※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。
「これは、何?」 テーブルの上に置かれた花に、できるだけ静かに問いかける。
普段若林くんが花を買って来てくれることはない。前に告白してくれた時には、大輪のバラの花束を持って来てくれたけど、日本男児の若林くんは花屋に入るのは気が進まないらしくて、それが唯一の例外になっている。 しかも、今回はテーブルの上にケーキの箱まで置かれている。僕でも知っている、ひどく値の張る店の箱に、疑念は深まった。 「これが、ドラゴンの餌っていうやつ?」 以前にカルツから聞かされたことがあった。妻の気に障ることをした夫が、ご機嫌取りのために買う花やお菓子のことを、ドラゴンの餌という意味で「DRACHENFUTTER」と呼ぶと。その時は、そんな表現が日本語にはないから、面白いと思っただけだったけど。 いざ、そうなってみると、なかなか複雑な気分だ。 昨夜、若林くんは飲み会に出かけた。学校の同窓会とのことだったので、僕は遠慮して留守番していた。普段、若林くんはお土産を買って来ることもないし、また昨夜特に遅くて迷惑だったということもない。 だから分からない。 「何のことだ?」 若林くんも何故か不思議そうに首を傾げる。 「若林くん、何か僕に怒られるようなことしたんじゃないの?」 僕が尋ねても、若林くんには心当たりもないらしく、やっぱり不思議そうだ。 「だって、このケーキどうして買って来たの?」 「普通のバウムクーヘンだぜ。美味いって聞いたから買って来た」 若林くんは簡単に言ってくれる。結構高い専門店のはずなんだけど。 「でも、花は?」 綺麗な花は、花瓶にきちんと活けられていた。ファンにもらった時でも、花瓶を出して活けるのは僕の仕事のようになっているのに。 「店の隣が花屋で、たまたま見た花束が岬に合う気がして買って来た」 空色に白、アクセントに淡いピンク。確かに、僕のイメージかも知れないけれど。 「他の奴らの話を聞いてたら、土産を買って帰りたくなってな」 そう言って笑った若林くんに、変に勘繰ったことが、恥ずかしくなった。
大体、若林くんは昨日も早く帰って来た。 「お前に早く会いたくなった」 なんて、帰って来るなりベッドに入って来ようとした。 「シャワー位浴びて来てよ」 そう追い払ったのは僕の方で、浮気とかは有り得ないだろう。
そのまま隣に座ると、若林くんは僕の肩に腕を伸ばして来た。 「プレゼントは苦手でも、美味しい物は嫌いじゃないだろ?これ美味しいらしいぜ」 あまり高い物はそれでも気は進まないけど。でも、若林くんが美味しいと聞いて、僕のために買ってくれた気持ちはむげにはできない。 「そうなんだ?ありがとう。じゃあ、切るよ」 「そうだな。後で一緒に食おうぜ」 そう言うと、若林くんはごろんと横になった。飲み会で疲れたのか、僕の膝を枕にする気満々だ。 いつもは重いし動けないしで、邪険にすることもあるけど、今日はそれも気が引けた。確かに、ある意味餌だけど、それは釣った魚のための餌で、大事に思われている証拠。 「こっち、良いよ」 膝を叩くと、若林くんは嬉しそうに笑み崩れて、僕の膝に頭を乗せた。 「今日はサービス良いな」 「美味しい餌に釣られてあげるよ」 髪を撫でると、幸せそうに目を細める笑顔が、何よりのご褒美だ。
結局誰でも愛する者には弱いのだと僕は悟った。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 職場の朝礼で『翻訳できない世界のことば』という本を紹介した方がいて、「DRACHENFUTTER」のことを知りました。源岬を書かなければと思いました。そんな職場の朝。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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