイのネジがついていて、岬はすぐにオルゴールだとわかった。
「ありがとう。嬉しい」
岬は淡雪のような頬を桃色に染めて、柔らかく微笑んだ。

岬のためにプレゼントを選ぶのは楽しい。
喜んだり困ったり、笑ったり怒ったり…。様々な表情を見ているだけで、若林も楽しくなる。すぐにプレゼントをしたがる恋人を『贈り魔』と揶揄しながら、岬は受け取ってくれる。どんな品でも、若林は岬のことを思いながら選ぶのを知っているからだ。
恋人として迎える初めてのクリスマスも、とびっきりの品を選んだ。馴染みの骨董屋の埃っぽい棚に置かれていたのだが、若林がそれを選んだのにはわけがあった。

「この音、岬の声によく似てるんだ」

岬はきょとんとしている。
「僕の声に似てる…?」
「まあ、聞いてみてくれよ」
「あ、うん」
岬がネジを回す姿を見ながら、若林は知らず知らず固唾を飲んだ。アナログなゼンマイの音が、やけに緊張感を演出する。
やがてネジが回らなくなり、岬はそっと指を離した。
透明な音色は少しだけ掠れていて、まるで囁くように音を奏でている。
「キレイな音色だね…」
「だろ?」
岬の言葉に内心安堵する。そして、やはり岬の声に似ていると感じた。奏でられる曲はわからないが、まるで岬が歌っているかのようだ。
だからこの品を選んだ。繊細な木彫りの模様も岬と重なって、目が離せなくなった。手に取った瞬間から、手放せなくなった。
やがてオルゴールの音色はスローテンポになり、静かに止まった。岬は木彫り箱をキュッと抱きしめ、もう一度『ありがとう』と言った。
嬉しそうな、泣きそうな、幸せそうな笑みを浮かべて。

それから岬はオルゴールを鳴らしたり、木彫り模様を撫でたりしていた。せっかく用意したカフェオレは冷めてしまい、ケーキも進んでいない。
「なあ岬、俺淋しいんだけど」
「え?なんで?」
「オルゴールばっか相手にしてる」
「ものに妬いてどうするんだよ…」
岬は苦笑しながらオルゴールから手を離し、カフェオレを口にした。
「でも珍しいよね。若林くんがこういうプレゼントをくれるなんて」
「そうかもしれないな。いちばんの理由は音色だったけど、岬は音楽を聞くのが好きだから喜ぶと思ったんだ。それに音にも敏感だろ?」
「んー…、確かに店で流れてる音楽を聞くのは好きだし、いろんな音を聞くのも好きだね。だから若林くんのプレゼント、すっごく嬉しいんだ」
岬は猫のように目を細めて若林の肩に凭れかかった。甘い匂いに誘惑される。
が、若林が腕を伸ばす前に岬が口を開いた。
「…そういえば、このクリスマスソング、聞いたことないなあ…」
岬はオーディオコンポに目を向けながら呟いた。
「ああ、これは皇帝様のコネクションを使って作ってもらったんだ。岬をイメージした、オリジナルクリスマスCDだぞ」
「…なるほど…」
岬の脳内で、しょっぱい顔をしながら『バカップルには付き合いきれん』とぼやいているシュナイダーの姿が目に浮かび、思わず笑みが零れた。
「…これ、来年も聞きたいな」
「ああ。来年も再来年も、ずっと一緒に聞こう」
こめかみに口づけながら囁くと、岬は肩を竦めながら目を閉じた。

外に出たいと岬が言ったので、外へ出た。
寒空の下、寄り添って、ゆっくりと歩く。クリスマスのあたたかな明かりが目に映り、子供たちのかわいい笑い声や歌声が聞こえた。
雲の隙間からほんのりと月明かりが見えたとき、岬が徐に口を開いた。

『I am with you in the sky now.
The moon is like lighting,
the stars are like audience.
Even a little bit, please take me.
Please take me to a high place...』

それは、ほんの小さな歌声だった。

「今のって、…オルゴールの歌だよな?」
「うん。気になってたんだけど、やっと思い出せた。父さんが好きな映画の歌だったんだ」
「そうか。…そういえば、親父さんをひとりきりにしちまったな」
若林の口調はあまり悪びれていない。岬はクスッと笑い、「平気だよ」と答えた。
「毎年クリスマスはスケッチに出てるから」
「…じゃあお前はずっとひとりだったのか?」
「そうだね、ずっとひとりだった」
岬は一度口をつぐみ、若林の掌を優しく握った。
「だから、今年は特別に嬉しい。だけど、照れるね」
華奢な掌は氷のように冷たい。若林はその手を包み、腕を引いて抱き寄せた。
「ああ。照れるけど、それ以上に嬉しいな」
岬は何も言わず、小さく頷いた。若林は包んだままの掌をコートのポケットに入れ、ただひとつの掌を優しくあたためた。

「そろそろ帰ろっか」
「ああ。…なあ、もう一回歌ってくれないか?」
オルゴールの音のような歌声を、もう一度聞きたい。
「嫌だよ。歌うのは苦手なんだ」
「なんでだよ?うまかったぜ?」
「嫌なものは嫌なんだよ」
若林の手を引く岬の頬に差す朱色は、明かりよりも遥かに色鮮やかだ。
「…気が向いたら歌ってあげる」
岬は振り向き、背伸びをしてキスをした。突然の愛情表現に驚いたが、すぐに目を閉じて受け入れる。
少しだけ、時間が止まった。

「岬の気が向いたらは、当てにならないんだよな…」
「じゃあ、もっと高いところへ連れてって。そうしたらまた歌ってあげるから」
岬は真剣に、だがひどく甘い声色で答えた。真意を汲み取った若林は、力強く頷いた。
「約束する」
「よろしくね」
その約束はふたりのため、そして追い続けている未来のため。

………

「…この音聞くと、あのときのクリスマスを思い出すな」
オルゴールの音を聞きながら、若林はワイングラスを揺らした。腕の中にいる岬は苦笑しながら木彫り箱を見つめている。
「あとCDも。シュナイダーに小言言われたことまで思い出すよ」
「そういえばグチグチ言ってたな。…なあ、あのときの約束、覚えてるだろ?」
「もちろん」
「じゃあ歌ってくれよ」
岬は逡巡し、「オルゴールの曲?それとも国歌?」と尋ねた。
若林が「両方」と答えると、岬はオルゴールをテーブルに置き、身体を反転させた。しなやかな身体を寄せ、耳元で音色を奏でた。

「じゃあ、これからも高いところへ連れてってよね」

(おわり)

おりょうさま、いつもありがとうございます。
二人の初めてのクリスマスのお話、初々しくて可愛いです。
岬くんの声に似たオルゴールに、岬くんが静かに口ずさむクリスマスソングが重なって、夜の静かさが一層際立つように思いました。
初めてのクリスマスなのに、浮かれた感じではなく、しみじみとただ側にいるような二人が素敵です。
おりょうさま、素敵なお話を本当にありがとうございました。
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