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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
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※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。

「大丈夫なの?」
尋ねる岬に、若林はああ、と短く返答した。
「肩の調子が良くないから、少し休むことになったんだ。それでクリスマス休暇ついでに家に帰れって言われてな」
若林はこれまでほとんど帰国することはなかった。真面目で意志の固い若林らしいことだが、周囲が心配するのも無理はない。
「無理はしちゃだめだよ。…会えるのは嬉しいけど」
小さな声で付け足した岬に、会いたい気持ちがたちまち膨れ上がった若林は、電話越しの会話のもどかしさに焦れる。
「会った時も、それちゃんと言ってくれよ!」
「えっ?」
自分が若林の心を揺らしたことに自覚のない岬に、若林はため息をつく。可愛い恋人は、自分がいかに相手の心をかき乱すか無自覚で、無慈悲だ。後は会った時の楽しみにするとして、若林は話題を変えた。
「もうクリスマスだろ?ケーキ買って行くぜ。どういうのが好きなんだ?」
会うのはちょうどクリスマスシーズン。日本人の二人でも、岬がフランスにいた頃は、クリスマスを一緒に過ごしたことがあった。そして、明日はクリスマス。
「ブッシュ・ド・ノエルが食べたいけど…どこで買うの?来るの25日だったら、あまり売ってないだろうし、見つからなかったら、他のケーキで良いよ」
なかなか欲しいものを言わない岬だから、たまにねだられた時には、どうしても与えたくなる。岬ケーキの好みが予変わっていないことに安堵して、若林は歩き出した。

「えっ…」
突然姿を見せた若林に、岬は声も出ない様子だった。まだ出発していないようなことを言っておきながら、電話を切ってから10分も経っていない。
「たまには、お前を見習って、フェイントを使おうかと思って」
言葉にならない様子の岬の肩を抱いて、若林は囁く。真っ赤になった岬から与えられたのは、抱擁ではなく、思い切った「つーん」だったが、「感情をあらわにする岬」にも慣れた若林にはさほど気にならない。むしろ、色の白い岬の耳元から首筋にかけてまで、赤く染まっているのが目に付く。
「家にも寄らずに、まっすぐ来たんだぜ。ほら、ブッシュ・ド・ノエルも持って来た」
悪びれることなく続ける若林に、岬も意地を張り通せずに、困った表情を浮かべた。どうせ、敵わない。
「どこで買って来たの?」
「国際ホテル」
南葛市随一のホテルの名前を挙げ、若林はさっさと手渡す体勢に入った。
「ありがとう」
結局、折れるのは自分だと岬は知っている。若林の想いを受け入れた日から、ずっとそうだった。
「寒かった?とりあえず、お茶入れるよ」
岬はそう言って背を向けたものの、ケーキを冷蔵庫にしまった途端に、抱きしめられた。
「ここはあったかいな」
ドイツに比べると、静岡は南葛の寒さなんて知れている。それでも、岬に会った途端、若林は暖かさを感じた。
「うん、こっちに戻って来て、そう思った」
岬がドイツで過ごしたクリスマスは、ほとんど雪の中だった。部屋の中から眺める雪の町は、あまり寒さを感じさせなかった。この腕が守ってくれる限り、いつもそう思えた。
「どこか行く?」
「親父さんは?」
質問はほぼ同時で、それだけで相手の意図は知れる。
「じゃあ、家で過ごそうぜ」
案の定言い出した若林に、岬は小さくため息をつく。父親が出かけていなければ、外出していたところだが、若林はそれでも言ったに違いない。
「俺の家のイルミネーション見に行こうぜ」
それはそのまま部屋に閉じ込められるコースで、岬は選びたくはない。
「…分かったよ」

 和洋折衷と言えば聞こえが良いが、節操のない造りだと若林自身思っている実家にはコタツはなく、若林はもの珍しそうに入った。小さなコタツ卓を囲めば距離は近くて、隣に座る岬の手を握ることも簡単そうだ。お茶とコタツで温まった若林が手招きするのを横目に、岬はプレゼントの袋を出すまで、コタツに入ることはなかった。
 幸いクリスマスプレゼントはまだ送れずにいた。冬はサッカー部の岬には忙しいシーズンで、当然送るつもりではあった。
「まさか手渡しできるとは思わなかった」
ごく小さな声で呟く岬に、若林は来て良かったと、また思うのだった。プレゼントを送る時の虚しさは知っている。選ぶ時の高揚は消え、会えないことばかりを思い知る。
「俺も」
手袋にマフラーと、お互い寒い時期なのを改めて感じさせるような贈り物になってしまった。それでも、セーターの上から貰ったばかりのマフラーを巻いてみせる岬に、若林も手袋をはめた手を伸ばす。
「すごく似合うな」
「ありがとう。本当に暖かいよ、これ」
手触りもよくて、暖かいのに軽いマフラーは、恐らく高価なものだ。問い詰めても白状しないだろう若林に、岬はそっと視線を走らせた。赤と黒の派手な手袋は、若林にはよく似合う。明らかにサイズの違う上、岬には似合うとは言えない手袋に、店員は不思議そうな顔をしたが、岬の見立て通り、若林にはよく似合う。逆に、岬に似合うチェックのマフラーは、若林にはお世辞にも似合いそうにない。
「若林くんも、思った通りよく似合うね」
「こちらこそありがとうな。これなら、ユニフォームとも合いそうだぜ」
笑う若林に、直接渡せて良かった、と 岬は顔を綻ばせる。お互い似合うものが分かる程、付き合いは長い。それでも、プレゼントを手渡しできる機会はそうない。
「誕生日プレゼントのタオルも良かったし、岬はプレゼント選ぶのうまいな」
12月の誕生日のプレゼントが、サッカー部合同なのは、毎年のことだ。岬の選んだ手触りの良いタオルは、他の部員のプレゼントと一緒に詰められて、若林のところに届いた。
「ありがとう。君の喜びそうなものを考えて…」
言いかけて、岬は口を押さえた。若林に会うのは久しぶりで、いつもは抑えている本音が、つい口を衝いて出て来る。だが、それを聞き逃す若林ではない。
「それを聞けただけで、帰って来た甲斐があったぜ」
こうなったら、若林が止まらないのを、岬はよく知っている。煽るつもりも誘うつもりもなく、何げに口にした自分を悔いるしかない。

 このままでは、クリスマスなのに鍋になるな…と、抱きすくめられた岬は思った。買い物も済んでおらず、買い置きという程の食料もない。

「だめ!」
いきなり若林の腕を振り払い、胸の中から抜け出して、岬は言った。壁の薄いアパートのこと、隣近所を憚って潜めるように話していた岬にしては、思い切った動きである。
「…どうした?」
驚いた若林が顔を上げると、岬は立ち上がって上着を羽織っていた。
「夕飯の買い物行って来る!君が来てるのに、あまり食べるものがないんだよ」
買い置きどころか、ここのところの野菜高騰で、昨日もキノコとモヤシ中心の鍋だった。鶏団子はたくさん作ったし、豆腐と油揚げも入っているが、人に見せたいものではない。
「…分かった。せっかくだから、町も歩こうぜ」
理由まで知らなくても、若林は岬の複雑な表情を読み取った。今すぐにでも岬を堪能したいところだが、ここでご機嫌を取った方が、得策だと経験上知っている。
「ありがとう。せっかくだから、貰ったマフラーもしていくよ」
ダッフルコートに合わせて、リボンのようにマフラーを結ぶと、岬は微笑んだ。
「やっぱり似合うな、それ」
左手には恋人の手を握り、クリスマスの町はいっそう光り輝く。どこかのクリスマスソングのようだと思いながら、若林も笑い返した。

(おわり)

拍手ありがとうございます。
何となく書きました。
忙しい上、また風邪引いて…な状況なので、まとまりないです。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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