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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
arc-en-ciel




 僕は時々、虹を探す。

 雨上がりの、すぐには晴れずにぐずぐずした雲を敷き詰めたような空でも、虹が輝く時がある。

 虹を見ると、雨が上がったのだと実感する。雨はやんで、すべてを照らす陽の光が降り注ぐ。そして、陽の光は僕にも投げかけられる。

 僕は、世間一般的に見て、いわゆる恵まれた子ども、ではない。両親は離婚していて、旅暮らしで、決まった家もない。
 それでも、僕は自分が不幸せだと思ったことはない。父さんはいつも側にいて、僕をちゃんと見てくれている。

 それなのに、僕は時々虹を探してしまう。

 赤橙黄緑青藍紫。虹の色は太陽光線が光の波長ごとに分かれて見えているのだと聞いたことがある。まぶしい白い光が本当はいくつもの色から成り立っていて、そんな目には見えないものを実際に見ることができるのだと知ってから、余計に虹が待ち遠しくなった。
 
 練習が終わって、外に出た途端に、虹が出ていた。確かに、ほんの少し雨は降っていたけれど。
「あ…」
虹を見上げたところで、声を出すのを思いとどまった。この町に来てから、楽しいことばかりだった。新しい出会い、新しいチーム…嬉しいはずなのに、見上げた虹は、何故か目の中でぼやけた。いつか雨は止む。虹はいつか消える。永遠に続くものはなくて、特に僕には、それを望むことすら許されない。
「虹、出てたんだな」
隣で声がして、思わず振り返った。
 斜め後ろにいたのは、若林くんだった。その位置から、多分僕が眺めているのに気付いて、虹を見つけたんだろう。グラウンドの隅だから誰かいるとは思ってなくて、何か呟いたりせずに、良かったと思った。
「うん。きれいだよ」
まだ雲っている灰色の空に、虹が彩りを添える。空が暗い分だけ、虹はよく見えた。
「結構はっきり見えるな」
他のみんなは、いつのまにか外に出ていたみたいで、振り返っても他には誰もいない。そう広くないグラウンドだけど、まるで世界に取り残されて、二人しかいないみたいに思えた。
「岬は虹が好きなのか?」
いつのまにか横に並んで来ていた若林くんが聞いて来た。
「うん。虹って、光の屈折でそこには存在しないのに、こんなにきれいなのがすごいと思って」
実体はないのに、こんなに輝く虹。それを表す言葉を僕は持っていない。
「急に現れて、いつか消えるって分かってるから、余計にきれいに見えるんだろうな。まるでお前みたいに」
若林くんはそう言うと、伸ばした手で虹の曲線をなぞった。
「俺も、好きだ」
力強い若林くんの言葉に、胸が打たれた。それで、気付いた。僕は虹になりたかった。友達の心から、消えない虹に。
 隠したまま、自分でも気付かなかった思いを突かれて、僕は次の言葉が出て来なくなった。
「…虹って、英語だと雨の弓に例えられるんだって」
その代わりに、あたりさわりのないことを口にした。
「でも僕は、空のアーチってフランス語の表現が好きなんだ」
前に本で読んだ時に、光景が目に浮かぶような、とてもきれいな表現だと思った。
「確かに良い表現だな」
若林くんは笑ってくれた。


 若林くんと話したことはそう多くない。同じチームの中でも、グループが違うから、そう話すことはなかった。それでも、その一つ一つが印象的で、忘れられなかった。
 だから、そんな若林くんが隣の国にいると知った途端に、会いたくなった。

 それまで、誰かに自分から会いに行きたいと思ったことはなかった。お別れを言うのが辛くて、逃げ出すように去ることが多かったから、仲が良かった友達ほどバツが悪いし、別れはきっと辛くなる。埼玉から離れて、千葉に住んだ時には、何度も迷った。けれども、やっぱり足は動かなかった。

 その時とは、年も違うけれど、その分距離は遠い。何せ国境を越えるのだから、迷いはした。けれども、すぐに決めた。

 フランスで見上げる虹は、日本で見た時と変わらず、きれいだ。空に架かるアーチ。その言葉通り、薄暗い空を飾るアーチは優美で華麗だ。それなのに、何故か寂しく思えた。

 多分、もう虹は探さない。心の中に架かった、一緒に見た虹ほど、きれいな虹はないから。

 …君にとってもそうだと良いけれど。

(おわり)

拍手ありがとうございます。
先日、「BLタイトルと帯」というユニーク診断を試してみたところ、

「源岬のBL本のタイトルは「もう虹は探さない」で、帯のフレーズは【 君を運命と呼んでいいですか? 】です」
という結果でしたので、書いてみました。(ついでに、本画像も作りました)

…忙しいので、こんな息抜きしかできないのが悲しい。
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